クローゼットダンジョン・第三階層。リベンジなるか……?
バトル回!
「久しぶりの三階層だ。今回も壁沿いに進むか」
階段を出て左へ出る。ルートは前回と同じ。
上を確認するが、天井に潜むコウモリは見つけられない。
鍾乳石が視界を遮ってしまう。
高い天井を【暗視】の白黒視界で探すのはなかなか目が疲れる。
「おっ、いたいた。ちょっと遠いから、ほっといても平気だな」
進むルートから外れている。
全部の敵を倒して進む必要はないから、無視して進む。
前からゴブリンが二匹。
周囲に遮蔽物はない。戻れば遮蔽物はあるけど、面倒だ。
ここで倒してしまおう。
「分身の術っ! レベル3!」
分身の術を発動し、ゴブリンの視界に入るように分身を走らせる。
もちろん、俺が視界から外れる方向へ向けてだ。
走らせると言っても、足を上げて、下げて……という細かい動きを指示しているわけじゃない。
手取り足取り操作する必要はない。
そういう操作の仕方もできるけど、本体と分身を同時に操作するのは難しいから、いまはざっくりとした指示で動かす。
走ったり、踏み込んだりといった基本的な動きはできる。
基本の動作の組み合わせで動いている感じ。
分身は常にコントロールをしなくてもいい。ある程度は勝手に動く。
分身が思考して動いているわけではない。
事前に決めてある動きに従う感じ。
「アギっ!」
「ギギッ!」
ゴブリンが分身を見つけて興奮した声を上げる。
分身を追いかけて、こちらに背中を向ける。
チョロいぜ!
本体である俺は、ゴブリンの視界から外れて自由に動けるようになる。
ナタを腰から抜いて忍び足で後を追う。
スキだらけの背後から、ナタを振り下ろす。
「ァ……!」
小さなうめきを上げて、ゴブリンが塵へ還る。
生成された魔石を空中でつかみ取る。
魔石の落ちる音も立てさせない。
もう一匹のゴブリンは分身に気を取られてそれに気づかない。
忍び寄り、背後からの一撃でこれも仕留める。
魔石を回収し、周囲と上方を確認する。
乱入してくる敵もいない。
よし、ステルスキル成功!
分身を操作して、壁沿いを走らせる。
分身は【隠密】を発動できない。
どのスキルも分身には乗せられない。
ステータスもないので、生身の人間くらいの動きでただ走っているだけだ。
足音も立てているし、目立っている。
分身は目立っても構わない。
分身が目を引いている分だけ、俺は闇に潜んで安全に進むことができる。
「キィッ!」
先を行く分身がコウモリに発見される。
一匹に見つかれば、その仲間も集まってくる。
だが、それでいい。
分身は見つかることが仕事だ。
見つかって不利にはならない。むしろ有利になるのだ!
コウモリに対しては【隠密】の効果が薄い。
だから、移動しているときにはどうしたって見つかってしまう。
隠れられないなら、見つかってしまえばいい!
もちろん、見つかるのは先行させた分身だ。
俺は分身の後ろにいる分だけ、敵の察知範囲内に入るのが遅れる。
コウモリが分身に「先制攻撃」をかけている間に、俺はコウモリに「不意打ち」できるというワケ。
「キキッ!」
分身をめがけて、コウモリ達が襲いかかる。
棒立ちではやられてしまうので、すぐにランダムな回避行動を取らせる。
「前へ走れ」とか「サイドステップ」のように、ざっくりとした回避行動を指示するだけ。
頭で考えるだけで、分身に指示は伝わる。簡単だ。
「ランダムな回避行動」といっても、敵の攻撃を見て動いているわけではない。
前に走ったり、横に跳んだりという動作を繰り返しているだけ。
コウモリの攻撃が分身に届きそうになれば、俺が移動方向や回避方向をコントロールしてやる。
少し離れた位置で見ているから、避ける方向も誘導しやすい。
反撃を考えずに大きくかわせばいい。
ノーマークになっている俺は、その間にコウモリを攻撃する。
つかみ出した三寸釘を、分身を狙っているコウモリへ投げ放つ。
もちろん、分身に当てないコースで投げる。
鋭く飛んだ三本の棒手裏剣が命中し、コウモリを地に落とす。
落ちたコウモリにとどめの棒手裏剣を放つ。
客観的に見れば、コウモリの攻撃パターンも見えてくる。
コウモリは動きの大きい部分を狙ってくるようだ。
分身の体よりも、たなびくマフラーを狙っている。
大きく回避行動を取っている分身のマフラーは、ピロピロと大きく動いている。
本体の俺もコウモリの探知範囲内に入っているはずだ。
それでも、俺を狙ってくるコウモリは少ない。
大きく回避行動を取っている分身に比べて、足を止めて手裏剣を打っているだけの俺は目立っていない。
これは、動作の大きさによって優先度をつけているんじゃないかと思う。
たまに俺にも向かってくるが、単発的な攻撃への対処はたやすい。
攻撃に合わせてナタを振るい、叩き落す。
おっ。分身のマフラーが壊れた!
分身の装備品は脆い。
一度の被弾で壊れて消えてしまう。
マフラーが壊されても、分身は何のリアクションも取らない。
せっせと回避行動を取っている。
あたりまえだが、分身は驚いたりせずに指示されたことだけを淡々とこなしている。
マフラーがなくなったので、こんどは分身の体へ向けての攻撃が増える。
狙いが正確さを増してくる。
分身が被弾して消える前に、俺は攻撃に重点を移す。
分身に気を取られているコウモリへ手裏剣を投げまくる。
「キィィ……」
命中!
何匹かのコウモリを撃墜する。
自分が回避しながら攻撃していた前回と比べて、攻撃のチャンスが格段に増えている。
攻撃しながら分身の操作も同時に行うのだが、これはかなり難しい。
例えるなら、右手と左手を別々に動かすような感じ。
右手で円を描きながら、左手はグーチョキパーするみたいな。
それよりも難しいけど。
これはもっと練習すればうまく動かせるようになるだろう。
避けきれなくなった分身が被弾して、塵と消える。
残ったコウモリ達は、俺にターゲットを切り替える。
しかし、コウモリはもう数匹だ。
余裕で対処できる。
前に踏み込むよりも横や後ろへ回避する。
そうすることで、マフラーに対して釣られたコウモリを攻撃しやすくなる。
俺がステップを踏めば、マフラーはひらひらと舞う。
攻撃を見切って、すれ違いざまに一撃を加える。
「よっ! うりゃ!」
マフラーをおとりに、コウモリをナタで切り裂く。
チョウのように舞い、ハチのように刺す!
俺の場合は蛾のように、だな。
攻略のヒントをくれた蛾先輩には頭が上がらないぜ!
回避して、攻撃する。
これをくり返す。
すべてのコウモリをノーダメージで危なげなく倒すことができた。
「よし! マフラーも分身もバッチリとハマった!」
前回は苦労させられたが、今回は余裕だな!




