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~涙するにもほどがある!34~

 黒を基調としたローブに袖を通し、部屋に置かれた鏡の前に立ち自分の姿を確認する。


「おお、なんかラノベの主人公っぽい」


 ラノベという聞きなれない単語にラビアは小首をかしげていたが、それを見たラプソディアが律儀にも異世界に存在する書物だと教えている。というか、ラプソディアよ、一体どこで知ったんだい!? と心の中で突っ込みを入れながら後ろの二人に向き直る。


「おかしくないかな?」


 結人の問いかけに二人とも笑顔で答える。


「結人様、素敵です!」

「ええ、とても良く似合っていますよ」


 自分から聞いたことに間違いはないが、まさかここまで率直に似合っていると言われるとは思っていなかったので少し気恥しくなりながらも「ありがとう」とだけ返し、オルクスを操り真っ黒い刀を具現化させる。


 ラプソディアの話では、オルクスをここまで具現化させることが出来るものはそうそういということだった。結人が保有するオルクスの量が並大抵のものではないことの証だ。結人は刀を軽く振って感触を確かめる。


「さすがです。結人様」

「あれ以来、刀を出してなかったからね。オピスのような犠牲を出さないためにも、ある程度の準備はやっぱり必要だと思うから」


 数かい振った後にオルクスを形成して具現化している刀を霧散させる。あれ以来、もうオピスのような犠牲を出さなくても済むようにしなくてはならないという想いが結人の中に力強く渦巻いていた。敏感に結人の心情の変化を感じ取ったラビアが務めて明るい声で話題を切り変えてくれる。


「結人様、城下町楽しみですね! 今はちょうどお祭りの真っただ中なので色々と出店なんかも出ていると思いますよ!」


 一体何のお祭りをしているのだろう? 確かにこの部屋から見下ろすことが出来る城下は、ここ最近賑わっていることがよく伺えていたが、まさかお祭りをしていたとは思いもしなかった。


「今月は、始祖である魔王が誕生したと言われる月でして、サタナス祭として毎年城下でこの時期に開かれているお祭りです。魔王である結人様が顔を出せば、城下に暮らす魔族たちもきっと喜ぶでしょう」


 ラプソディアはきっと喜ぶでしょうと言ってくれていたが、ラビアがあの服を持ってきてくれた意味が少しだけ分かった気がする。魔王誕生の祭りに魔王である結人が出ていけば嫌でも確実に城下に暮らす魔族たちが集まってくるだろう。


 どうしたものかと思案していると、ラビアがどこからかファントムマスク的なものを出してきてくれた。


「結人様、でしたらせめてこちらを。特に何かしらの効果がある代物ではないですが、着けていないよりはましかと思います」

「おお、これならまだ様になってるよね! ちょっと怪しい人みたいにも見えるけど、囲まれて動けなくなるよりはずっといいね」


 ローブにファントムマスクを着けた結人は、ラプソディアとラビアと共に城下へと向かうため部屋の扉を開けたのだった。







 いつでも魔族たちが城へ出入りできるように、城門は開け放っているのだという。その城門をくぐると、もうそこは城下町で、石造りの色とりどりの家が立ち並んでいた。そんな路地を埋め尽くすかのように様々な魔族たちが屋台を出しては、色々なものを売っているのが見て分かる。


 漂ってくる香ばしい香りに思わずよだれがたれそうになるのを我慢しながら、結人はわくわくする心を抑えて、平静を装いながら一番近くの屋台へと近づいてみた。そこではゴブリンと思しき魔族が、頭に手拭いを巻いて綿あめならぬ蜘蛛あめというものを売っていた。


「蜘蛛って書いてあるんだけど、これ食べられるの?」


 及び腰になりながらラプソディアに問いかけてみたが、食べたことはないとの反応が返ってきた。左に並ぶラビアは食べたことがあるらしかった。


「蜘蛛あめっていうのは、蜘蛛の魔物からとれる糸を棒に絡めて空に浮かぶ雲のようにした食べ物で、あまくて美味しいのですが、何とも口の中に絡みつくあの触感が私的にはあまり好きじゃないです」


 そのやり取りを聞いていた店のゴブリンは、「まあ食べてから物いいな」と蜘蛛あめを作って一つ差し出してきてくれたので、結人は恐怖と興味半分で受け取り一口だけ食べてみた。確かにラビアが言うように口の中に絡みつく感じは何とも言えなかったが、味は綿あめそのものだった。


「お兄さん達、ここいらじゃあまり見ねえ顔だな。ここへは観光か何かで来たんか? なんにしても今は祭りの真っただ中だし、魔王様が即位したタイミングでここに来られたのはラッキーだったかもな。いつにもまして出店の数も多いみてえだし」


 メインとなる通りは緩くカーブしていっているのだが、その先までずっと屋台が並んでいるようだった。これは、どこかのタイミングで折り合いをつけないと、今日中に亜人や獣人たちの村までたどり着けそうにないなと本気で思った結人だった。

~おもちろトーク~

ゴブリン店主「さあさあ、蜘蛛あめを食べねえ」

女の子   「お金持ってないよ」

ゴブリン店主「祭りだし、サービスだ」

ラプソディア「あの店主、設けているのだろうか……」


いつもお読みいただきありがとうございます。今回いかがだったでしょうか?

村が出来たことや結人が立ち直り始めたことといい、いいことが重なる回となっていましたね! 


私は、お盆に体調を崩してからというもの、なぜかずっと眠たくてさっきも小説を書きながらうとうとしていました(;´∀`)ですが、お盆を過ぎると少し涼しくなったので一番暑かった時よりは過ごしやすいですね!


いつもいいねや評価、ブックマークやご感想などありがとうございます。

執筆していく上での励みとなっており、心強い限りです。また、小説以外での質問なども受け付けておりますので、気軽に感想覧へご記入いただければ、お応えできる範囲でお応えいたします。


今後とも「いせたべ」をよろしくお願いいたします。

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