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~涙するにもほどがある!28~

 魔王城の広大な裏庭の一角に墓地があり、オピスの葬儀は雨の中そこで執り行われた。オピスもそれなりに生きてきた魔族の一人で、良くも悪くもああいう性格だったもので知名度は高く、彼女の死を悲しむ魔族も少なくはない。そういった魔族や、連れ帰ってきた獣人たちに取り囲まれ、冷たい雨の中オピスが入った棺に土がかぶせられていった。






 オピスの葬儀から数日が経った。結人は窓の外、降りしきる雨をぼんやりと眺めながら、なにもやる気が起こらない自分に対して嫌気がさしていた。オピスの死をきっかけに、結人の心にもずっと雨が降り続いている。結人があの時、オピスに偵察役を頼んだりしなければ。という思いが頭から離れないのだ。上に立つということの重さが結人に否応なく襲い掛かる。もちろん、そういった事態を全く考えていなかったわけではない。だが、実際にオピスは死んでしまった。


 あの日のことを、オピスの胸のあたりから腕が貫通したあの瞬間からを、結人は何度も思い返していた。貫かれたとわかった瞬間に駆け出すことが出来たこと自体はよかった。血だまりの中倒れているオピスとその状況を作り上げた魔族。その一瞬の記憶は曖昧で、気が付けば魔族に刀を突きさし、血の海の中倒れるオピスを助けなければという思いだけで動いていた。


 穴の開いた胸から血が噴き出し、時たま弱弱しく動く半分だけになってしまった心臓がオピスがまだ生きていることの証明だった。そして、無我夢中でオルクスと魔力を注ぎ続けた結果、傷は徐々に治っていき、最終的には完全にふさがったのだ。それなのに、オピスの心臓は止まってしまった。血を流し過ぎたのかもしれない。だが、あと一分、いや、数十秒だけでも早く傷をいやすことが出来ていたなら、オピスの生死はどうなっていたのか? 助かっていたのではないのか? そう何度も繰り返し繰り返し自問するも誰も答えてなどくれなかった。


 あそこで捕まっていた亜人や獣人たちはひとまず魔王城に連れて帰ってきた。これほど人数が多くなることは想定していなかったので、皆を運ぶための物を持ってくると、ラプソディアが一度城まで帰り、メタスタシスと呼ばれる貴重な転移石を持ってきてくれた。一度使えば力をなくしてしまうが、月の光で徐々に力が充填されるというから不思議だ。もっとも、力が充填されるのにひと月以上かかるということだったが……。


 例の洞窟で人族と悪事を働いていた魔族は、現在、力を使うことが出来ない特殊な地下牢に幽閉している。奴を尋問したところ、人間たちにクリエンテラ(奴隷紋)の力を与える代わりに、自分は奴隷たちの生気を吸い、力を増していたということだった。ちなみに、この魔族にそう指示したものがいるようだったが、顔も名前もわからないとのことだった。奥の部屋に幽閉されていたエルフの少女ラワーレは生気をかなり吸い取られていたようで今はまだ眠ったままだ昏睡状態のままだ。傍には、もう一人のエルフがずっとついている。彼はなんでもその少女の父親で、名前をロザというらしい。


 リアの手がかりはというと正直に言って潰えてしまった。その命令した何者かというのが唯一の手がかりではあるが、名前も顔もわからないとなると探しようがない。だが、世界のあちこちでグリード(悲鳴)と呼ばれる集団が、同じように獣人や亜人を捕まえては売りさばくといったようなことをしているのだとしたら同じようにそのものが指示を出して動いている可能性もある。リアの情報を得るためには何かしら行動する必要があるだろうことは明白であったが今はとてもそこまで考えるだけの余裕は結人にはなかった。


 ティスも結人ほどではないが、内心かなり落ち込んでいた。必ず助け出す。その思いは変わってはいない。だが、やはり手がかりがなくなったということが一番大きなショックとなっているようだ。それが証拠に、あの日以降ティスはエテルノ(オルクス大書庫)に足を運び続けている。少しでもリアにつながるものを探し出すために。もちろん魔族たちにも協力してもらってリアの行方を探させてはいるが、これだけ呼びかけて誰一人としてその手掛かりを知らないというのは、魔界大陸ではない人族の土地に連れていかれた可能性が高いということだった。


 魔族は基本的に悲しい出来事などには強く、今なお涙しているものはほんの数人だ。そんな中にも例外はいて、ラビアはメイド服の袖を涙で濡らしながら結人とティスの状態をとても心配していた。


「結人様とティス様、大丈夫でしょうか……仲間の死をいたわってもらえるのはすごくうれしいのですが、元気がないのがとても心配です」

「ですね。私から言わせていただければ、オピスのあの致命傷を完全に治してしまったこと自体すごいことだと思うのですが、オピスが死んでしまったという事実は変わりませんからね。厳しいことを言うようですが、上に立つものとして乗り越えてもらわないといけない壁でしょうね」

「私、結人様のご様子をもう一度伺ってきます」


 そう言い残しラビアは結人の部屋がある方へ足早に去っていく。そんな後姿を見送りながら、ラプソディアはどうしたものかと思案したのだった。

~おもちろトーク~

ラビア   「結人様、美味しいものたくさん食べたら元気になるかな?」

ラプソディア「まあ我々にできることと言えばそれくらいですか……」

ラビア   「じゃあ目玉キノコたくさん入れてこよ!」


いつもお読みいただきありがとうございます。

今回は少し悲しいお話となってしまいました。結人はオピスの死を乗り越えることが出来るのでしょうか?

引き続きお楽しみいただけると幸いです(^^♪


私の地域では梅雨も明け、毎日猛暑となっております。皆様もくれぐれも脱水症状などにお気を付けください。あれ、寝ている間、知らないうちになっているパターンもあるみたいなので怖いです。



いつもいいねや評価、ブックマークやご感想などありがとうございます。

執筆していく上での励みとなっており、心強い限りです。また、小説以外での質問なども受け付けておりますので、気軽に感想覧へご記入いただければ、お応えできる範囲でお応えいたします。


今後とも「いせたべ」をよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 結人達の心痛がよく描かれていると思います。オピスの死は悲しいです…。 [気になる点] メタスタシス…転移石。月の光で力が充填されるというのがユニークですね!他にも変わった魔法具があるのかな…
2022/07/10 07:47 退会済み
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