~涙するにもほどがある!46~
結人は意識を集中させる。オルクスのおかげで周りの時間が自分を残してスローモーションになったかのようになり、ラビアが放り投げた小石がゆっくりと宙を舞っている。
結人は刃先を右斜め下に構え、姿勢を低くして足にオルクスを集中させた。石が地面に落ちた瞬間に相手の懐に飛び込み喉元に刀を突きつける。結人は、頭の中で鮮明にイメージを形創った。激しく打ち合っても相手の実力が上ならば不利になることは分かりきっている。ならば、最初の一手にかけるほかないだろう。
相手は顔まですっぽりと真っ黒い鎧でおおわれている為どんな表情をしているのか分からない。分からないが、薄青く光る魔法剣を片手に堂々とした姿には、一切の隙が無いことが伺える。
あまりの緊張に、具現化させた刀を握る手にじっとりと嫌な汗をかいているのが分かる。そんな中、放り投げられゆっくりと落ちてきた小石が地面を打つ乾いた音が結人の耳に響き渡った。
それと同時に結人は足に練り上げておいたオルクスの力を最大限に利用し、一気に間合いを詰め相手の懐に飛び込む。視界の端に相手の剣がぼんやりと映っていることからも、黒騎士は対応に遅れたか、結人の動きについてこられていないかのどちらかだろう。ここまでくれば、結人の刀が相手の喉元を捉える方が早いはずだ。
斜め下から振り上げられた刀は、結人のイメージ通り相手の喉元を捉える寸前まで迫ることが出来た。だが、そこで手に衝撃が走り刀が大きく弾かれる。
視界の端で持ち上げられた黒騎士の魔法剣から、水の刃が放たれ結人の刀をあと一歩のところで弾いたのだ。弾かれたことにより結人が大勢を崩しそうになっているところへ、真横から魔法剣が迫りくる。
このままの状態から刀を引き戻し防ぐことは不可能だったことだろう。だが、幸いなことに、頭で考えるよりも先に、本能が警鐘を鳴らしとっさに左手を突き出していた。
別に狙ってそうしたわけではないのだが、結人の判断は間違っていなかったようだ。突き出した左手からオルクスが溢れ出し、高密度の障壁が相手の魔法剣を弾いたのだ。とっさの出来事すぎて自分でもどうやったのか結人自身分かっていなかったが、結果良ければすべて良しとすることにした。
ラプソディアとラビアも思わず拍手をしていることに内心どや顔をしながら、遠くの方ではティスがラワーレの背中を支えながら、もう片方の手でガッツポーズをしているのが見えた。
黒騎士は防がれるなど微塵も思っていなかったようで、顔は見えなくてもかなり驚いているようだった。
「冷静そうなお前でも、そんな風に驚くこともあるんだな」
その問いかけに黒騎士は何が面白いのか喉奥でくっくっくと笑った。
「ああ。お前の言う通り、今のガードには驚かされた。お前のような者の行動や思考パターンは読みやすいと思っていたが、少し評価を改めた方が良いだろうな……。もっとも、とっさのことだっだが故かもしれんが」
そう言いながら黒騎士は薄青く光る魔法剣を頭上に構えなおす。剣道でいうところの上段の構えに似ている。その時点でさっきとは比べ物にならない程の威圧感が結人を襲い、まるで猛獣にでも睨まれているのではないだろうかというほどの錯覚さえ覚える。ものすごい気迫だ。
その気迫に飲み込まれてしまえば、何もすることが出来ず一瞬にしてすべてが終わる。そう感じた結人は、全神経を集中させ、自分という存在を胸の内でしっかりと保つ。黒騎士が動いた瞬間にこちらも動けるように相手の足へと意識が向いた瞬間だった。来る!
黒騎士の足はその場から動いていない。だが、幾度も振り下ろされた魔法剣から水の刃がいくつも放たれ結人に襲い来る。だが、先ほどまで戦っていた木偶人形の攻防戦から言えばまだ遅く感じられるほどだ。
結人は慌てずに深く息を吸い込むと、順番に見切りをつけ、確実に弾き返していく。最後の一撃を弾き終わった瞬間に今度は結人が動いた。
黒騎士めがけて真っすぐに飛び出し、駆けながら左手に光魔法を集束させる。魔法はイメージだとリアから教わった。そして、単純な魔法ほどイメージしやすく成功する確率が高いということもこの世界に来て学んだことの一つだ。
結人は黒騎士との間合いに入るかどうかというところで目を瞑り、左手に収束させた光の玉を一気に開放させる。そうすることで、一種の閃光弾のように目を開けていられないほど強烈な光が辺りを包みこんだ。
油断していたわけではないと思うが、黒騎士もあまりの眩しさに一瞬腕を顔の前に持って行ったのを結人は見逃さない。黒騎士からは結人が一瞬にして消えたように見えたことだろう。黒騎士が顔を隠すと同時に地面を思い切り蹴り跳躍し、黒騎士を飛び越え着地と同時に振り返りながらオルクスを練り上げ具現化させた刀を、相手の首がある辺りへ振り抜く。
だが、そこで決着がついたことを結人は悟った。自分の刀が相手の喉元に届く前に、自分の喉元に相手の魔法剣が突きつけられていたからだ。ラビアの「そこまで!」と言う声が、結人の耳にはやけに遠く感じたのだった。
~おもちろトーク~
ラプソディア「結人様が負けるはずありません」
ラビア 「そうです! 結人様の首はまだつながっているのです!」
結人 「いや、俺まだ死にたくないんだけど」
いつもお読みいただきありがとうございます。
どういったストーリーや、どういった構成なら自分でも面白いと思える作品になるのか。この点をいつも重要視して執筆しているわけですが、いやはや、なかなかに難しいものですね(笑)。ですが、ありがたいことに、温かなご感想をたくさんいただいて、本当に嬉しい限りです(#^^#)ありがとうございます。
前にも書いたかな? 私、肩こりがひどいのですよ。筋弛緩剤などでごまかしてはいるのですが、あれは眠気が半端ないですから、夜だけ飲むようにしています。なにかもっと根本的な解決法はないものか(;´д`)トホホ
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