乗るしかない! この大波に!
諦めの色が強くなっていたトウコに、やる気が戻った。
このダンジョンに長く潜っていると、正気が保てないんだろう。
俺もちょっと味わっただけで、もう帰りたい感じだ。
出口はないので出られないわけだが……。
出られたとしても、一人で帰るつもりはない。
ちゃんとトウコを連れていく。
今回は趣味でダンジョンに潜っているんじゃない。
助け出すことが目的だ!
自分のダンジョンの時はあまり怖さは感じない。
慎重になったり、ケガをしないようにとは思う。
最近だとクモが少し怖かったか。
コウモリも顔がコワかった。
もうゴブリンとか、かわいいと思えてくる。
ここは俺のダンジョンとはコワさの種類が違う。
「……この洋館は雰囲気がヤバすぎるな!」
「正気度がガリガリ削られていく感じっスね! 死ぬ感覚はまたヤバイっスよ!」
「死なずに脱出したいもんだ。生き返れるとしても、味わいたくないわ!」
「そうっスね」
敵と戦っていないときでも、じわじわとした恐怖を感じる。
薄暗く、場所によってはかなり闇が濃い。
なにもない場所にも、なにかが潜んでいるような不安感。
通り過ぎた場所にも敵がわく。安心できる場所がない。
「さっきの不運の件もある。トウコの気づきに救われたからな。ここからはもっと話し合っていこう。時間は食っちまうけどな」
攻略スピードは遅くなる。だが、やはり意識合わせは必要だ。
そのおかげで、命を拾ったところだしな。
「いいっスよ! 時間かけると敵が強くなるんスけど、これも知っといたほうがイイっスよね?」
「まじで!? 時間が経つと敵が強くなる? なにそれ!?」
「ゲームでいうウェーブとかラウンド制って感じっスかね? 段階的に敵が強く、数も増えるっス。最初は鈍いゾンビなんスけど、さっきのデブとか出るっスね」
波状攻撃か。第一波、第二波みたいに、だんだんと強くなっていく。
このウェーブ数が、俺のダンジョンの階層に相当するんだろう。
だとすれば、俺は七ウェーブまでは耐えられる、のか?
難易度の違いと初挑戦であることを思えば五ウェーブくらいで厳しいかもしれない。
……時間はあまりない。
だが、それを知らずに進むより、こうして聞いておいたほうが有利だ。
ウェーブ制度だということも知らなかったからな。
二階になったから敵が強くなったわけじゃないのか。
場所が重要ではなく、時間経過で敵が強くなる。
それなら、限られた時間で準備をしないといけない。
「ちなみに今は、何ウェーブ目なんだ?」
「三ウェーブっスね。ここからデブがでるっス」
「もう三ウェーブなのか! 思ったより早い周期で進むんだな!」
「あたしが最初にこの洋館に来たときは、もっとゆっくりだったっス! 手に負えなくなってきたのはこのせいもあるんスよ!」
「ウェーブの周期が早まっている? ……なんだ、それは!」
「わかんないっス! サイアクっス!」
最初とルールが変わっている。
だんだんと、ダンジョンが凶悪になっているのか?
これも、俺のダンジョンにはないルールだ。
難易度の急上昇……。
そんなもの、クリアできる気がしない。
ダンジョンが、俺達を殺そうとしているとしか思えない。
俺のダンジョンも、たまに急に牙をむいてくることがある。
強すぎるボス。危険な罠。
だけど、基本的には公平だと言える。
階層に沿った強さではあるだろう。急激に難易度が上がるわけではない。
この洋館ダンジョンは異常だ。
最初っから、持ち主を殺そうとしている。
実際に、何度もトウコは死んでいる。
しかも、死んでも終わらない。生き返るが連れ戻される。
ダンジョンから逃れることができないのだ。
この違いはなんだ?
ただ運悪く、ハズレのダンジョンを引いたのか?
あるかもしれない。
オトナシさんのダンジョンは、トウコや俺のダンジョンよりヌルいと感じる。
ダンジョンごとに難易度、傾向が大きく違う。
このダンジョンは……容赦がない。
「とりあえず……ウェーブについてはわかった。三ウェーブからはデブゾンビが出ると。さっきの太った、爆発するやつだな? ……俺はボマーって呼んでる。歩くのはウォーカー。走るのはランナー。あと、他の種類もいるのか?」
「へえ、店長の呼び方いいっスね。あたしはゾンビ、素早いヤツ、デブって呼んでるっス。他のだと四ウェーブからタフなゾンビが出るんスけど、普通のとは見分けがつかないっス!」
ゾンビの呼び方はゲームとか映画によっても違う。
混乱するといけないから呼び方は統一したい。
「攻略する上で呼び方は統一した方が良いかもな」
「じゃ、店長の呼び方でいいっス。あたしのは適当なんで!」
トウコは呼び方にこだわりがないようだな。
「よし。それで、四ウェーブで出るのはタフなやつか。見分けがつかないって、ウォーカー風なのか?」
「デブ……ボマー以外の奴はタフになる場合があるっス。頭をつぶさないと死ななくて厄介っス!」
「それは面倒だな……!」
難易度上昇がハンパない。
「五ウェーブになると全部がタフになるっス!」
「うわあ……インフレが激しい!」
四ウェーブはタフなゾンビが混ざる。
五ウェーブは全部がタフになる。
「六ウェーブはわかんないっス。それ以上生き延びたことないんで」
五ウェーブの難易度が高いんだな。
俺のダンジョンでも、区切りの階層だった。
「……そうか。俺のダンジョンだと五階層でデカいコウモリのボスが出たんだ。ちなみに、ボスは出たのか?」
「五ウェーブでボスが出るわけじゃないっスけど……それらしいのはいるっス。一階の食堂、厨房にいるっス。こいつ、めちゃくちゃ強いんで勝てたことないっス!」
五ウェーブはタフゾンビの群れ。
それとは別にボスが固定配置されている?
「ウェーブに関わりなくそこにいるってことか? もしかして、そいつを倒したらクリア?」
「わかんないっスねえ……倒せるイメージがわかないっス。手持ちの弾丸を全部撃ち込んでも倒せなくて詰んだっス……」
ウェーブ制度のゲームは、キリのいいところで撤退できる場合がある。
次のセット、六ウェーブ以上へ進まない、という選択ができる。
そうであれば、このダンジョンのクリア条件……脱出条件かもしれない。
そうであってほしい。
そうでなければ、他の方法を考えなきゃいけない。
どこかにある出口を探す……。例えば洋館からの脱出。
なんらかのアイテムを入手するとか、破壊するとか。
それは今、ヒントがなさすぎる。
トウコもそれに関連した情報を持っていないようだ。
「じゃ、今後の目的は次の二つだ。五ウェーブを乗り切るか、強力なボスを倒すか。できそうなほうを狙う!」
「リョーカイっス! 一人じゃムリっスけど、店長とならイケるかもしれないっスね!」
それで、この悪夢から脱出できることに期待しよう。
できなかったら……。
永遠にこの悪夢の世界にとらわれるのかもしれない。
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