エンター・ザ・冷蔵庫ダンジョン! その2
冷蔵庫ダンジョンにはゾンビが出る。
倒すことはたやすい。
俺のダンジョンとはルールが違っていることもわかった。
敵を倒しただけでは、塵にならない。
塵にする……アイテムをドロップさせるには、過剰なダメージを与える必要がある。
生きている敵に大ダメージを与えてもいいし、死体を攻撃してもいい。
これでやっと、アイテムが手に入る。
ドロップアイテムは基本的に魔石。
だが、トウコはスキルによって魔石ではなく弾丸をドロップさせている。
トウコは銃で戦う。
つまり、弾丸がないと戦えない。
「とりあえず……弾丸優先にするか。俺も魔石は欲しいけど、なくてもなんとかなる」
「なんで魔石なんて欲しいんスか? たまに手に入るけど使い道ないんスよねー」
「でたっ! でたわー! 魔石ハズレ論!」
俺はクワッと目を見開く。
また魔石のありがたみがわからんやつきたーっ!
「な、なんスか! 急にどうしたっスか!」
「いや、わかってないな。魔石には使い道は色々あるんだ。ハズレでも使い道のないゴミでもないんだ。魔石は重要な資源なんだ。ダンジョン攻略の必需品なんだ。いいね?」
めっちゃ早口で言った。
俺の剣幕な様子に、トウコは少しひいている。
「は、はあ。ゴミとまでは言ってませんけど……。まあ、わかったっス」
「俺のスキルでは魔石がないと使えないものがある。例えば魔石があれば忍具が作れる。武器とか手裏剣とかな。魔石が余ってたら、俺にくれ」
トウコがくびをひねる。
「あまるって、なんスかね? 今回はまだなんも手に入れてないっスよ」
「ん? 前回までの分はどうしたんだ?」
今度は俺がくびをひねる。
床に置いて、毎回アイテムを消しちゃってる?
箱なり敷物を用意すれば、アイテムは消えずに残る。
それを知らない、ということか?
「前回もなにも……死んだら全部なくなるっス。弾丸も装備も、なにも残らないっス!」
「全ロスト……だと!? それは……ハードだな」
「まさに悪夢っス!」
このダンジョンでは、アイテムを置いておけない。
死んだらリセットされる!
モンスターも同じか。
おそらく、トウコは前回もこのエントランスのゾンビを倒したはずだ。
でも、今回もエントランスにはゾンビがいた。
俺のダンジョンなら、モンスターを倒せば次に湧くのは時間がかかる。
一日ほどかかっていると思う。
俺やオトナシさんのダンジョンでは、敵を倒せばしばらく湧かない。
倒せば敵が減るってことだ。
ここでは、時間に関係なくダンジョンに入りなおすたびに、配置がリセットされている?
敵を減らすことができないということか!
この影響はデカい……。難易度が段違いだ!
「ヤバいな、ここ……!」
「だから言ってるじゃないっスか。無理ゲーなんス。鬼畜難易度なんス!」
だんだんわかってきたぞ……。
ルールがちょっと違う。
それが、これだけの差を生んでいる。
「でも、ゾンビは弱いよな? 工夫次第でどうにかなりそうな気はする」
ゾンビはゴブリンより倒しやすい。
慣れてしまえば、動きの遅いゾンビなんて簡単に倒せるんじゃないか?
「ゾンビだけなら、そうっスね。もっと強い敵も出るし、強いだけがヤバさじゃないんスよ!」
トウコはじれったそうに言う。
俺の質問攻めで、ちょっと集中が切れてきたかもしれない。
俺はちょっと考えすぎる。
だけど、トウコは考えが足りない。言葉も足りない。
だから俺が聞き出して、解決方法を考えなきゃいけない。
同じやり方では詰みなんだ。
無理ゲーだからとあきらめるわけにはいかない!
「強い敵も出る、と。それはどういう――」
俺のさらなる質問を、トウコが遮る。
「――敵っていえば、さっきの銃声で奴ら集まってくるっス! ずっとここにいるとヤバイっスよ!」
「なに!? それ早く言えよ! まだまだ気になることがあるが……とりあえず移動だな!」
情報収集は大事だ。
だけど、危険が迫っているならそれどころではない。
ゾンビは音に集まる。常識である。
あと、ホームセンターとか警察署に集まる。なんでだろうね。
「とりあえず二階に移動するっス! ちなみにそろそろ二階からゾンビが来るっス……ホラ」
「もう来たし!? 早めに教えてね!?」
トウコはぺろりと舌を出す。
「ははっ。でも大丈夫っス。あいつはアホなんで、勝手に階段から落ちるっス!」
このダンジョンで死に続けているトウコにとっては、毎回起こる行動なんだろう。
ということは、敵の配置は固定なのかもしれない。
一階のエントランスから伸びる階段が二階へ通じている。
吹き抜けになっているので、階段の上が見える。
ゾンビがやってきて、階段を降りようとして……踏み外して転げ落ちる。
受け身も取らず、派手に階段を転がっていく。
盛大な自爆だ。
腕とか、変な方向に曲がっちゃってるし! 痛そう!
「うわあ。ゾンビは階段を使えない説か! こりゃ、楽でいいな」
「ここのゾンビはアホっス。それに柔らかゾンビっス!」
ゾンビ映画あるあるだな。
ゾンビはやわらかい。
ナイフなどで簡単に切断できたり、頭蓋骨を貫通できたりする。
腐っていたとしても元は人体。
普通の腕力だとナイフの一振りで切断するなんて難しいと思うが……。
ゾンビはファンタジーみたいなもんだ。
ここのゾンビは元人間というよりは、ゾンビというモンスターなんだろう。
階段の踊り場で倒れて唸っているゾンビを横目に、トウコへ尋ねる。
「で、大事な質問だ。このゾンビってどのタイプだ? 感染する系? オカルト系?」
ゾンビにもいろいろある。
ウィルスとか感染症が原因のタイプ。
噛まれると感染して、自分もゾンビになる。
最悪だ。
悪霊とか悪魔が取りついたりしているオカルト系。
天井でブリッジしたりゲロを吐いたりする。
最悪だ。
「感染はしないんじゃないっスかね? その前に噛み殺されるっス!」
「最悪だね! まあ、ちょっと齧られてもゾンビ化はないと。で、普通に倒せるならオカルト系じゃないよな」
オカルト系のゾンビは不死身だったりする。
聖水とか祈りとか、特殊な手段でしか滅ぼせないなんてことも。
「ゾンビはまあ、単なる動く死体っスね。だけどこのダンジョン全体で言うと……オカルトスプラッターホラー系っスね!」
「最悪だよ! 強敵って……それ系もいるってわけか……」
オカルト系のホラーって、理不尽でどうしようもない場合がある。
見ただけで死ぬとか、殺しても死なないとか。
スプラッター。残酷描写……。
血しぶきが噴き上がる生々しいヤツだ。
ゾンビからも謎の汁が噴き上がってくるけど……イヤだなあ。
「敵だけじゃないっス。あー、説明が難しいっスねえ……このダンジョン自体がホラーなんス」
「なんだそりゃ?」
出てくる敵がみんなホラーみたいなのか?
敵だけじゃないって、なんだ?
よくわからん。
「この場所自体……ダンジョンそのものがホラーな法則で動いてる感じっス」
「わからんが。具体的には?」
「運が悪くなるというか……ツイてない感じがずっと続くっス」
「運……だと?」
「まあ、そのうち体験することになるっス。血だまりで転んだり、ガラスが降ってきたりっスね」
運なんてもの、俺は信じていない。
占いとか、今日の運勢みたいなものは信じない。
天気予報なら信じる価値はある。
過去のデータの積み重ねに基づく予報だからだ。
俺はダンジョンでの戦いで、運に頼ったりしない。
検証して、練習して、身につけた技術の積み重ねで戦う。
物事は、なるべくしてなる。
理由があって、結果がある。
俺はそういう考えだ。
ステータスというシステムはゲーム的なものだ。
そこにも、運のステータスはない。
そっちの意味でも、運なんてない。
「それ、気のせいじゃなくてか?」
「信じてないっスね!? じゃあ、あそこの階段。あそこであたしは死んだんスけど……なんでだと思います?」
「……階段を踏み外して、死んだ?」
いくらトウコでも、ゾンビほどアホではなかろう。
「ハズレっス。まずは二階でうっかり鏡を撃ったんスよ。その音を聞きつけた敵が襲ってきたっス。で、鏡の破片の上を逃げるしかなかったっス。裸足で……。血だらけの足で階段に逃げ込もうとしたらゾンビにいい感じに突き落とされて、事前にぶちまけてた花瓶の破片の上に落ちて、それで死んだっス」
「……なんだそれ!? ……どれだけミスが連続してるんだ」
死因は、花瓶の破片が刺さったことだ。
しかし、鏡を割らなければ、裸足でなければ、足をケガしていなければ、階段から落ちなければ、花瓶を割っていなければ……。
みごとなまでの不運の連続。連鎖だ。
死ぬという結果に向けて突き進んでいるかのようだ……。
トウコは今も、裸足だ。
俺も靴は履いていない。
なぜなら、家のキッチンにある冷蔵庫に引き込まれたからだ。
家の中なんだから、靴を履いているわけはない。
みれば、階段の踊り場にはフラワーテーブルがあり、その上には花瓶が置かれている。
あの花瓶の破片か……。
階段の踊り場には、さっき落ちてきたゾンビがもがいている。
腕や足が曲がってはいけない方向に曲がっている。
キモイ。
もがいているゾンビがフラワーテーブルを倒すかもしれない。
そうすると花瓶が割れて破片がぶちまけられる。
……さっきの話を聞くとなにもかもが危険に思えてくる。
あのゾンビをスルーしすぎたな。
トドメをさそう。
分身を向かわせる。
倒れているゾンビをひたすら拳で殴打するという、見るに耐えないトドメである。
もっとスマートに殺りたい。
武器欲しい。魔石欲しい……。
あ、つい俺が倒してしまった。
わざとじゃない。ついウッカリだ!
魔石をゲットした! 三つ目だぜ!
分身がそうしている間も、会話は続いている。
「あっ! あたしがウッカリしてると思ってるっスね!? そうじゃなくて……どうしようもなくそうなるっス! 説明しにくいけど、そうなんス!」
トウコがすこしむくれた感じで力説する。
いや、ウソをついているとは思っていない。
少し信じにくいというだけだ。
不注意のせいとも言える。
一つ一つの出来事は、単なる小さなミス……小さな不運だ。
ここでは、そういう不運が起こりやすいということか?
……そういう、特殊な効果があるとでも?
俺のダンジョンでも、オトナシさんのダンジョンでも、そういうものはない。
ダンジョン自体に特殊効果なんてものは、ないはずだ。
でも、ダンジョンだからな。
ある意味、どんなことだってあり得る。
頭から否定はできない。
「信じるよ。そうなるともう、気を付けるしかないな」
「気をつけようもないっスけどね!」
「このダンジョン、最悪だな!」
聞けば聞くほど、このダンジョンはヤバい!
うらやましくないダンジョン!




