地底湖を駆けろ! テスト航海はジェット水流航法で!
試行錯誤の末、ついに船が完成した。
予定より大幅に遅れ、半日もかかってしまった。
木材を組み合わせ、それらしい船を作るだけならすぐだった。
しかし、いざ水に浮かべて乗ってみると、問題が山積みだったのだ。
バランスが悪くてすぐに転覆しそうになるし、水漏れもする。
安定性もなく、まっすぐ進まない。
その調整に、予想以上に手間取らされた。
船というのは、浮力、重心、流体力学など、高度な技術の結晶なのだと思い知らされた。
ただの木の箱を水に浮かべるのとはわけが違う。
事前にネット動画でボートの作り方や構造は調べてはいた。
しかし、付け焼き刃のにわか知識では、実戦に耐えうる船は作れなかったのだ。
具体的なイメージを諦めた俺は、最終的に【忍具作成】君に丸投げすることにした。
水蜘蛛は忍具!
船も忍具!
よしなに頼むぜ、と。
俺の頭の中にある曖昧な完成イメージと、ネットで仕入れた知識を流し込み、あとはスキルに最適化してもらう。
いわば、AIに「いい感じの船を作ってくれ」と頼むようなものだ。
その分、コストは多めにかかった気がする。
接着や防水、強度の補強のために消費した魔石の量はかなりのものだ。
まあ、低階層ゴブリンなどの魔石だから懐は痛まないが。
完成したのは、三人乗りの船だ。
かなり小型に仕上げることができた。
一人で乗る分にはいいが、三人だと窮屈かもしれない。
とはいえ、【忍具収納】での持ち運びを考えれば、これ以上大きくはできない。
三枠を使って収納できるギリギリのサイズだ。
「さて、テストだ。
いざ進水式といこう!」
俺は分身で船を押して水に浮かべる。
乗り込むと船はぐらりと揺れたが、転覆する気配はない。
さすが忍具作成君!
安定性は抜群だ。
「まずは【操水】で平常運転を……」
意識を集中し、船の周囲の水に干渉する。
船底の水を後方へと押し流し、擬似的な水流を作る。
それに乗って、船は滑るように水面を進み始めた。
ぐんぐんと加速していく。
「うん、悪くない。
これなら静かに移動したい時にも使えるな」
エンジン音もなく、オールが水を叩く音もしない。
静かにスイスイと進んでいく。
だが、今回の目的はそれだけじゃない。
あの広い地底湖を、敵に囲まれる前に一気に突破するためのスピードが必要だ。
「よしと。
次は高速機動……ジェット水流航法のテストだ!」
俺は船の縁から両手を出し、水面へ向ける。
イメージするのはロケットの噴射ノズル。
手のひらから高圧の水を噴き出し、その反動で推進力を得る!
「水忍法――水噴射!」
両手から凄まじい勢いで水が噴き出す。
腕に強い反動が走り、船体に力が伝わる。
一気に急加速した!
「おお……っ!
は、速いっ!」
景色が後方へすっ飛んでいく。
船首が持ち上がり、水面をバウンドするように叩いて突っ走る。
まるでモーターボートだ!
だが、その代償として制御が乱れる。
船が暴れる!
俺は舌を噛みそうになりながら独り言ちる。
「バランスが……難しいぞ!」
左右の手からほとばしる水流のバランスが少しでも崩れると、船は即座に横を向こうとする。
水噴射はパワーはあるが、大味すぎて繊細な操作には向かない術だ。
俺は必死に体幹でバランスを取りつつ、【操水】を併用して舵を取る。
右へ左へと蛇行しながらも、なんとか直進させる。
ふう、持ち直したぞ!
調子に乗って加速していると、いつの間にか対岸が迫っていた。
「しまった……!
もう対岸かよ、速すぎる!」
このままでは激突して木っ端みじんだ。
「減速だ……減速っ!」
慌てて水噴射を止め、【操水】で速度を殺しにかかる。
しかし、慣性が乗った船はすぐには止まらない!
ぐんぐんと岸壁が迫る!
「うおおっ!
間に合わん、曲がれっ!」
俺は咄嗟に手の向きを変え、片側を逆噴射させる。
これにより船は無理やりコースを変える。
水上のドリフトだ!
派手な水しぶきが高く舞い上がり、岸壁まで飛ぶ。
遠心力で船が大きく傾き、水面が目の前に迫る。
「おっとっと!」
転覆しかける船体を、体重移動と【操水】で強引にねじ伏せ、なんとか水平に戻す。
船は波に揺られながら、岸の数メートル手前で停止した。
セーフ!
危ない危ない。
ちょっとスピードを出しすぎたな!
俺が胸をなでおろしていると、頭上から聞き慣れた羽音が降ってきた。
「キィキィ!」
騒ぎを聞きつけ、コウモリたちが集まってきていた。
俺の頭上を旋回し、今にも攻撃してきそうだ。
「おっと、またモンスターか!」
さすがに対岸のエリアまでは間引きできていない。
揺れる船上で、バランスを取りながら戦うのは面倒だ。
「今はお前らの相手をしている暇はないんだ。
さらばだ、コウモリ君っ!」
俺は再び【操水】を発動させ、船を旋回させて発進させる。
コウモリたちが急降下してくるよりも速く、船は水面を滑ってその場を離脱した。
この機動力があれば、戦闘を回避して進むことも容易だろう。
そのまま、しばらく安全な水域で操縦訓練を続けた。
急旋回や急加速を繰り返したが、船の強度にも問題はなさそうだ。
魔石をケチらずに使った甲斐があったな。
ただ、一つ問題点も見つかった。
スピードを出すと、盛大に巻き上げた水しぶきが船内に降りかかってくるのだ。
ここなら冷たい水で濡れるだけで済むが、二十四階層では熱湯になる。
熱々のしぶきを浴びればヤケドしてしまうだろう。
これにはポンチョでも着て対策しよう。
テストはこれで十分だろう。
船を陸に上げ、【忍具収納】に収める。
俺は満足してうなずく。
よし。
これで二十四階層の湖を突っ切れるぞ!
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