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大公妃候補だけど、堅実に行こうと思います  作者: 瀬尾優梨
書籍化感謝SS(書籍を読む前に履修推奨)

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5分で分かる! 「大公妃候補だけど、堅実に行こうと思います(偽)」

(偽)←ここ大切

 みなさまこんにちは。

 わたくし、テレーゼ・リトハルトと申します。


 我がリトハルト家は、アクラウド公国の侯爵家の名を持ちながらも諸事情により、たいへん貧しい生活を送っております。お父様は領民と共に畑を耕し、お母様はなかなか手入れの行き届かない屋敷を守り、わたくしは四人きょうだいの長女として弟妹たちの未来を確保するべく、内職や家事を行っております。


 結婚なんて、諦めていました。

 弟妹たちが幸せであれば、領民たちの生活が少しでも楽になるなら、それで十分。 


 ところがそんなわたくしの元に、お城の使者がいらっしゃいました。

 近衛騎士だという彼は見上げるほどの高身長にがっしりした体をお持ちですが、優しそうな眼差しをされています。

 そんな彼が告げたのは――貧乏侯爵家の娘であるわたくしが、大公様の花嫁候補に選ばれたという衝撃の言葉でした。


 わたくしは腐っても侯爵家の長女。とはいえデビューもまともにできなかったわたくしが、大公様の花嫁候補に……?


 そんなの、恐れ多すぎます。

 わたくしには、他のご令嬢のような美貌も財力も才覚も、何もありません。

 そんなわたくしが、若く美しいと言われる大公様の隣に立てるはずがありません。


 迷うわたくしに騎士様は、「大公妃になれなくても、女官や側近などの職への推薦を受けるかもしれない」と教えてくださりました。


 女官や側近――それらは、アクラウド公国の貴族の娘が就ける、数少なく、そして人気の職業です。

 堅実な職に就けたら、お給金をもらえます。そうすれば、家族や領民を助けることにも繋がるのではないでしょうか。


 迷った末、わたくしは大公妃として公城に上がることにしました。












 きらきらしい美しいお城。

 これまでは遠目から見るだけだった公城を間近で見ると、胸の高鳴りを抑えることができません。


 妃候補として集められた数十名のご令嬢は皆、とても美しい方ばかりでした。そしてわたくしたちの前に現れたレオン大公は噂に違わずお美しい青年でした。


 ……分かっています。

 わたくしでは、あの方の隣になんて立てません。

 女官として仕えられたら、それだけで僥倖。


 ……それなのに。

 どうして、大公様を見るとこんなにも胸が苦しくなるのでしょうか。

 どうして、大公様はあまたいらっしゃるお美しいご令嬢の皆さまではなく、会場の隅っこで小さくなっているわたくしを、あんなに熱い眼差しで見てこられるのでしょうか……?












 ――バシャッ、と非常な音を立てて、氷のように冷たい水が降りかかってきます。


「あなたって、本当に生意気ですわ」

「みすぼらしい貧乏人の分際で、大公様にこびを売るなんて!」


 濡れ鼠となったわたくしを取り囲むのは、華やかなドレスをまとったご令嬢たち。化粧の施されたかんばせはとてもお美しいのに、今はそのお顔も憤怒の表情に塗りつぶされています。


「うふふ、全身びしょ濡れなんて、貧乏人にぴったりではなくて?」

「クラリス様のおっしゃるとおりですわ! さあ、テレーゼ・リトハルト! これ以上痛い目に遭いたくなかったら、城から出て行きなさい!」


 どうして、どうしてそんなことをおっしゃるのですか。


「抜け駆けして大公様とおしゃべりするなんて、身の程知らずですわ!」


 違います。

 大公様の方から、わたくしに声を掛けてくださったのです。


「大公様の優しさにつけいったのではなくて? 貧乏人らしい発想ですわ!」


 そんな……。

 大公様は確かにわたくしの身の上を聞き、嘆き同情してくださいました。

 でも、つけいるなんて、そんなことは……。


「……何をしている!」


 ……あっ、この声は――


 男性の声がしたからか、ご令嬢たちは忌々しそうに舌打ちをして逃げていかれました。

 そうして彼女らが去るとほぼ同時に駆けつけてきたのは、わたくしの護衛騎士であるジェイド。

 彼はずぶ濡れで地面にへたり込むわたくしを見ると目を見開き、着ていたマントを脱いでわたくしの肩に掛けてくれました。


「テレーゼ様……間に合わず、申し訳ありません!」

「いいえ、あなたが来てくれて助かりました、ジェイド」


 わたくしは護衛騎士を心配させまいと、精一杯の笑顔を向けます。


「ちょっと転んで水を被ってしまっただけです。何ともありませんよ」

「っ……どうして、どうしてそうまでして皆をかばうのですか!? あなたが他の令嬢から嫌がらせを受けているのは明らかです! 大公閣下もあなたのことを心配されているのに、あなたが令嬢たちをかばうから――」

「皆さまも悪気があったわけではないのです」

「……あなたはお優しすぎます」


 ジェイドは苦しそうに言いました。

 そうして――


「……こんな魔界のような場所に、あなたを居させたくありません」

「えっ? ジェイド……」

「好きです、テレーゼ様」


 ジェイドの緑の目が、わたくしを真っ直ぐに射抜きました。


「……大公閣下があなたに愛情を向けていることは承知です。しかし、この想いをこれ以上押し殺すことはできない」

「ジェイ――」

「テレーゼ様、どうか、私を見てください」


 そう言ってわたくしを抱きしめてくるジェイド。

 わたくしは……わたくしは、どうすればいいの?


 大公様と一緒にいると、楽しい。

 でも、ジェイドと過ごす時間も心地よく感じている。


 わたくしは……どちらを選べばいいの?

タイトルからこういう展開を想像する方もいらっしゃるんじゃないかと思います

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― 新着の感想 ―
想像力がないので、どんな話を読む時もあまり先を考えない この章をよんだときは最初「テレーゼが助けた令嬢が療養してる領地で書いた夢小説?」と思った 同じように公爵令嬢にいびり出された令嬢たちと回覧して…
私もこれはまさかの2人で悩む系!?と思っちゃいました。 ジェイドは単なる当て馬的な感じかと。
はい。おもしれー女系の、シンデレラストーリーだと思っていました。 しかし、蓋を開けたらシンデレラのおもしれー友達→義妹でした
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