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~涙するにもほどがある!38~

 自分以外の何もかもがスローモーションにでもなったかのように、あるいは時が止まってしまっているかのような錯覚さえ覚える中で、今まさに斧を振り上げ胴ががら空きになったレッドキャップを横一閃に薙ぎ払う。この程度のものが相手ならば、どれだけの数がこようとも、体力が続く限り結人の敵ではない。


「ラビア、こいつら魔族とは違うんだよね?」

「はい。魔族のゴブリンに似てはいますが、このような魔物はこの地にはいません。それに魔族であるなら、魔王である結人様に刃を向けるなど言語道断です」


亜人や獣人たちの方をちらりと見ると、皆の守りを任せているラプソディア、エルフのラワーレや狐人族のスズネ、リザードンのサウラーが戦えない者を中心に取り囲むような形ではぐれてきたレッドキャップ達を撃退していた。ラプソディアがついているというだけでも心強いものがあるが、彼らだけでもそこそこ戦えそうなことに密かに胸を撫で下ろす。


しかしこの霧、視界が悪く身動きがとりづらい。これが陽動でないのであれば敵の狙いは結人であることは明白だ。ならば、誰か犠牲がでる前に結人自らこの場を離れた方が得策なのだろうか? それとも結人まで誘拐されたとなれば話にならないので、この場を離れるべきではないのか?


 結人が逡巡したそのときだ。斧を手に襲い来るレッドキャップに当たるのもお構いなしに、凄まじい数の水のつぶてが結人めがけて放たれる。どういった魔法なのかいまいちわからないが、レッドキャップの後頭部を平気で貫通する威力があるようで、当たればひとたまりもないことは明らかだ。


 それに周りの動きはスローモーションのように見えているわけなのだが、水のつぶてはかなりのスピードで迫りくる。


「ラビア! 俺の後ろに」


 数歩前へ出ながら結人が叫ぶより先に、ラビアは助けを求めて半分泣きながら結人の方にかけていた。


「結人様、ごめんなさい」


 結人は、オルクスを練り上げて具現化させた刀を縦に横に、あるいは刃を返すようにして全神経を集中させて切り落とす。本来であれば「気にすることはないよ」と声を掛けてあげたいところだったのだが、つぶての数が多く、かなり速いスピードで迫りくるので、いまの結人に返事をする余裕などは微塵もない。ラプソディアの方へ飛来したつぶては全てラプソディアが叩き落してくれているので問題はないだろう。


 素手で叩き落しているラプソディアと違い、少しでもタイミングがずれると水のつぶてはたやすく結人の身体を貫通するだろう。いつの間にかレッドキャップ達の出現は止まっていて、空間の歪みも閉じていた。否応なく飛来するつぶてに、これ以上は集中が続かない。そう感じてみんなに心の中で「ごめん」と謝った矢先、今の今まで飛んできていた水のつぶてがぴたりと止み、霧の奥から誰かの拍手と聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「ほお。今のを防ぎきるか! なかなかにやりおる、やりおる。あのお方が力を欲する訳じゃ」


 霧の奥から草を踏む音と拍手の音がだんだんと近くなり、姿を現したのは忘れるわけがない。リアを誘拐した張本人であるお爺さんだった。といっても、普通の人とは程遠く、瞳は異様に大きくネコ科の動物を思わせるような眼をしていて、しわくちゃの顔にかなりの猫背なのである。名前を確か、ベリルと言っていた。


 結人は歯を食いしばった。いくら探してもリアの手がかりが見つからなかったが、まさか向こうからやってきてくれるとは。しかも、リアをさらった張本人だ。この期を逃がせばリアは見つからない可能性が高い。必ず、必ずリアを連れ戻す!


「ラプソディア、ラビアと交代してくれ。こいつから確実にリアの居場所を聞き出し、助けに向かう」

 

 ラビアが後退し皆を誘導して遠く離れていく。ラプソディアは指示を受けた瞬間に結人の隣へ来ていた。相変わらず結人の眼をもってしてもラプソディアの動きが速すぎて見切ることが出来ない。


 猫の目をした老人は首をかしげながら一人ぶつぶつと呟いていた。


「リア、りあ、はてどこかで聞いた名じゃな……りあ」


 とぼけているのか、本気で忘れているのか分からないが、今の結人にそんなことはどうでもよかった。


「リアを、彼女をどこへやった?」


 そこでようやくつながったのか、老人は猫の目をいやらしく細めてにやりと笑う。黄色く所々抜けた歯が気持ち悪い。


「リア……あの時の小娘か。そうじゃな、彼女はどうなったじゃろうな。すでに死んだか、死よりも恐ろしい目にあっているか。どちらにせよ、あのお方の役に立つことが出来るのなら、これ以上の幸せはあるまいて」


こういう言い方をすれば結人が激怒するかもしれないという相手の魂胆がわかったので、結人はひとつ大きく深呼吸をし、相手のペースに乗らないように冷静に対応する。


「どっちみち教えてもらえるとは思ってないから。ラプソディア、行くぞ」


 掛け声とともにベリルを挟み込むような形で二人ともが同時に動いたのだった。

~おもちろトーク~

結人    「ラビアも戦えるんだね!」

ラビア   「エッヘン!」

ラプソディア「途中で結人様の後ろへ隠れてましたが……」

結人    (ラプソディア容赦ないな)



いつもお読みいただきありがとうございます。

今回いかがだったでしょうか? 誘拐されたリアの居場所は分かるのでしょうか?


話は少し変わるのですが、サブタイトルの「涙するにもほどがある!」ですが、少し長くなりそうな感じですので、途中で変えるか検討中です。良ければ皆様のご意見をお聞かせください。


先週も書かせていただいたと思うのですが、ブックマーク者数が100人を超えるということがこれほど嬉しいとは思いませんでした。ここまで執筆してこれたのも、皆様の暖かい声援があってこそです! ありがとうございます♪


いつもいいねや評価、ブックマークやご感想などありがとうございます。

執筆していく上での励みとなっており、心強い限りです。また、小説以外での質問なども受け付けておりますので、気軽に感想覧へご記入いただければ、お応えできる範囲でお応えいたします。


今後とも「いせたべ」をよろしくお願いいたします。

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