「ちゃんと集中してますよ。ふむふむなるほど~」
「中はひんやりとしていますね」
王女と一緒に図書館へと入る。中はさすがと言うべきか、見渡す限り本棚が並んでいた。
「では、ここからは私が調べものをするので、ギル様はゆっくりと待っていてください」
「いや、俺も手伝おう」
そう言って、俺は王女と肩を並べる。
「確かに俺は本を読むのが苦手だが、本を運ぶくらいはできる。最初に気になった本があれば俺が持とう。それくらいはさせてくれ」
「ギル様!」
【王女の魔王への好感度が100上がった】
【しかし好感度はすでにカンストしている!】
ジマクオンの魔法もいい具合だ。
しかし、気を許しすぎじゃないか? そこまで好かれる事なんてやってないぞ……?
「それでは気になった本を集めましょう。ついて来て下さい」
そうして俺と王女は図書館の中を回り始めた。
さぁ王女よ、一体どんな策略を張り巡らせるのか!? ここで全てを明らかにしようではないか!
「ギル様、この上にある本を取ってください。アレも気になります」
「ん? これか?」
俺は王女の後ろから、本棚の上に手を伸ばす。
【王女は、『わわわっ!? 魔王様と密着できてラッキー!』と思っている】
ん? んんん!?
よく見たら王女の後ろから本を取ろうとしているせいで、本棚に押し付けるくらい密着していた。
【王女は、『はぁ~、このまま耳元で愛を囁いてくれたら素敵なのになぁ……』と思っている】
というか待ってくれ、この魔法はいつから人の心まで見通すようになったんだ!?
そういえば前に、スライムメタルを倒してしまった時にレベルかなり上がったな。もしかしたらあれで俺の魔法が洗練されてしまったのかもしれない。
【王女は、『でも魔王様には無理か。私の気持ちに気付かないほどニブちんだしなぁ』と思っている】
そんな訳あるか! 流石に気付いとるわ! むしろ王女が自分の気持ちに気付いてないんだろ! その気持ちは愛ではなく興味や憧れの部類だぞ!
【王女は、『どうせ今回の図書館も、私とデートしてるだなんて思ってないんだろうなぁ……』と思っている】
あ、うん。それは思っていなかったな。なるほど、デートか。そこは気づいてやれなくてスマン……
いや、というかだな……
【王女は、『あぁ~魔王様ほんと優しい。それにカッコよすぎ。結婚したい!』と思っている】
これ、マズくないか? いくらなんでも人の心を見通すのはマナー違反だ。モラルと言うか、プライバシーを無視しすぎている。
しかも王女の考えている事が想像以上で、聞いてるこっちが恥ずかしいんだが……
【王女は、『子供も欲しい! 魔王様の子供なら何人産んでも構わない!』と思っている】
おわわわわ! 本格的にマズい! 聞いてはいけない事を聞いてしまっている気がする!
そうだ! 誘導尋問をすればいいんだ。俺は王女が良からぬ事を考えているのではないかと、そこが気になっている。その事をうまく話題に出せばよいのだ!
「どうだ王女よ。伝説の武器が載ってそうな本はまだあるか?」
俺はそう聞いてみる。
これによって本心が分かるはずだ!
「ギル様、ここで『王女』と呼ぶのはダメですよ」
ぬ!? 確かにそうだ。
今、王女は魔王にさらわれている事になっている。だから俺がここで王女と呼ぶのは厳禁なのだ。
「そうだったな、すまない。これからは気を付けるよ、リーザ」
「!?」
俺が名前で呼ぶと、王女は顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。
むむっ!? 怒らせてしまったか?
【王女は名前で呼ばれた事にときめいてしまった!】
【王女は魅了されている】
状態異常!? 王女にバッドステータスが付与されてしまったぞ!?
もしかして王女は俺と会話するたびに、いつもこんな状態になっていたのか!?
「リ、リーザよ、大丈夫か? そろそろ席に着いた方がいいのではないか?」
「そ、そうですね。館内を歩くのはここまでにしましょう……」
【王女が正気に戻った】
ふぅ、なんとか会話できるまで回復したな。
とにかく、あまり王女の妄想を膨らませないようにしつつ本心を探っていこう。
俺たちは適当な席について、持ってきた本をテーブルに重ねた。そしてそれを王女が一冊ずつ確認していく。
「どうだ? 勇者に有利な情報は載っているか?」
「ん~、そうですねぇ。今のところは特にありません」
【王女は、『はぁ~、魔王様を倒すような情報なんて調べたくないなぁ~……』と思っている】
ほらきたー!! やはり王女は心の中で俺たちの作戦んを快く思っていないのだ!
「どんな些細な情報でもいい。勇者を強化できる装備やアイテムは見逃さないようにしてくれ」
「もちろんです。私に任せて下さい!」
【王女は、『あ~あ、勇者様が旅の途中、なんかこう間違って事故ったりしないかなぁ……』と思っている】
なにー!? なんて事を考えてるんだ!?
勇者になにかあったら俺たち全員地獄行きなんだぞ!
「ゴホン! あ~……俺たちが地獄行きになるかどうかはリーザの手にかかっていると言ってもいい。期待しているぞ!」
「はい! 私に任せて下さい。ギル様を地獄になんて行かせませんから!」
【王女は、『間違って勇者様が死んで、地獄に行くまでのあいだ私と楽しく暮らしてくれたらいいのになぁ』と思っている】
えええぇぇ~!! この子怖いよ~!
心の中で考えている事と全く逆の事を口に出せる能力を持っているぞ~!!
しかもそんなとんでもない事を考えているくせに、表情は俺を安心させるような笑顔のままとか余計恐ろしいわ!
まさかここまで自分の思惑を隠せるほどの演技派だったとは!
俺なんてよく、『考えている事が表情に出てますよ』って笑われるのに!!
……いや、それは俺が単に分かりやすいだけか……? とにかく、このままではマズい。王女には考え直してもらわないと!
「リーザよ。一応確認しておくが、これは俺だけの問題ではない。魔王デスライク様の魂もかかっている事を忘れないでくれよ」
「はい! もちろんです。ギル様の大事な人ですよね? 忘れたりしませんよ」
【王女は、『というかデスライクって誰? 私よりも大切だなんて、魔王様ってホモなのかな?』と疑っている】
んなわけあるか~~!! ホモとかゲイとかそういう問題じゃないわ!! 自分の人生を導いてくれた人に恩義を感じるのは当たり前の事じゃい!
【王女は、『はっ!? もしかしてデスライクって女性!? 魔王様とどういう関係!?』と気が気ではない】
いや何を考えているのだ!? いいから調べものに集中してくれ!
「ギル様! そのデスライク様というのは女性なのですか!? もしかして生前は付き合っていたとか!?」
「いやいやいや! デスライク様は男性だ。さらに言うならかなりの高齢だぞ! 何をそんなに心配しているのだ!?」
「そ、そうなのですね。ほっ……」
【王女は、『よかった~。魔王様は私だけのモノなんだからっ!』と思っている】
いや勝手に決めるでないわ! なんで唐突に彼女面!?
「さぁリーザよ。そろそろ調べものを進めよう」
「そうですね。任せて下さい」
【王女は、『そういえば魔王様ってどんな子がタイプなのかな?』と気になっている】
オーイ! 言ってるそばから別の事を考えてるじゃないか~!
「どうだリーザよ。伝説の装備は見つかったか?」
「いいえ、この本にはありませんね。次を見て見ましょう」
【王女は、『そんな事よりも魔王様って胸が大きい方が好きなのかな?』と自分の胸を気にしている】
そんな事って思ってるじゃないか! 全然調べものに集中してない~!!
「リーザよ! 頼むから調べものに集中してくれ! ほら、何か載ってないか!?」
「どうしたんですかギル様? 大丈夫。ちゃんと集中してますよ。ふむふむなるほど~」
【王女は、『こんなのよりバストアップの本とか読みたいな~。あとは男性の射止め方と、他にも~……』と思っている】
なんかペラペラてきとうにページめくってるだけになってるぅ~!!
ちゃんと集中して本を読んでいる人は『ふむふむなるほど』なんて言わない~!!
どうしたものかと俺が頭を悩ませているそんな時だtった。
「ち~っス! 魔王様いますか~?」
図書館の扉を開け放ち、お買い物係を担当していた魔族たちが入ってきた。
っていうか、ここで魔王と呼ぶな! 周りに誰もいないから助かったけど……
「早かったな。こっちはまだまだかかりそうだ。調べたい事が沢山あるからな」
「そ~っスか。……って、あれ? 魔王様、なんか魔法使ってます?」
突然その魔族がそう言った。
そしてその瞬間に王女がピクリと反応する。
「ギル様が魔法を使っている? どういう事ですか?」
「俺たち魔族同士ならわかるんスよ。魔法を使えば魔力の流れが活発になるっスからね。だから今、魔王様は何かしらの魔法を発動してるってのはわかるっス!」
ギギギギギ……と、王女が錆びたロボットのような動きで俺を見てくる。
ヤバい! ヤバいヤバいヤバい!!
「あ~……お前たち、先に帰っていてくれ。その荷物をいち早く拠点に運ぶのだ!」
「うぃ~っス! あ、王女ちゃん気を付けた方がいいっスよ。魔王様の使うジマクオンの魔法は相手の心さえ見通すことも出来るっスからね~。ま、そんな魔法を今ここで使ってるわけないか。あはは~」
陽気な魔族たちはそう言い残して去っていく。後には見開いた目で俺を見続ける王女と、タラタラと冷や汗を流す俺だけが残っていた。
「ギル様、今なんの魔法を使っているんですか? 私にも教えてください」
王女は一切表情を変えず、真顔のまま俺に近づいてくる。
……目のハイライトが消えて非常に怖い……
「あの……その……アレだ! 結界を張っていたのだよ。すでに勇者がここに来るかもしれないだろう? だからこの街全体に結界を張って、人々の出入りをチェックしていたのだ!」
よし! この言い訳でなんとか乗り切ろう!
「そうですか。ではその結界を張ってからどれだけの人が出入りしたかを私にも教えてください。ありとあらゆる方法を使って照らし合わせますので!」
あわわわわわ。王女ならガチで調べかねない……
「ねぇギル様、本当はなんの魔法を使っていたんですか? 正直に教えてくださいよ」
ダ、ダメだ~!! これ以上俺には嘘を貫き通す自信がない~!!
「…………すまなかった!!」
手を合わせて頭を下げる。俺が人間の少女に怯え、震えるなんて王女が最初で最後だろう……
「……いつから使ってたんですか?」
王女が小さな声でそう聞いてきた。
「……この図書館に入った時から」
「……」
俺は恐る恐る顔を上げて王女をチラ見してみた。すると王女は、これまでにないほど顔を真っ赤にして、頬を膨らませたままで涙目になっていた。
そして――
「ギル様の……ばぁぁぁぁぁぁぁかぁぁぁぁぁああああああ!!」
静かな図書館に、王女の大きな声が響き渡るのだった……




