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「喧嘩や争いは、同じレベルの者同士でしか起こらない!」

「さっきの天に上る炎、何かと思えばお前の仕業だったか! 一体ここで何をしている!」


 くぅ~。あと少しで巫女と出会わせてられたのに……。どうしてこう肝心なところでうまくいかんのだ!

 だがまぁ仕方がない。巫女もまだこの村にいるんだ。情報を与えて誘導してやればいいだけの事!


「何をしてる、だと? そんなことは決まっているではないか。貴様と同じで巫女が目当てよ」


「巫女だと? 何を言っている!?」


 そう、こうしてつい情報を漏らしてしまった的な、そんな感じで誘導してやればいい!


「とぼけなくともよい。貴様もこの村にいる『神の奇跡を操る巫女』に会いに来たのだろう?」


「何を意味不明なことを! そんな奴は知らん!」


「くっくっく。分かっているさ。あれほど強大な力を持った者を仲間にすることが出来れば、大幅に戦力アップだからな」


「そんなことはどうでもいい! 俺はお前を倒すために渓谷の洞窟を探索していたんだ!」


 いやいや、食いついてこいよ!

 こんだけ情報を提示してるんだから少しは興味を持ってくれよ!


「しかし残念だったな。巫女はたった今、『村の中央』に連れていかれてしまったぞ。あと一歩遅かったというわけだ。はっはっは!」


「うるさい! そんな事よりもこれを見ろ。俺はついに伝説の盾を手に入れたんだ!」


 なんだこいつ全然乗ってこねぇ~!!

 仲間を作るという発想がないのか!? どんだけソロプレイで攻略したいんだよ! 制限プレイとか意識高いなおい!


「だ、だが貴様と巫女を出会わせるわけにはいかん! ここで阻止させてもらうぞ!」


「俺の話を聞け魔王よ!! 俺はな、この数日間ずっと伝説の盾を手に入れるために探索をしていたんだ!」


 知ってるわ! お前が伝説の盾を手に入れる話を王女から聞いている時、俺もそこにいただろ!

 あと話を聞いてほしいのはこっちだわ!


「そして俺はついに伝説の盾を手に入れたんだ。この盾はな、なんと魔法攻撃を跳ね返す効果を秘めているんだ!」


 知ってるわ! その話も俺の前でしてただろ!

 あと戦う前から得意げに効果をバラすな! 自慢したがりか!


「さぁかかってこい魔王! 伝説の鎧で守備力もある。もうお前の攻撃は効かないぜ!」


 ……顔をぶん殴ってやりたい。

 いや、俺はわざと負けなくてはいけないんだ。私情は捨てろ! 魔法を跳ね返すという伝説の盾を手に入れたんだ。これで本当に負けることができるかもしれない。巫女を仲間にするなんてことをしなくても終わりにできるかもしれないんだ。


「くっくっく。ならば試してやろう。『ファイアーボール!』」


 とりあえず初級の攻撃魔法で様子を見る!

 俺が火の玉を飛ばすと、勇者は盾を構えて攻撃を防御した。すると火の玉は見事に跳ね返ってきた。


【勇者は魔法を跳ね返した】

【魔王に58のダメージ】


 おお!? 本当に俺にダメージを与えたぞ! 伝説の盾ってすごいな!!

 これなら本当に負けてやれるかもしれない。


「やるではないか。ならこれならどうだ! 『ダークブリッツ!』」


【勇者は魔法を跳ね返した】

【魔王に133のダメージ】


 おお、中級魔法も跳ね返せるのか。すごいな。次は上級魔法だ!


「まだまだこれからよ! 『ディボルスパーク!』」


【勇者は魔法を跳ね返した】

【魔王に579のダメージ】


 うおっ!? これも跳ね返せるのか! これはいける! あと20回くらい繰り返せばさすがの俺もやられるだろう。

 だがそんな時だった。勇者は構えていた盾を下ろし、ため息を吐いた。


「はぁ……そうか、ついに俺は魔王を超えた。この俺が最強になってしまったんだ……」


 なんだか遠くを見るような目でそんなことを言い始めた。


「なってみて分かった。最強なんて……虚しいだけだ」


 なんだこいつ!? 突然悟りを開いたような感じになったぞ!? ただ装備の効果で俺の魔法を跳ね返しているだけなのに!


「なぁ魔王。もう止めないか? こんな戦いは無意味だ。争ったところで悲しみが広がるだけだ……」


 こ、こいつ、俺をバカにしているわけでも煽っているわけでもない。本当に虚しいって思っていやがる! なんかそんな感じの目をしている!

 よくもまぁ多少強い防具を装備しただけでそんな急に考え方を変えられるな!

 とりあえずその本気で悲しそうな顔するのやめろ! マジで腹立つから!


「これまでの事は水に流そう。これからは人間も魔族も、互いに手を取り合って生きていくんだ。争っているだけじゃ何も生まれないぜ」


 くっそ~。言ってる事はまともだけど、これまでのへっぽこっぷりでいきなりそんな事を言われてもイラっとするな。

 それに俺たちだけの間で『もう戦いを止めまーす』なんて言ってもそんな簡単には終わらない。

 そもそもこっちにはこっちの事情もある。


「くっくっく。調子に乗るなよ勇者。もう勝った気でいるのか?」


「もうやめるんだ魔王! 俺はこれ以上戦う気はない。お前はこんな言葉を知っているか? 『喧嘩や争いは、同じレベルの者同士でしか起こらない!』」


 ……つまりなんだ。勇者よ、貴様は俺よりも一つ上のランクになって、争いが虚しくなったと? 今まで散々考えもなしに突撃してきたやつのセリフとは思えないんだが!

 いかん、割と本気で殺意が芽生えそうで怖い。話をしてたら鬱憤がたまる一方だ!


「ふっ、勇者よ、言いたいことはそれだけか? 『マジックアクティベーション!』」


 マジックアクティベーション。それは魔法の消費する魔力が二倍になる代わりに、威力も同じように二倍になる魔法だ。

 これで一気に終わらせる。さすがの俺も、渾身の一撃を跳ね返されたら無事では済まないからな。


「魔族と人間が手を取ることなどありえない! 貴様が戦わないというのなら、この俺が貴様を消し炭にしてやる!」


「よせ魔王! お前じゃ俺に勝てない!!」


 だ~! 最後まで上から目線だなこいつは!

 もうさっさと終わらせよう。


「くくく、跳ね返せるものなら跳ね返してみよ!! 喰らえ! 『インフィニティノヴァ!!』」


 最上位魔法にして俺の中で屈指の威力を誇る攻撃魔法だ。

 全力で魔力を放出すると、それは波動砲のような巨大な閃光となり轟音を轟かせた。

 勇者はそんなバカでかい魔力の波動を伝説の盾で受け止める。すると行き場を失った魔力は盾に蓄積されるように膨れ上がった。

 勇者も懸命に押し返そうとする。それだけの威力なのだ。これが一気に逆流して返ってくれば、たとえ俺でも完全に消滅するだろう。

 さぁ、いつでも来い!!


 ――ミシッ!


 そんな時、俺の耳に軋むような音が聞こえた。


 ――ピキ、ピキピキ……メリメリメリ!


 金属がひび割れる音に、俺はハッとする。伝説の盾が壊れそうになっているのだ!

 まずいまずい! もし壊れたら勇者が死ぬ! 魔法を止めなくては! 解除解除! 攻撃魔法のキャンセルぅ~!!


 ――ジジジジ……ドッカーーーン!!


 急いで魔法を解除すると同時に大きな爆発が巻き起こる。放出し続けた膨大な魔力と、跳ね返そうとしてその場に溜まった魔力が一定値を超え、大きな爆発になったのだ。そして……


 ――ガッシャーーン!!


「のわあああああああああぁぁぁ~~~……」


 金属が砕け散る音と共に、勇者は天高く吹き飛ばされていた。

 なんかアレだ、ギャグ漫画とかで邪魔者が退場するときに吹っ飛んでいくアレだ……

 というか、これ勇者は死んだんじゃないか!?


【なんと伝説の盾が砕け散った】

【なんと伝説の鎧が砕け散った】

【勇者に87のダメージ】


 ふぅ。伝説の防具は壊れてしまったが、なんとか攻撃魔法の威力だけは抑えてくれたようだな。吹き飛んだ方向は山だし、木々がクッションになって死にはしないだろう。

 いや~、せっかくやられるチャンスだったのに壊してしまったな。失敗失敗☆


「うわ~ん魔王様~! 今回こそはほんとに死んじゃうかと思いましたよぉ~」


 王女がまた泣きながら俺にしがみ付いてきたので、俺はそんな王女の頭を優しく撫でる。


「ふっ、心配をかけたな。伝説の装備を壊してしまったが、今は悔やんでも仕方がない。また次の作戦を考えればいいさ。大丈夫。勇者ならきっとまためげずに立ち向かってくるさ♪」


 俺は爽やかにそう言って、勇者がぶっ飛んで行った空を見つめる。

 うん。きっと自分でもビックリするくらい鬱憤がたまっていたのかもしれない。この時の俺は、作戦が失敗したにも関わらず、晴れ晴れした気持ちになっていたのだった。

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