庶民派コーヒー忍者とシリアスブレイカー!
没タイトルシリーズ
コーヒーブレイク! ケーキカット! 必殺技めいている!
淹れたてのコーヒーを持って、リンの部屋に戻る。
切り分けられたケーキがテーブルに並んでいる。
八等分にカットされたチーズケーキとモンブラン。
よかった。八等分だ!
俺はほっと胸をなでおろす。
四等分にカットされていたらどうしようかと思っていたのだ。
予想外の来客である大河さんと犬塚さん。俺とリン。
いまリンの部屋には四人いる。
ケーキはもともとは三人で食うつもりだった。
トウコの分が残らなくては困る。あとで知ったら騒ぐに決まっている。
そうなると俺が食う分がなくなるわけだ。
でもカットはバッチリだ。
さすがリンである。トウコの分を忘れるわけはないよな。
ひやひやすることなんてなかった!
……なに、足りなくなったらまた買って来よう。
ゆとりだ。ゆとりを持つんだ!
ケーキのカット数ごときでうろたえるんじゃあないぞ、俺!
内心の小さな動揺を隠しながらコーヒーを出す。
「お、こりゃうまそうだな!」
「コーヒーもいい香りだねェ」
お、コーヒーの良さがわかるとは、やるな犬塚さん。
犬塚さんはアイスでブラック。砂糖なし。
大河さんはアイスでミルクあり。砂糖なし。
リンはホットでミルクあり。砂糖多め。
「ゼンジさんの淹れたコーヒーはおいしいですよねー」
そう言いながらリンは砂糖をドバドバ入れていく。
これで太らないのはスゴい。
【モデル】チートだ。
これは現実世界でスキルが発動しているんじゃない。
ダンジョンに定期的に入っているから効果を発揮する。
日常生活に役立つスキルだよなあ。
ケーキを食べながら雑談タイムだ。
さすがに犬塚さんも血生臭い話は持ち出さない。
犬塚さんの下の名前は涼子と言う。
大河さんは犬塚さんを姉さんと呼ぶけど、大河さんのほうが年上らしい。
この中では最年長の二十八歳。
となると犬塚さんは俺と同い年くらいかもしれない。
リンは二十歳。トウコは十六歳だ。
あれ? 俺って年長グループの仲間か?
考えるのはやめよう。
年齢などどうでもいいことだ!
外から階段を駆け上がる音が聞こえる。
ぜんぜん忍び足じゃないこの足音は――
玄関のドアが勢いよく開く。
「ただいまーっス!」
「おかえりなさい。トウコちゃん」
「ちょっと静かにドア開けて!?」
苦情来ちゃうよ!?
トウコが大河さんたちを見つけて、大声を上げる。
「ええっー!? なんで人の家で優雅にケーキ食べてるっスか!?」
デジャブな会話!
朝は御庭たちで夜は大河さんたちだ。
千客万来である。
「よう!」
「邪魔してるよ。子猫ちゃん」
「どーもっス!」
犬塚さんはトウコを子猫ちゃんと呼ぶ。
前回は変異しかけているトウコをかなり警戒している様子だった。
さっきの話からすれば、変異した者に家族を襲われた……殺されたようだ。
変異者を嫌って当然だろう。
いま、敵意はないように見える。
トウコ個人のことを嫌ってるわけじゃないのだろう。
トウコも二人に警戒心は抱いていない。
というかケーキしか見ていない。
もうちょっと警戒して!?
「ケーキ! あたしの分もあるっスよね!?」
「あるからがっつくな。ゆとりを持て!」
俺と大河さんはもうケーキを食い終えている。
リンと犬塚さんはまだ食べている途中だ。
トウコはテーブルの上のケーキを指さしている。
って、ヨダレでてるぞ!?
言われてみればトウコは猫みたいなところあるな。
自由で活発……。空気を読まない。
愛嬌のあるアホ犬のようでもあるけど。
リンは従順で臆病な犬みたいだ。
甘えん坊で寂しがりなのに自分からは寄ってこなかった。
でも最近はグイグイくるし、コミュ障もだいぶ直ってきている。
「いまトウコちゃんの分を持ってくるから、手を洗って待っててねー」
「やたーっ!」
リンが冷蔵庫から取り分けておいたトウコ用の皿を持ってくる。
俺はコーヒーを注ぐ。
トウコはアイスでミルクあり。砂糖あり。
みんな好みが違う。
飲食業をやってると、人の味の好みを覚える癖がつく。
職業病だ。
トウコはケーキを頬張って幸せそうだ。
それを見ながら大河さんが犬塚さんに訊ねる。
犬塚さんは匂いを嗅いでいるのだろう。
「で、姉さん。どうよ?」
「ああ、変異は進行していない。大丈夫そうだねェ」
犬塚さんの表情に険はない。
昨日は悪いもの……モンスターを見るような冷たい目つきだった。
ひとまず無害だと思ってもらえたのだろう。
トウコの軽い雰囲気は険悪な空気をも無視してしまう。
シリアスを壊しよる!
でもこれでいい。
悪い空気は壊してしまえばいいのだ!
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