見敵必殺! 三階層の中央の戦い!?
モンスターを狩りながら三階層を進む。
三階層の未踏破部分を進んでいる。
ドーム状のフロアの中央部分だ。
中央部分は天井が高く【暗視】状態でも見通せない。
ここにコウモリがいるとしても、距離があるためお互い発見できないだろう。
中央部分に進むにしたがって、様子が少し違ってくる。
足場は平坦で、歩くには都合がいい。
ところどころにガレキのような岩が積みあがっている部分がある。
このダンジョンには珍しいことだ。
何せこのダンジョン、驚くほどに何もないんだ。
一枚岩のような床と壁。起伏はあるが、何も落ちていない。
拾って投げられる小石などが落ちていないということだ。
だから、これはとても珍しい。
両手で持ち上げられる程度の岩が積みあがっているだけ。
それだけのモノがあることに、俺は驚いている。
床から生えている石筍や天井からぶら下がる鍾乳洞はある。
これは床に一体化していて動かせないのだ。
四階層の輝く水晶も、ナタでこじっても取り外すことができず、砕けはしたものの塵になって消えてしまった。
このダンジョンには、ほとんどモノがないのだ。
物資がない。資源がない。石や、木や、草がない。
利用できる物体がないんだ。
「へえ……岩か。何かに使えそうだけど、投げるには重いな」
積みあがった岩山を手で押してみる。
さしたる抵抗もなく、ガラガラと崩れる。
岩は塵になったりせず、そこに残る。
つまりこれは、動かすこともできる岩なんだ。
もしかすればクラフトの素材に使えるかもしれないが……岩だしな。
石の武器は重そうなので、あまり興味がわかないな。
「なんだ? なんでこんなものがある?」
さらに進むと、巨石と呼べるような高い岩が現れる。
ストーンサークルのような巨石だ。
これがいくつも立ち並んでいる。
初めての地形なので、警戒を強めながら足を進める。
巨石と巨石の間が通路のようになっている。
狭いすきまは人間が通るには狭い。
間隔があいている部分を通っていくと、目の前をふさぐように別の巨石が立ちはだかっていたりする。
さながら迷路のようだ。
視界が限られ、先が見通せない。
石の林のようだ。
射線が取れないので、手裏剣での投擲攻撃はやりにくそうだ。
そして、この場所からは複数のゴブリンの気配がする。
もしかすると、ゴブリンが住みかとしているのかもしれない。
少し戦いにくいかもしれないぞ。
いつもの戦術とは違った動きが求められる。
「ゴブっ!」
「アギギイ」
巨石の陰にゴブリンだ。
無駄口をたたいていてくれるおかげで、発見はたやすい。
巨石を壁に見立てて駆け上がり、頭上から奇襲する。
両手にナタとクナイを持った俺は、同時に二匹のゴブリンを打ち倒す。
「よし、案外戦いやすいな!」
この環境は俺には好都合だった。
遮蔽物が多いことで【隠密】【暗殺】の独壇場だ。
加えて、この巨石は蹴っても揺らがないほど重く、安定している。
先ほどの岩山のように動かすことはできないようだ。
つまり、石の壁だ。
壁とくれば、俺の庭。ホームグラウンドだ。
【壁走りの術】で駆け上り、巨石を蹴って反対側の巨石に飛びつく。
そして、そこからさらに跳躍。
巨石から巨石へと三角跳びの要領で飛び移る。
接地した面が俺にとっての床になる。
つまり、手をついてしまえばそこが足場だ。
森で猿が木々を伝って飛び回るように、遠心力で自分を前方へ飛ばす。
接地して止まることもできるし、蹴って反対側へ飛ぶこともできる。
上へ登ることも、飛び降りることも自由自在だ。
この巨石地帯にはゴブリンが多く集まっている。
迷路状になっているために、お互いが連携することもない。
数の利はない。各個撃破していくだけだ。
ここは、格好の狩場だ。
変態的な軌道で立体的に飛び回る俺を、ゴブリン達は追いきれない。
すれ違いざまに頭を砕き、喉を裂く。
回転しながら、跳びながら、変幻自在の攻撃を繰り出す。
抵抗することも許さぬままに、ゴブリンを狩りつくしていく。
無双だ。壁無双だ!
堅実で地味な俺の戦闘スタイルが、ここでは華々しい戦果を上げている!
【壁走りの術】と【軽業】【跳躍】のシナジー効果がすさまじい!
【暗殺】【致命の一撃】が発動しない場合でも【片手剣】で威力を乗せる。
まるで、俺のために用意されたような有利な空間だ。
「壁走りの術でこうも無双できる日が来るとは! 感動もひとしおだな!」
迷路とはいえ、上部は閉じられていない。
壁を登って、巨石の上を進めば、迷うことはない。
それに、あまり広くはない。
すぐに中央までたどり着くことができた。
ストーンサークルの中央は広場になっている。
その中央に宝箱が置かれている。
「おっ? こんなところに宝箱? あからさまに怪しいぞ……」
周囲にはゴブリンの気配がある。
通ってきたルートのゴブリンは見つけ次第狩ったが、すべてを回れたわけではない。
広場の中央にある宝箱は目立つ位置にある。
ヒカリゴケやキノコも多く、少し明るく照らされている。
「ま、行ってみるか。ゴブリンが集まってくるなら手間が省けて助かるってもんだ」
レベリングも目的の一つだ。
まとめて倒せるなら、効率がいい。
俺は巨石の上から飛び降りて、宝箱へ向かう。
見た目は四階層の宝箱と同じ。
いちおう、横側から宝箱を開ける。
やはり、罠はない。
さて、宝箱の中身は――
――薬草だ。薬草がひと房だけ……。
「まあ、三階層だし……。鉄鉱石ならよかったけど、薬草も助かる。良しとしよう」
なんとなく中身がショボく感じられるが……先に四階層の宝箱を開けているからか。
本来なら三階層のコレが初宝箱のはずなんだ。
中央部分を飛ばして先に進んでしまったせいだな。
そこへ、集まってくるゴブリンの気配。
「……もしかして、この宝箱を守っているのか? ……薬草を?」
ストーンサークルの中心に置かれた宝箱だ。
まあ、それっぽい。
確かにお宝だ。
「ゴブリンの魔石はモノリスで薬草に引き換えられるけど……もしかして、ゴブリンは薬草大好きなのか。薬草教とか崇めてるのかな?」
おっと、ゴブリンが広場に入ってきた。
続々と、岩陰から走り出してくる。
「ゴアっ!」
「ゴアアッ!」
なんか、いつもより興奮気味。
俺が手に持ったままの薬草に反応している様子だ。
集まってきた他のゴブリンも、騒ぎ始める。
その数は10匹を超える。
これは、過去最高のゴブリンの群れだ。
俺は薬草を掲げて、ゴブリンを煽る。
「これが欲しいか? なら、かかってこい!」
「ゴブアァ!」
「ガァァ!」
ゴブリン達が咆え声をあげる。
そして、大乱戦が始まった。




