沼人間? 二重存在? 俺は俺で、お前は俺だ!?
俺は、分身と顔を見合わせている。
だがその分身は、いつもの分身とは明らかな違いがある。
――それは表情だ。
あんぐりと口を開け、目を丸くして俺を見ている。
たぶん、俺も同じ表情を浮かべているんだろう。
「おまえ……?」
「おま……」
はもりかけて、分身が口を閉じた。
分身――もう一人の俺は、どうぞどうぞと手で促している。
しゃべるタイミングもほとんど同じ。
だけど、鏡合わせに動くわけでもないし、マネしているわけでもなさそうだ。
「えーと……お前は分身、なのか?」
「あー。俺は分身だよ、俺。さっき俺が――いや、お前が生み出した分身だ。ややこしいが」
もう一人の俺はそう言うと、難しい表情になっている。
「さっきの天の声が言っていた自律分身の術と意識共有のせいなのか?」
「わからんけど、そうなんじゃないか? 少なくとも俺は自分が分身だっていう自覚がある。だけど、俺は俺として、ああっ……ややこしいな。黒烏善治として生きてきた二十六年分の記憶がちゃんとあるぞ」
ってことは……こいつは俺のコピー?
俺が増えちゃったのか!?
「え? マジでか。記憶ってどこから?」
「全部だよ! 子供のころからずっとあるって。んー、俺が分身として自覚したのは――宝箱を分身に開けさせ――と思ったら俺が宝箱の前にいたって感じだな」
分身は考え考えしゃべっているようだ。本人もまだ混乱しているんだろう。
というか、俺はもっと混乱している!
まったく状況を把握できない……。
「宝箱を開けさせた時までは俺――本体としての記憶なのか?」
「んー、正確には天の声がクリア報酬を与えます! とか言ったとこからだな。光が収まって目を開けたら扉を背にしたお前が見えた感じ。で、俺は分身だって自覚があった」
この分身はどうやら、俺の完全なコピーだ。
記憶も過去の経験も持っている。
で、自分が分身であると自覚している点だけが違う。
とはいえ、自分と同じ見た目の相手が目の前にいるって、ちょっと怖い。
見た目が同じ分身はいつもみているけど、コイツは表情や考え方まで同じだ。
ドッペルゲンガーみたいだな。
自分と似た姿をしていて、出会うと3日後に死ぬとかいうオカルトなやつ。
……え、俺、死ぬの?
「……なにを怪訝な顔で俺を見てんだ?」と分身。
「いや……ドッペルゲンガーみたいだなって」
「俺はスワンプマンみたいだなって思ってた。まあ、俺が沼から生えてきたほうなんだけど……」
と分身が言う。
スワンプマンは有名な思考実験だ。
沼を歩いていて、落雷で自分が死ぬ。
直後に雷の影響で沼の泥から自分と同じ体、記憶を持った沼人間が生まれる。
これまでと全く同じ意識を持っていて、同じ肉体を持っている。
これは果たして、これまでの自分と同じ存在と言えるのか……?
自律分身はこれに似ている。
違うのは、本体である俺も存在しているってこと。
まさにドッペルゲンガーみたいに二重存在になっている。
「お前、俺に成り代わろうとか思ってないよね?」
と、分身にジト目を向ける。
いや、ほんとに疑ってるわけじゃないけどね。
「ないない。その疑いの目をやめろって! というか俺はお前だから――あー! 伝わりにくいな! ――俺は分身だと自覚している点だけが違うが、それ以外はお前と変わりない。だから、自分を殺そうとか考えるわけないんだよ。お前、俺を殺そうと思わないだろ?」
「いや、お前は分身だって自覚あるだろ。でも、俺は本体だっていう自覚なんてないんだ。ほら、俺はずっと俺だからな。自分が本体とか偽物とか考えたこともない。――だからお前が分身だって確信がない」
「おいおい、怖いこと言うなよ。本体側が俺を信じないって……まあ、疑り深いところが俺っぽい!」
分身が頭を抱える。
いや、俺だって頭を抱えたい。
だが、いつまでも疑っていてもしかたがない。
どうやれば、分身を信じられるか……?
では、クイズタイム!
俺にしか答えられない質問をぶつけてみる!
「じゃあ一応試すが……オトナシさんが最初に持ってきた料理はなんーだ?」
「唐突にクイズはじめやがる……。――答えは肉じゃが。次がタマゴサンドだ。あれは美味かったな」
コイツ……二番目の料理も正解だ。
聞いてもいないことまで言ってくるとは……。
考え方まで俺そのものだ!
では、とっておきの質問を投げよう!
「じゃあ……相棒のバットの名前は?」
「恥ずかしい質問やめろ。……ルーシーだ」
……正解だ。間違いない。俺だ!
バットに名前を付けていることは誰にも話していない。
心の中で勝手に呼んでただけだからな。
自分でも口に出したことのないことを言わせる羞恥プレイ!
「間違いない。お前は俺だ……」
「認めてもらったのはいいけど……なんか複雑な気分になるわ!」
こいつはまぎれもなく俺の分身だ。
とても奇妙だが……。
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