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~涙するにもほどがある!47~

 黒騎士が結人の喉元に突きつけた薄青く光る魔法剣を鞘に納めるのを回らない頭で眺めながら、結人は自身の刀もオルクスを霧散させ消失させる。


 そして黒騎士が息一つ乱さないまま口を開いた。


「お前の剣には迷いがなく、剣筋も悪くない。だが、動きに無駄が多いのもまた事実。故に、今の攻撃も私に届く前に勝負が決した」


 黒騎士からのアドバイスに意表を突かれそうになったが、ここは自分が強くなるためにも素直に聞き入れるべきだと判断し今の言葉をしっかりと胸に刻み込む。


「お前は弱い。今のお前が、()()()()に戦いを挑んでも、どういう結果が生まれるのかは目に見えている。だが、お前が望んでいる者を救いだすくらいなら今のお前にも可能かもしれん」


 今の言葉に結人は耳を疑う。()()()()()()()()()……つまりは、結人が今探しているリアのことをさしていることに相違ないのではなないだろうか?


 だとしたら、こいつは何故そのことを知っているのか? リアは無事なのか? 黒騎士の正体は何者なのか? など、様々な疑問が一瞬にして結人の頭の中を過ぎった。


「彼女が……、リアが今どういう状況なのか知っているのか? だったら教えてくれ! 彼女はどこにいる?」


 結人は思いがけず現れた手がかりを決して放すまいと、決死の覚悟で問いかける。黒騎士は北東の方角を指さしながらさらに言葉を続けた。


「彼女の身は今の所安全だが、それもいつまでもは続かないだろう。急げ。お前の大切なものをこれ以上失いたくないのであれば、理想を実現させたいのであれば、自身の力量を見極め、最善を尽くし、あがき、いかなる手段を用いてでも手に入れてみせろ」


 その言葉にオピスの顔が一瞬脳裏をよぎり、胸が締め付けられるような錯覚に陥りそうになったが、黒騎士の言うようにもう誰も失いたくないのなら心身ともに強くある必要がある。


 黒騎士は北東を指さした。ここからでは流石に見えないが、あの方角はリアやティスがいた王都ゲネシスがある方角だ。彼女は、そこにいるのだろうか? だとすれば再び戻る必要があるが、結人が今なお罪人扱いされていることに変わりはなく、見つかれば衛兵に差し出されることは明らかだ。


 それでも、リアが無事だと聞かされた以上、彼女を助けに行かないという選択肢は結人の中には存在していない。そこでふとした疑問が浮かんだ。


「その話がもし本当で、仮に彼女が王都ゲネシスにいるのだとしたら、信者たちは黙っていないんじゃないのか? 前にリアから聞いた話、聖光教会は国の半分を支えている大きな存在だ。下手をすれば、民衆による内乱が起こるんじゃ?」


 そこでラプソディア達が結人のもとに集まってくる。ラプソディアは耳がすごくいい。今までのやり取りも全て聞こえていたようだ。


「話は聞かせてもらいました。あなたの言うことがもし仮に本当だとするのなら、なぜあなた自身が助けに行かれないのですか? それほどの腕があるのなら、人一人助け出すことも簡単なはずですが」


 確かにラプソディアの言うことにも一理ある。わざわざ結人の実力を試さずとも、自身で動けば早いではないか。


 だが、その問いかけに、黒騎士は動じることなく落ち着いた雰囲気で答える。


「それが出来るのならば言われるまでもなくそうしている。だが、敵もバカではない」


 そこで口を閉ざす黒騎士の様子を伺っていると、話はこれで終わりだと言わんばかりに(きびす)を返す。結人は最後にひとつだけ確認しておきたいことを聞くことにした。


「待ってくれ。最後に、お前は味方なのか?」


 すぐに返事が返ってくるだろうと思っていたが、意に反して返事はなかなか返ってこなかった。そして、黒騎士はぽつりとつぶやく。


「三日後の暗月の日にまた会おう」


 そして、結人達が止める間もなく魔法陣を展開させ姿を消した。おそらく、転移系の魔法を使ったのだろう。


「ラプソディア、暗月の日って?」

「結人様はまだ体験されていませんでしたね。暗月というのは、空に浮かぶ二つの月が重なり合い、姿を隠す日のことです。周期的に訪れる現象の一つなのですが、なぜ姿が見えなくなるのかははっきりとしていません」


 暗月までたったの三日しか残されていないのか? 黒騎士が、わざわざその日を指定してきたことには、何かしらの意味がありそうな気がしてならない。皆の様子を伺うと、結人の判断に任せるといった感じなのだろう。


 三日後……。あまり猶予は残されていないのだろうか? 黒騎士は、王都ゲネシスがある方角を指さしていたが、リアがそこにいると確証を得られたわけではない。それに、王都ゲネシスに辿り着いたとして、そこから探し出すことを考えると今からでも向かいたいところだ。

 

「ラプソディア、今回は潜入作戦になると思う。俺とティス、ラプソディア、この三人以外で潜入に向いている者はいるか? あと、さっきの黒騎士が使っていたような転移系の魔法が使える者がいれば嬉しいのだけど」

「かしこまりました。すぐに手配いたします」

~おもちろトーク~

結人    「待ってくれ。最後に、お前は味方なのか?」

ラプソディア(結人様、なかなかにド直球で聞きましたね(笑))




いつもお読みいただきありがとうございます。




いつもいいねや評価、ブックマークやご感想などありがとうございます。

執筆していく上での励みとなっており、心強い限りです。また、小説以外での質問なども受け付けておりますので、気軽に感想覧へご記入いただければ、お応えできる範囲でお応えいたします。


今後とも「いせたべ」をよろしくお願いいたします。

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