トリプルワークはファミレスで!?
二人の今後の方針が定まった。
普通の生活も大切なんだよな……。
リンが俺の顔を覗き込んでいる。
近い!
「ゼンジさんは悩みとかないんですか?」
「悩みっていうか、店の立て直しを考えてるけど、難しいな」
そもそもがパンデミックの影響がデカい。
さらに俺が少し離れていた間に店はガタガタになっている。
これを立て直さなければいけない。
「え? そんなにウチの店ヤバいんスか!? 店長が戻れば大丈夫だと思ってたっス!」
なんだその謎の信頼感!
「大丈夫なワケないだろ。ほとんどもう遅い状態だよ……」
俺が店に完全に戻れば何とかなるのかもしれない。
だがそれは無理だ。もう遅いのだ!
ダンジョンにも潜らなきゃいけないし、公儀隠密の仕事もいつ来るかわからない。
ブラック労働の難易度をさらに上げてしまう。
ナイトメアモードだ。倒れるわ!
俺が抜けたことで店は崩壊しかけた。
クビにしようとした店が悪いとはいえ、その割りを食うのはスタッフだ。
「あたしたちも頑張ったんスよ! でも年中無休、一人二役で二倍速の変態店長が抜けた穴はデカかったっス……」
「ヘンタイじゃねーわ! 俺のせいじゃねーわ!」
店がつぶれればオーナーは困るだろうが、スタッフはもっと困る。
ざまあみろとは言えないのだ。
「あ、店長に文句言ってるわけじゃないっス! 悪いのはオーナーっス」
「まあ、俺も責任を感じてるからこうして悩んでるってワケだよ」
いらない責任を背負い込むのもブラック気質だよなぁ。
かといって無責任にバックレることはできない。
もしも働き続けていれば俺はいつか倒れただろう。
でも俺が抜けると店が倒れる。
そんな状況でオーナーは俺を切り捨てたんだ。
――救いがない。
救えないほどオーナーがアホだわ!
かつての俺は一人で店を支えようとしてきた。
そんなことはムリだったんだ。
前から俺は思っていた。
俺は人という字の下から支えているほうなんじゃないかって。
人という字は二本の棒がお互いが支えあっていると言う。
たしかにそうだ。
支えあわなければどちらも倒れてしまう。
でも、下から支えている側のほうが大変なんだよな。
平等じゃないと俺は思う。
二本の棒がお互いを尊重するのが理想なんだ。
支えられて当たり前じゃあない。
人という字と入るという字を交互にくり返す感じ。
そうして、お互いを支えあえればいい。
理想論だけど。
俺たちは三人ならそうできる気がする。
なら、店でも! 世界でもできるはずだ!
うーん。陳腐に聞こえるな。
……やはり、俺の中二病度はトウコより上かもしれん!
考え込んだ俺に、リンが笑いかける。
「そこがゼンジさんのいいところですよ! 困っている人を見すごせないんです!」
「見捨てないでくれたからあたしも助かったっス!」
「……ありがとう。そう言ってくれるとなんか救われるわ!」
「で、店はどうにかなるんスか?」
「給料の件は片付きそうだからスタッフは引き止められる。最初の難関はクリアだな」
給料未払いでは働けない。当たり前だな。
「トウコがみんなを引き止めててくれたおかげもあるぞ」
「あたしも頑張ったっスよ!」
そうだ。みんなで協力することが大切だ。
ひとりで抱え込んではいけない。
俺だけの行動で根本的な解決はできない。
俺も変わらなきゃいけない。
やっとブラックを脱却したんだ。
一歩前進したはず。
自分自身を変えることだって難しいんだよな。
ましてや他人を変えるのは簡単なことじゃない。
でもみんなで一歩ずつ進めば、大きな一歩になる。
店を立て直す。それは店の皆でやることだ。
みんなが変わってくれなきゃできない。
「新店長のヤマダさんは頑張ってくれそうだ。オーナーも聞き分けがよくなったから前よりマシだな」
「あいつは邪魔しかしないっスからね!」
無能なオーナーをプチ追放して傀儡状態にしたので、今後は邪魔されない。
口出しはせず、承認だけしてくれればいいのだ。
「だけど人手不足はどうにもならないな……とくにキッチンがヤバイ」
「キッシーはムリしてるみたいっスねえ。目が死んでるっス!」
さっそく募集はかけている。
でもすぐに人が来るわけじゃないし、教育もいる。
即戦力の人材なんてなかなか……。
リンがおずおずと手を上げる。
「えーと……お料理の仕事ですよね? 私じゃダメですか?」
なんと……願ってもない申し出だ!
これぞ助け合い。支えあいじゃないか!
「え? いいのか? リンがウチで働いてくれるなら、解決しちゃうんじゃね?」
「やった! リン姉と一緒に働けるんスね!?」
リンは料理がうまい。
ファミレスの料理は教えればすぐにできるだろう。
素人に教えるよりずっと早い。
「あ……でもモデルの仕事もやるんだよな?」
公儀隠密の仕事もあるし、自分たちのダンジョン攻略もある。
忙しすぎやしないか?
「動画のお仕事は毎日じゃないですし、機材とか準備するらしいのでまだ先です。それにゼンジさんのお店でトウコちゃんと一緒に働くのは楽しそうですよね!」
「絶対楽しいっスよ! いいっスよね、店長!」
「もちろん大歓迎だ! 助かるよ」
リンが少し遠い目で言う。
「実は私……あのお店で働こうと思ったことあるんです。……あのとき、勇気だせばよかったかなぁ」
「えっ!? それ、いつの話!?」
初耳なんですが!?
リンは言いにくそうに言う。
「引っ越してきてすぐくらいですね……あの頃はゼンジさんとお話できなかったので……」
「そ、そうか」
ストーカー時代の話だ!
職場まで押しかける気だったーっ!
当時のリンは今よりコミュ障がひどかった。
俺ともうまく話せなかった頃だ。
俺はブラック労働まっさかり。
忙しくて気づけなかった。距離を保とうと自重してもいたんだよな。
「よし、決まりだ! とにかく店で話しつけてくるわ!」
「これで普通のお仕事も三人でできますね!」
リンは、にこにこしている。
なんでも三人でやるのも不思議な感じがするけど……もちろん大歓迎だ!
コミュ障のリンだけど、俺たちがいる職場なら安心かもしれない。
キッチンなら客前に立たないですむ。
公私混同が凄いけど、店も助かるからな。
文句など出るはずもない。
トウコが両手を上げて喜ぶ。
「やたーっ! メイド服のリン姉が見れるっス!」
「え……なんでメイド服なの?」
リンが困惑の表情を浮かべる。
話の流れがちょっと意味わからんよね。
うちの制服はメイド服風である。男子は執事風だ。
ファミレスの限界を攻めているデザインなのだ。
メイド喫茶なわけじゃない。
「いや、キッチンだからコック服だぞ! ……でもメイド服姿は見たいな」
「ぜったいメイド服を着てもらうっスよ!」
「ええ……?」
リンがさらに困惑を深める。
トウコがグイグイ行くのを、俺は止めなかった。




