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名族朝倉家に栄光あれ  作者: マーマリアン
加賀三国志
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第53話 人の濃度

お久しぶりです。今回は次のエピソードの導入の様なものなので短いです。



冨樫泰縄という男はやる気の無い、というより覇気の無い男だった。本人曰く幼い若い頃からの長年の監禁生活に参ってこうなったと話していた。



そんな可哀想な少年時代を過ごしていた彼には同情を禁じ得ない。しかし酷い事なのだが、俺達も一乗谷にて泰縄に監禁を強いるつもりであった。


なのだが、

「一生養ってくれるのなら、一乗谷で傀儡として精一杯に励む」といい、出会い頭に従順な態度を見せたのだ。当初は怠惰の演技で朝倉家を欺くためだろうと誰もが疑ったが、復権を目論む動きは見せぬどころか、無為に過ごす姿がとてつもなく様になっていたのだ。


「晴耕雨読のような生活が出来るなら最良です」と晴れやかな笑顔で言っていたが、晴れの日も好きなだけ惰眠を貪り、好きな時間に思うまま書物を読み(ふけ)る。時には息抜きと称して石転や数絵札に興じる。


中々の自由人であったのだ。




...自由人なんて言葉を濁したが、なんというか、その、完全なニートだろ!「耕」の字は何処に行った!?


この状態に「冨樫仕事しろ」と声に出したい気持ちが溢れてきたが、こんなグータラな状態も傀儡としては立派な働きぶりなので、誰もがなんとも言えず迎え入れたのである。





神保長職は殆ど背中しか見えない男だった。

加賀攻めにおいて、出し抜かれた朝倉家中の怒りを一心に受ける彼は、終始平身低頭でひたすらに謝罪と弁明を繰り返していた。何故やったと聞けば「つい出来心」と言い、事ある毎に「恐縮です」と何度も口にしていた。



(しき)りに主に明智に唆されてやったと口にしていたが、仲介として同席していた明智光秀が「はて?加賀の坊主共の次は朝倉をも討ってやろうか!と聞き覚えが」と茶化した風に答えると、顔を青くしながら必死となって否定していた。



その話しぶりからするとどうも勢いで物事に取り組みながら、かつ後先考えない人物らしいが...いくら悪気は無かったと言われてもヤられた方は納得出来ないものだ。



恐らく明智とのやりとりも、実際にその場の勢いで本当に言ったのだろう。

暴露されて青くなる様子を見ているのは、詰問する立場から見ても憐れみを誘うものだった。いや、神保には甘さを見せず怒りをぶつけるべきなんだろうけどさ。

...神保の歴史も切った張ったしている戦国大名の一つなのだから。



元々神保家は、長職の父の代に加賀一向衆と盟を結んで神保家の勢力を拡大していたが、越後の龍の父親である長尾為景によって神保家は壊滅させられた。かろうじで生き延びた長職は徐々に勢力を回復させて、加賀で起こった享禄の錯乱においては冨樫家と能登畠山、朝倉の守護連合側に参加し一向衆と争った。



なれど享禄の錯乱の結果は守護連合の勝利といかず、神保家の損害大きく勢力が著しく低下した。そこに越中の趨勢を争っていた椎名家が越後の長尾家の後ろ楯を持って漬け込んできた。

これに対抗するため神保は再び一向衆と手を結んだのである。


一向衆は朝倉や冨樫には仏の恩恵は与えなかったが、神保には何度も救いの手を差し伸べたのだ。



まぁ、今回の一件で神保はその一向衆を何の躊躇(ちゅうちょ)も無く後ろから攻め入ったんですけどね。



()もかくこの男、不死鳥の如く勢力を回復させる再生能力も()ることながら、腱鞘炎なんか知ったことかとばかりの掌返しっぷりは凄まじい。

本人は心を入れ替えて朝倉の仲間になるつもりでも、突拍子に火が着いていつ爆発するかわからない男だ。その場のライブ感で味方をやって貰うのは困る。というか後ろは任せられない。




それでも、それでも結局神保とは同盟を組んだ。浅井が平穏だったなら容赦無く越中まで侵攻していただろう。

俺も含め朝倉家中の皆が歯痒く思うが、一番慚愧に堪えず、遺憾なのは父上だろう。そんな父上が下した決断だから俺達は何も()()()に従う事ができた。





とまぁ、そんな個性ある男達を、当家の人質となっていた最も際立つ個性のある男―――明智光秀の出した使いが連れて来たのが一週間前。


その日は同時に、冨樫泰縄の身柄を朝倉が手に入れたことによって、斎藤と正式に同盟を結んだ日でもある。


この同盟の周囲反応は様々――と言っても組んだ相手が相手なので好意的な物は少ない。

一番の仲良しである若狭武田家からは心配されたし、特に信長の実家である織田弾正忠家の抗議は凄かった。



そもそもの話、斎藤が冨樫泰縄を朝倉に連れて来なければ同盟は始まらなかったのだが、斎藤がこの男達を差し出したのは想像以上に早かった....この素早い動きに、冨樫泰縄を朝倉に差しだすのも奴等の予定通りだと思うと恐怖しか感じない。



曲がりなりにも斎藤は同盟の証しとして泰縄を連れてきた。それはこの同盟の真の目的である浅井攻めへのカウントが始まったのと同義である。



成ってしまった事に引き返せない、だからこそ浅井訪問で斎藤を出し抜けるくらいの何かが欲しい。そう願わずにはいられなかった。




明日にまた投稿します。

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