~涙するにもほどがある!56~
ドアノブが回ったことに驚きを隠せなかったリアだったが、驚いてばかりもいられない。これはチャンスだと思いなおし、そっと扉を開いた。しんと静まり返った廊下に扉のきしむ音がやたら大きくこだまする。
何がどうなってここ聖光教会内に誰もいないのか全く分からない。だが、こうなった事には何か理由があるはずで、ルシウスがカギを開けてどこかへ姿を消していることにはなにかしら意味があるはずだ。
リアは意を決し廊下へ一歩足を踏み出す。生ぬるい風がリアの頬を撫でるように吹き抜けていき何とも言えない不気味さに全身の鳥肌が立つ感覚にひとつ身震いをする。
「何が起こっているの?」
正直心細さはある。だが、ここにいてもあのお方とやらにいつ殺されるか分かったものではない。ルシウスがここにいれば一緒に逃げ出すことも可能だったかもしれないが彼がいない以上、一人で行動するしかない。
意を決し、誰もいない真っ暗な廊下を進もうとした途端、リアの足元の地面からスッと浮き上がるかのように姿を現したシリカに驚かされることとなり、小さな悲鳴が静寂に包まれた廊下に響き渡る。
「シリカッ‼ 驚かさないでください」
シリカとは、リアが結人達と別れ聖光教会に連れて来られてからできた、現状心許せる数少ない者の一人でだ。
見るだけでもわかるほど、さらさらの金色の髪をポニーテールのようにくくり、その顔はとてもかわいらしい少女のもので、フリフリのいっぱいついた若草色の服を着ているのだが、その実状幽霊である彼女は身体を通して向こう側が透けて見えている。
彼女はくすくすと笑いながらリアの顔より少し高い位置で立ち止まる。
「リア、どこに行くの? 」
シリカは幽霊であるがため、周りの者に声が聞こえることはまずないのだが、リアはとっさに静かにという意味を込めて人差し指を立てて口元に持っていく。その姿を愛おしいものを見るように見つめてシリカが少しだけ笑う。
「リア、私の声はほかの方には聞こえないので大丈夫よ。まあたまに、聞こえる者がいるみたいだけど」
いや、今ここで聞こえちゃまずいだろうと思わなくもなかったが、シリカが現れてくれたことに心から安堵し、それ以上何も言わないでおくことにした。
「それよりシリカ、この時間に来てくれるのは珍しいですよね?」
「そうだね。いや、なんかイヤーな予感? がするからリアが心配で来ちゃったよ。見たまんま教会内の様子がおかしいってのもあるんだけど、それだけじゃない気がするんだよね」
その点については、リアも何かしら言い知れぬ不安が胸の中で渦を巻いているのが分かる。姿が見えないルシウスに、自分がかなり頼ってしまっていたのだと改めて実感する。
「リア、教えた魔法は使える?」
シリカはひそかに魔法をリアに教えていた。聖光教会の最高司祭で聖女と崇められるリアは、教会の定めた「他人を傷つける魔法の類の使用を禁止する」という縛りがあったため今まで攻撃系の魔法というものに携わってこなかった。
だが、追われる身となり、ここに連れて来られてからそんな悠長なことを言っている場合ではないと実感した。そこへ現れたのがシリカだった。リアは幼いころから幽霊などが見える体質で、シリカが現れた時も大して驚きはしなかったのだが、彼女が魔法を、それもかなり高度な攻撃魔法を扱えることには度肝を抜かれたことだった。
隠れての練習しかできなかったし、部屋の中ということであまり目立った魔法などは使うことが出来なかったが、シリカの教え方が良かったことと、リアの魔法を使用するセンスが他人よりずば抜けていたからか、ある程度の魔法までなら使用できることが分かった。
「プロクス」
リアは、シリカの質問に対して頷き、実際に魔法を行使して見せる。暗い廊下に浮かんだリアの透けるように白い手に炎が出現しゆらゆらと辺りを暖かく照らし出す。その様子にリアもシリカもほっと胸をなでおろす。
「どうやら魔法は使うことが出来るみたいですね。よかった」
「そうね! それに私も普段縛られていたものが弱まっているのか、この部屋以外も動けるみたいだし」
シリカの話ではこの教会自体に強力な磁場のようなものが発生しており、その影響が少ない場所だけ実体化できるということだった。それが今、日頃実体化出来なかった場所でも実体化して動き回ることが出来るようになっているというのだ。
なぜ急に磁場が弱まったのかはわからないが、シリカが共に行動してくれるというのなら一人で動かなければいけないという心細さは緩和できる。それに、シリカはリアに魔法を教えてくた師でもある。すべての魔法を見せてもらったわけではないが、彼女の魔法はとても強力で、そこら辺の魔法使いなど遠く及ばないだろう。
「リアはこの命に代えても守って見せるね! まあ死んじゃってるんだけど」
シリカはこの暗く嫌な雰囲気を晴らそうとするかのように務めて明るく、おどけて見せたのだった
~おもちろトーク~
シリカ「リア、ここから先何かあっても私があなたの盾になって見せます!」
リア 「よろしくお願いしますね」
リア (何か飛んできて盾になっても透けてこちらに飛んでくるのでは……)
いせたべ、お読みいただきありがとうございます。今回の「いせたべ」いかがだったでしょうか? リア救出に動き出した結人、教会から抜け出そうとしているリア。教会内で起こっている謎の異変。この先いったい何が起ころうとしているのか!?
精神的な体調不良はかなり落ち着いてきました。ご心配してくださった方々、本当にありがとうございます。自分のペースではありますが、週一投稿出来る限り頑張っていこうと思っておりますので、今後とも応援よろしくお願いいたします。
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執筆していく上での励みとなっており、心強い限りです。また、小説以外での質問なども受け付けておりますので、気軽に感想覧へご記入いただければ、お応えできる範囲でお応えいたします。
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