大惨事! 大掃除!? 大同棲!?
「ふう……とりあえず自律分身を回収できました。これが、ダンジョンに戻る用事でした」
「びっくりしましたが、大丈夫みたいでよかったです」
またオトナシさんに心配かけてしまった……。でも、自律分身が回収できてよかった。
これで、クールダウン時間が過ぎればまた使えるはずだ。
しかし……自律分身を消すとき、消えるタイミングは注意しなければいけない。
今回のことは教訓だな。身に染みた。
意識のフィードバックは便利だが、危険だ。
強い感情を感じているときは気を付けないといけない。
ケガや死亡……大きなダメージを受けて倒された時なんかはヤバそうだ。特に気を付けなければ!
これまで自律分身は大ケガをしていない。
検証を優先して途中でやられないようにしていたおかげだ。
前線で戦わせる方針にしていたら、意識のフィードバックで連鎖的に俺もやられていた可能性がある。
結果オーライになるが、方針は間違ってなかった!
「オトナシさん。なんか心配ばかりかけてしまってすみません……。あ、俺のダンジョンの案内もしたいけど先に掃除しなきゃですね」
「あ! そうですね! あれ、誰かに見られたら大変ですよね!」
オトナシさんは俺の拠点の壁――展示ラックを名残惜しそうに見ている。
だけど案内は後回し。
先に掃除しないと、外が殺人現場のままになってしまう。
異臭騒ぎとかでニュースになりたくない。
掃除最優先!
ダンジョンを出て、俺の部屋へ戻る。
「そういえば、クロウさんのお洋服も血だらけですよ!」
「お! そうでしたね」
「なんだか痛そうです……。お着替えした方がいいですよ。私、先に戻ってます」
「ありがとうございます。でも、掃除で汚れそうだから、そのあと着替えますね」
穴からオトナシさんの部屋へ移動する。
「うわあ……殺人現場だな、これ」
「……血がいっぱいで、掃除しがいがありそうですね」
部屋は大変なことになっている。
事故物件だ。
壁には大穴が開き、破片が散らばっている。
机はなぎ倒され、割れたガラス片が散らばっている。
床には血だまり。
這ったような跡。引きずられたような跡が、トイレの中まで続いている。
これは、倒れた俺を引きずった跡だ。
オトナシさんが必死に俺を助けようと、ダンジョンへ運んだ痕跡だ。
部屋の様子で、さっきの大惨事を思い出したんだろう。
オトナシさんが心配そうに俺のほうを見ている。
ポーションのおかげで傷はもう治っている。
「もう、傷は治ったので大丈夫です」
「そうだけど……心配です。もう、ケガしないでくださいねっ」
「はい……心配かけてすみません」
俺が見ても引くくらいに、床には血が流れている。
これは掃除が大変そうだ。
よく生きてたもんだ。
俺が生きているのは、シモダさんとオトナシさんのおかげだ。
隣人ガチャ、大当たりだったわ。
ハズレとか言ってごめん、シモダさん。
あとでさりげなく様子見に行ってみるか。
なるべく音を立てないように、二人で部屋を掃除する。
二人の初めての共同作業は……ぜんぜんロマンチックじゃない。
あんまり騒ぐとシモダさんがまた怒鳴り込んでくる。
今度は禁則事項には触れないけど、俺たちが法律に触れてしまいそうだ。
たぶん、器物破損あたりに。
そんなもので捕まったら、結局ダンジョンのこともバレてしまいそうだ。
「俺たちが居ないときに、このダンジョンが見つかったらどうなると思います?」
「えっ? 居ないときに勝手にトイレに入る人はいないと思いますが……どうなっちゃうのかな」
今気になったのは、俺たちが関与せずに、誰かがダンジョンを知ってしまうケースだ。
オトナシさんのトイレでも、俺のクローゼットでも。
持ち主でなくても中に入ることができることは、もうわかっている。
下着泥棒――たぶんストーカーが部屋に侵入したことがある。
そのとき、ストーカーはトイレには入らなかった。
だから、彼女がダンジョンを持っていることを彼は知らなかった。
もし、ストーカーが気まぐれにトイレを開けていたらどうなったんだろう。
ストーカーで下着泥棒な彼が、さらに高度な性癖を持っていたとしても……。
いや、考えるのはよそう!
俺はストーカーの気持ちなんてぜんぜん理解できない。
ちっとも思い至らなかった!
片づけを続けながら、思いついた疑問をぶつけてみる。
「他人がトイレのドアを開けてダンジョンに入ってしまったら……オトナシさんが消されてしまうんでしょうか?」
「私がダンジョンを隠せなかったってことになっちゃう……のかな」
意図せず知られた場合にも禁則事項に触れるのか。
ストーカーの場合は自らの発言と実際のスキルを使う場面を見られた。それがトリガーになった。
ダンジョンの入り口を見られた場合は、その時点で持ち主が有罪になるんだろうか。
誰のせいでもないとして、許されるんだろうか。
そうだとすれば、ダンジョンと持ち主がひもづけられて管理されていることになる。
俺のクローゼットに現れたダンジョンは、俺のダンジョンだと思っているが、別に専用ではないはず。
「これも、試すわけにはいきませんね。ダンジョンのことは知られないようにしないと!」
「そうですね。ということは私達……ずっとこのアパートで暮らさないといけませんねっ!」
なぜか、オトナシさんは嬉しそうだ。
「たしかに……。引っ越しとかする時どうなるんだコレ……」
ダンジョンを知った人は、部屋の持ち主を知らないことになる。
ダンジョンと持ち主を結び付けて考えないから……。
オトナシさんが口をとがらせながら言い直す。
「……これでずっと、隣に住めますね!」
「あっ、そうですね」
それで嬉しそうにしてたのか。
ずっと隣に、か。そっちの方向には考えていなかった。
また俺は、ダンジョンとか犯罪とか現実的なことを考えてしまったな。
俺がずれてる……んだろうか。
血まみれの事故物件を掃除しながら考えることとしては……。
ちょっと恥ずかしそうな笑みを浮かべているオトナシさん。
手には血まみれの雑巾。ぽたぽたと赤黒い血が垂れている。
……なんだろう。この感じ。
なにか、ちょっと怖い。
いやいや、変な意味じゃなくってね?
状況的にね?
いや、ずっと隣に居てほしいんだけど。
そう言ったし、そう思っているんだけど。
ちょっと状況的にスプラッターな雰囲気が漂っちゃうわけで。
ティーピーオー?
時と場所と場合によるっていうか……。
「……あれ? どうしました?」
「いえ、なんでも。ずっと隣に居られるようにしましょう!」
「はい!」
せっせと掃除を続ける。終わりが見えてきたな。
「あとはこの穴か……どうやってふさげばいいんだ? というか、大家さんにバレたらヤバいよなあ……」
「……えっ! 塞いじゃうんですか!? な、なんで?」
衝撃を受けたような表情で固まるオトナシさん。
あれ……俺、変なこと言ったか?
ひとつ屋根の下で暮らすみたいになっちゃうし。
薄い壁はもともと音もれが激しかったけど、素通しとなると色々と見えてしまう。
俺の理性とかがヤバい。
「え? プライバシーというか、デリカシー的にどうかと思いましたが……」
「私は大丈夫です! むしろ、このままのほうが……その、同棲みたいでいいじゃないです……か?」
「同棲……?」
「同棲です!」
なるほど!?
言われてみれば、俺達は告白が成立してお付き合いしている状態だ。
彼女は成人女性だし、法的にも心情的にも問題ない。
何の問題もないっぽいね!?
「おお……アリだなあ」
「アリですよ! 毎日一緒にご飯食べられますし! ダンジョンにも来てもらえるようになったから、私の畑の野菜も食べ放題ですよ!」
「そうか……そうだなあ。すごくいい気がする!」
「では、壁はそのままでお願いしますね!」
「そうしましょう。穴は後でもうちょっと通りやすいように形を整えましょう!」
そういうわけで、二人の新しい生活が始まることになった!
スキがあればいちゃつくスタイル……。
オトナシさんは恋愛・グルメ要素なのでどうしてもそうなります。
カップル成立はゴールじゃなくてスタートなのです!




