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名族朝倉家に栄光あれ  作者: マーマリアン
良き結末とその覚悟
34/54

第34話 越前に来るものは拒まず。美濃に逃げるものは



1545年 7月


あれから一益は与力として敦賀の景紀殿の元で働く事になった。


そもそも名目は父親の直参であるが、工藤や真田と違い仕官要請も顔見せも俺だけで行った。さらに言えば俸禄も命令も俺が出すという、実情は俺の配下というややこしい立場である。



そんなややこしい立場では俺の側どころか一乗谷に置いておくのも難しい。なので俺が元服、あるいは一益が朝倉家にとって有益であると判断されるまでは景紀殿の預かるところとなった。





それでもって本日は...とうとう俺の婚約者が来る日だ。



ちゃんと迎える為に綺麗な衣装に身を包み、朝から石鹸を使いながら水浴びをした。(ちな)みに使った石鹸は椿油由来の石鹸。最近販売したばかりだが香りと使用感から売れ筋No.1の朝倉家の主力商品だ。主に女性人気。


「今日だけはこれを使いなさい」と母上が自分の使ってる石鹸を渡してくれた。というか朝からあれやこれやと女性目線で指摘をしてくる。オカンか!って言いたくなるけどオカンだったな...



この椿石鹸、椿の花が首が落ちる花として武士には人気が無いのだけど、女性はそんなこと知ったこっちゃないとばかりに買ってくれる。キレイになるためには風習?何それ?を地で行くのだ。


販売者としてもお客様の御要望にお答えして、お構い無しにバンバン売っていく。そして売れていく。1日中笑っていられるよ。



一乗谷館の三の丸で待っていると城下町の方で騒がしくなってきた。来たのかな?と思いその方向を見ると、こちらに向かってくる集団と駕籠かごが一つ。

美濃侵攻中に見なれた海の波の様な斎藤家の家紋が入った駕籠だ。


門の前で止まると駕籠から一人の少女が出てきた。

切り揃えられた髪の毛、卸したてであろう綺麗な着物。

色々と目を惹く部分が多い女の子だが、なによりパッと出た感想は「大きい」だ。


同年代の女児の中でも身長はかなり大きい方だろう。というか同年の俺よりもデカイ。ま、まぁ子供時代なら男女の体格差は変わらないって言うし。男は十代前半から急激に伸びるし。最近は鶏肉食べてるから別にいいし。



...あとは顔も悪くない。と言うか綺麗になると思う。目がクリクリしてて可愛らしい。道三の遺伝子は優秀なんだろうか?信長に嫁いだと言われる濃姫も美人だと言うし。


彼女は辿々(たどたど)しく俺を見下げて「斎藤道三が娘。(よし)と申します。どうか宜しくお願いします」とキレイな挨拶をする。お付きの者達もそれに習う。

...人数的には100人程来ていた。



俺は笑顔で

「初めまして私が越前守護朝倉孝景が次男、六郎にございます。美濃から遥々お疲れでしょう。我等が城に参りましょう」

と返礼し、俺は用意していた大きめの駕籠を一乗谷館から呼び出した。

孫三郎と試したが子供二人が同時に入っても余裕がある。儀礼的にはアウトだろうが、今日に限ってはそんな事にウルサイ鷹瑳も何も言わない。


駕籠に二人で入ると伝え、吉姫の手を引き乗せようとするも彼女はキョトンと固まって動かない。


引っ張ったんだが悲しい事に、体格差のせいか俺の力では少しも動かせねぇ...まぁいいや、状況を理解していないであろう彼女達に説明しなければ。



「ああ、失礼しました。私は若輩ながらこの度妻を迎える事になったので、父上から近くの城の城代の役割を仰せつかったのです。これからはそこに居を構えるということです」

と言って先程より強目に引っ張る。今度は吉姫も理解したのか、動いてくれた。

「では行きましょう」とお付きの人達に向かって言う。



彼等彼女達は苦虫顔だ。

何度も言うが、一乗谷は見られてはいけない物が沢山ある。

それを狙って来たのだろう。

嫁入りの際に共に着いてくる御付きは大抵スパイを兼任している。他国の人間ではあるが間者と違い安全に、堂々と活動出来るのだ。夫婦間の会話も聞くことが出来るし、主である嫁と日頃から行動するのでその分、夫との距離も近くなる。



一乗谷周辺にある秘密拠点は隠してもこの人数なら捜索は容易だろうし、警備を抜けられる時もある。なので俺を城代とし、彼女と共に一纏めにして隔離することにした。その方が監視もしやすいし。


この時こそ朝倉家の形骸化した分国法が役に立ったよ。

「各家の当主は一乗谷に居を構えなければならない。」これに従うなら俺は彼女達を城に置いて一乗谷に住まないといけない。

新婚だと言うのに残念である。



駕篭の中で、詳しく分国法について説明すると彼女はガックリする。

「残念です。一乗谷に住めると思ってましたのに」と、本当に残念そうだ。


それにしても彼女は人質のような者なのに、どうしてそんなにも呑気なのだろう。残念がってはいても、親元を離れる悲壮感は感じさせない。もしこれが演技で、油断させるためにやっていたら本気でビビる。


6歳で素早い機転や演技が出来るのなら本気で道三の遺伝子を疑うや。



実際に彼女は明るく年相応の女の子なのだろう。もしかすると婚姻の意味も理解していないのかもしれない。

綺麗な顔立ちをしているし、とても明るい。好感の持てるタイプだし嫌いになる人もそういないだろう。


道三の娘じゃなければ良い夫婦になったろうに。俺も尽くしたはずだ。けれど俺達はそんな彼女の父親を殺そうと画策している。夫婦生活は絶望的だろうな...


とりあえず会話を続けよう。

「そんなに一乗谷に住みたかったのですか?」

と聞くと

「はいっ!話に聞くよりずっと人や物が沢山でした。それに皆も楽しそうで!」


「そう言ってくれると嬉しいです。今から向かうお城には、一乗谷で手に入る物全てを揃えることが出来ます。何か欲しいものはありませんか?」


「でしたら石転と数絵札が欲しいです。私、好きなんです!」

かなりファンのようだ。他人の(ふんどし)だが製作者としては嬉しい。



「勿論用意してますよ。それに和歌やお琴の師範もいらっしゃいます。私が居ないときでも楽しいと思いますよ。それに差し支え無いのなら、同年代の女子の御付きも何人か御用意させていますがどうでしょうか?」


と言うと彼女は今日一番に嬉しそうだ。ちょっと傷付くが、時偶(ときたま)にしか家に帰って来ない奴より毎日会える友達の方が嬉しいのだろう。

「本当ですかー!?あぁ!私は越前に来れて良かったです」


いい笑顔だなぁ。これならペラペラ答えてくれそうだ。



◇◇◇



「どうやら彼女の本来の御付きは3人のようだ。それ以外は本物の使者と間者が折々だろう」

俺はそう鷹瑳に伝える。俺達がいる場所は一乗谷から北に約2㎞離れた平城の二平城である。この城は分国法を逆手にとって彼女を封じ込める為に造ることになった城だ。


本当に小さい。が、城は城だ。

工兵達は頑張ってくれた。建築速度も従来より早く、ついでに城の周囲の草木の刈り取りも行ってくれたので見晴らしも良い。夜でも人の動きが良く分かる。


お陰で今から行う作業にうってつけだ。



「一応弓を主体にしておけ。死体は獣に殺された事にするから刀傷を作らない様にと伝えよ。...最悪は山岳で迷ったことにするが人数が多くては何を言われるかわからん。それと分かっていると思うが殺すのは油坂峠までだ。そこから先は流石に不味い」



鷹瑳は了承し、部屋を出る。一人残った俺はこのまま就寝となるが...物凄く気が重い...




いつになるかはわからないが、先ほどまで二平城で共に笑っていた者達の中から死人が出る。俺が殺すように命じた。

これを謀略と言うのだろうか?


何だろう、、心が渇くと言うか(うごめ)くと言うか.....可愛く例えるなら、前世で小さい頃に悪いことをしてそれを隠し、親にバレませんように!って。隠してる間の面持ちかな?




......


軽くふざけてはみたものの、ちっとも気分は優れない。

情報も6歳の子供を騙して手に入れた物だし、それを思うと胸が痛い。これもまた、重い。

こんなのが長く続くと体に悪いな。




この作戦は多分悪手だろう。名目上の使者を殺すのだからな。標的は間者だが簡単に判別も出来ない。だから纏めて殺す。何人か本物の使者も巻き添えになるかもしれないが仕方ない。



何を言われるか分からない。

だが今は、道三は強く文句を言えないだろう。味方は俺達だけだ。それに奴は信用がない。今回の騒動も相まって、どんなに正しいことを主張しても皆は奴の策謀を前提に考えるはずだ。奴はそのくらい信用がない。



どうやら城に残る者は20名近くで、残りは帰るらしい。対する俺達は城の見張りに100名、帰る者を見張るのに300名程動員した。その間に不審なことを行えば熊の餌になる予定だ。


警備の期間は美濃に帰る80名を見張った者が国境の油坂峠まで送った後に、相手側に動きが無いか確認して帰って来るまでだ。見張りは国に戻る80名の内、帰路で不審な行為を行った者には積極的に危害を加える。

攻撃的な見張りだ。


ここまで過剰になったのも道三が相手だから。俺達が及ばない程の策略の持ち主だからだ。歴史から考えるとウチで対抗出来得るのは孝綱ぐらいだろうか。だが今の彼では道三に敵わないだろう。奴は60に近く、孝綱は30になったばかりだ。

60年も殺し合い・騙し合いを経て()し上がってきたのだ。

重みが違う。


今の俺達が勝ってるのは金と数の力だ。それで勝負をしよう。



...それにしても喉が渇く――



6歳児の女の子の喋りは難しいですね。

「勉強しなきゃ!」って行動すると社会的に死ぬので吉姫の喋り方は、彼女が成長するまで下手くそなままです。

ご免なさい。

それと道三の娘の資料って濃姫の独壇場なんですね。他の子は全然出てこないです。辛うじて姉小路に

嫁いだ娘の名が胡蝶だけでした。

なので名前も適当につけました。

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