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「神の奇跡を利用しようとする人たちがアヤちゃんを!?」

「さとて。巫女を探しに行くか」


 確か巫女は村の真ん中あたりに連れていかれたよな。

 俺は未だしがみ付く王女をそのまま引きずりながら移動を開始した。


「ふぇ? またアヤちゃんに会いに行くんですか?」


「うむ。勇者を誘導して巫女と出会わせる作戦は失敗した。なら今度は、巫女に勇者の存在を教えて合流するように誘導する。幸い勇者は吹っ飛んで行ったが、まだこの近くにいるだろう。きっと巫女は勇者を探すに違いない。魔王を倒すという目的が同じだからな」


 そうして俺たちは村の中心部にやってきた。そこには小さな神社が建てられており、その前で祭りの準備が行われていた。

 おそらくは巫女を祀るための準備だろう。水不足になりそうな時期に雨乞いで雨を降らせたって喜んでたしな。

 村人はみな、生き生きと準備に取り掛かっている。そんな村人に俺は話しかけた。


「すまない。奇跡の巫女はどこにいるのだろうか? 俺も話をしたいのだが」


「おお、巫女様なら祭りの準備が終わるまでくつろいでもらっておるよ。本殿にいるはずだべ」


「わかった。感謝する」


 俺は言われた通り、本殿に入ってみた。

 小さな神社の小さな本殿。そこにはなぜか誰もいなかった。


「あれ、誰もいませんね。お散歩にいったんでしょうか?」


「……いや」


 床を見ると、足跡がいくつも残っている。


「誰かが巫女を連れ出したんだ。しかも複数でな」


「えぇ!? そ、そういえば今は小降りとはいえ雨が降って靴が汚れています。そんな状態で本殿に土足で入り込むなんて、ちょっと妙ですね……」


 王女もすぐに状況を理解し始める。そして頭の回転が速い王女はすぐに状況を整理した。


「外で準備をしている村人が気づいていないという事は、アヤちゃんが自ら着いていったのかもしれません。アヤちゃんは人を疑う性格じゃありませんでした。うまいことを言って誘導されたのかも。魔王様、前に結界で周囲の人々の動きを把握できると言っていましたね。あれでアヤちゃんを見つけられませんか?」


「なるほど、さすが王女だ。やってみよう!」


 俺は結界の魔法を瞬時に発動させる。

 この結界は俺を中心として周囲に広がり、その中にいる生物の動きを把握することができる。そしてその範囲は、俺レベルになれば超広範囲まで広げられるのだ。


「……見つけた。おそらくこれだな」


 巫女と思われる反応は、すでにこの神社から離れたところを移動中だった。


「はやり何かがおかしいな。どんどんとこの神社から離れるように移動している。しかも巫女と、その他複数の人間と一緒のようだ」


「ならやっぱり、神の奇跡を利用しようとする人たちがアヤちゃんを!?」


 そう考えるのが普通だろう。巫女の噂は俺たち魔王軍の耳に入るほど広がっている。だから良からぬことを考える人間が出てきてもおかしくないのだ。

 おまけに巫女は、王女が言うように人を疑うことを知らない性格だ。活発ではあるが純真無垢。そんな巫女が利用されるのは時間の問題だと思っていた。だからその問題を解消する意味も兼ねて勇者と合流させたかったのだが、まさかこのタイミングで起こるとは……


「魔王様、助けに行きましょう!」


「わかった。ならば俺が巫女の所に行く。王女は村人にこのことを説明して、みんなで巫女を保護するように説得してくれ。巫女の現在地はこの村の北の入り口だ」


「わかりました。あとから向かいます!」


 そうして王女と別れてから急いで巫女を追う。正直言って時間が惜しい。巫女が今どんな状態なのかもわからないのだから。

 俺は高速移動魔法を使用して一気に村の北へと飛んでいく。一気に反応のある位置に追いつくと、そこには小さな小屋が建っていた。

 どうやら巫女はこの中にいるらしい。なので俺は、まず窓から中を覗いてみた。


「くっくっく。さぁ巫女さんよ。神の奇跡とやらで俺たちを幸せにしてくれぇ」


 中には複数の男たちと、逃げられないように腕を掴まれている巫女がいた。どうやら巫女に怪我はなく、この状況に困惑している様子みたいだ。


「な、何を言っているの? お祭りは? ここでみんながご飯を食べるんじゃないの!?」


「ひゃ~っはっはっは! まだわからねぇのか? 俺たちはな、アンタに神の奇跡を使ってほしくて連れ出したんだよ! ここなら叫んでも誰も助けには来ねぇ。さぁ巫女さんよ、神に祈れば金銀財宝も手に入るんだろ? そうしてくれればすぐにでも解放してやるよ」


「そ、それはダメよ!! 人の身でありながら私利私欲で神に祈るだなんて許されないことだわ!」


「おいおい、俺たちを怒らせない方がいいぜぇ。そうじゃないと痛い目をみることになるからなぁ!」


 そう言って、一人の男がナイフを構える。

 これはマズい! そう思ったが、すぐにリーダー風の男が止めに入った。


「よせ。ここはちゃんと話し合おう。なぁ巫女さんよぉ。私利私欲で神に救いを求めるのは許されないと言ったが、俺たちはこれまで必死に努力をしてきたんだぜ? なのに全然報われなかったんだよ」


「え……? そう、なの?」


「ああ。人生なんて努力が必ず報われる訳じゃねぇ。むしろ不幸が重なることもある。ここにいる連中はみんなそういう奴ばかりさ。毎日毎日必死に努力してきたのに、なぜか不幸のどん底までおとされちまった。そんな人間さえ神様は助けてくれないってのか?」


「そ、それは……」


「俺は今まで必死に働いていた。けどな、家が火事になって全部焼けちまったんだ。こんなんじゃ今日食う物もありゃしねぇ」


「オイラは嫁さんと一緒に幸せに暮らしていた。貧乏でも二人なら幸せだった。なのにその嫁さんに裏切られて、お金も道具も全てを持っていかれちまった。信じていたのに、こんな仕打ちひでぇよぉ!」


「俺だって似たようなもんさ。もうこのままじゃ首を吊るしかない! なぁ助けてくれよ巫女さんよぉ!!」


 次々とそう言って男たちは泣き始める。しかしそれはあからさまな噓泣きだ。

 巫女に同情してもらい神の奇跡を使わせようとする安い演技なのは見え見えのはずなのだが……

 多分、この巫女は信じてしまう。疑うことよりも信じることを優先してしまうだろう。


「聞いたか巫女さんよぉ。俺たちは懸命に生きてきたのに、もう生きていく活力が沸かないほどの絶望を味わった。そんな俺たちが神に救いを求めることの何がいけないってんだぁ!?」


 巫女は俯いたまま考えて、考えて……。そうしてゆっくり顔を上げた。


「…………わかった。みんなを救ってもらえるように、祈りを捧げてみるわ」


 そう言って、巫女は両手を合わせた。


【盗賊kAは、『ククク、巫女ってのは人を疑わないからちょろいぜ』と思っている】


「……え? なにこれ、字幕?」


【盗賊Bは、『俺たちの演技でも騙されるとは、このガキは相当バカだぜ!』と思っている】


 巫女が驚くのも無理はない。そう、この俺が巫女に対して、『ジマクオン』の魔法をかけてやったのだ。だから今は周囲の状況が文字として見えている。


【盗賊Cは、『これから一生遊んで暮らせるかもしれねぇ。こいつは一生俺たちの奴隷だぜ!』と思っている】


「あ、あなたたち、私を騙そうとしたのね!!」


「な!? 急にどうしたんだよ。俺たちは本当のことしか言ってないぜ?」


【盗賊Aは、『なんだ? こいつ心が読めるのか!?』と思っている】


「今、心が読めるって思ったでしょ! もう騙されないわ!」


「なにぃ!? どうなってやがるんだ!?」


 巫女と盗賊が揉め始めた。まぁ、こういう人間の汚さを知るのも勉強だろうが、そろそろ頃合いだな。

 俺はここぞとばかりに扉をけ破った!


「ふはははは! 愚かな人間どもよ、これは俺の力によるものだ!」


「あ、あなたは魔王!?」


「な、なに!? 魔王だぁ?」


 巫女がいち早く驚いてくれた。


「今、巫女にはこの場の状況を文字化する魔法をかけてある。だからお前たちの心の中もお見通しだぞ」


「なっ!? こいつ、余計なことを!!」


 ちなみに、魔力を調整して俺の情報は提示しないようにしてある。

 あまりこっちの状況を知られるのは困るからな。


「この巫女は魔王軍が有効活用するのだ。貴様らのような下賤な輩には渡せんな」


「ふざけんな! 魔王だかなんだか知らねぇが、お前らやっちまえぇ!」


 盗賊どもが殺気をむき出しにして襲い掛かってくる。

 ふっ、哀れな。格の違いさえ理解できないとは。

 俺は指先から電撃魔法を発動して、周囲の盗賊に拡散させる。当然、俺に飛びかかってきた盗賊は全員が瞬時に感電した。


「ぎょべべべべべ!」


 シュウシュウと煙を上げて、全員がその場に倒れこむ。そんな様子を巫女は目を真ん丸にして眺めていた。


「ふむ。まだ生きているのか。ならば次でとどめを刺してやる!」


 もちろん脅しのつもりで、俺はさらに大きな雷をバチバチと鳴らして見せた。


「こ、殺される! 逃げろぉ~!!」


 盗賊どもは窓から飛び出して逃げていく。あとに残されたのはポカンとしている巫女だけだ。

 さてと、ここからまた、うまい具合に巫女を誘導しなくてはいけないわけだが、果たして思い通りに動いてくれるかな……

 そんな気持ちを抱えつつ、俺は奇跡の巫女に歩み寄るのだった。

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