~涙するにもほどがある!27~
ラプソディアに尋ねられた男は、片腕を肘の辺りから、斬り飛ばされていたが、カレンデュラの炎でその部分だけ焼かれ、焼けた細胞同士がくっついてすでに塞がっていた。他の男たちも血が噴き出ていないところを見ると、斬り飛ばされた部分が焼けて塞がっているのだろう。こんなことも出来るのかとラプソディアは内心驚嘆するも、顔には出さずに男の襟首を掴みあげ、人族の言葉で再度、質問する。
「もう一度聞きます。あなた達はここで、あの魔族と何をなさっていたのですか?」
そこでようやく男がぼそぼそと、何を言っているのか聞き取れない程、小さな声でしゃべり始めた。
「俺たちは、俺たちは、ただ奴隷商人に売りさばいていただけだ」
「本当にそれだけですか?」
しかしそこからまた、男はだんまりを決め込んでしまった。
「仕方ありませんね。話したくないのであれば、私が話したくなるようお手伝いさせていただきます」
ラプソディアの瞳が怪しく光り、男の深層意識に自分のオルクスを少し潜り込ます。そうすることで大抵の者はラプソディアの意のままに操ることが出来るようになるのだ。ただ、もともと人間の身体にオルクスは毒となる存在であるが故、そんなことをすれば数秒後、長くても数時間後には必ずと言っていいほど相手は死ぬか廃人と化してしまうので、こういった場面以外ではあまり役に立たないのが悩みの種である。
「もう一度聞きます。あなた達は誰で、あの魔族と何をしていたのですか?」
男はどこを見ているとも取れない虚ろな目つきに変わり、ゆっくりと回らない舌で喋り始めた。
「おれたちは……『グリード』。ここで、どれいとなる亜人からまぞくを捕まえて、奴隷しょうに売りさばいていた。あの魔族とは、このあいだ知り合ったばかりで……魔族を差し出す代わりに、クリエンテラに必要な力を分けてもらっていた。そのちからを使えば、大概のものを使役することが出来る」
そこで男は意識を失った。命の灯が消えるまであと、僅かだろう。そこへ、ティスが落胆した表情で戻って来た。どうやらリアはここにはいなかったようで、代わりに腕には紫の髪をした少女を抱きかかえている。
「ティス、大丈夫ですか? その少女は?」
その少女の耳はとがり、薄紫色の長く伸ばした髪をしていて少女と呼んでもおかしくない見た目をしていた。ラプソディアが尋ねるとティスは少女の顔を見ながら憔悴した声音で返事をする。
「奥の牢に閉じ込められていた。今は気を失っているようだが」
そこまで言い終わったとき、この部屋に捕らわれている男のエルフが、牢屋の手すりをこれでもかとばかりに握りしめ、必死の形相でこの少女のものと思われる名前を叫んだ。
「ラワーレ! ラワーレ!」
どうやらこの少女と知り合いのようだ。ラプソディアはティスにエルフの少女をお願いするとカギを受け取り、そのエルフの牢屋を開けてやる。鍵が開くと、男性エルフは真っ先にその少女のもとに駆けてきた。
「ラワーレ、今助けてやるからな」
そう言いながらラワーレの手を握り、祈りを捧げ始めた。
「いと慈悲深き森の神よ、我ら精霊にそのお力をお貸しください」
繋いだ手から淡い光が少女の身体に吸い込まれるように溶けていく様を、ティスは何も考えずにただぼーっと見つめていた。いや、考えることが出来なかったのだ。ここに来ればリアを助け出せると思い込んでいた。
確かに少女は紫の髪で、見た目も美しい。だが、人違いだった。きっと他にもいろいろとやらなければならないことはあったと思う。周りの牢屋に入れられている亜人達に声を掛けたり、怪我をしている者がいないか確認して回ったり、手が空いたならオピスのもとへ、結人を手伝いに行かなければ。
だが、身体がそこに根を生やしたかのように全く動こうとしてくれなかった。ラプソディアはそんなティスを気にかけながら、捕まっていた者達へ、今後どうしていくのかを説明していたのだった。
「オピス、オピス! 目を開けてくれ!」
結人は必死になって叫んでいた。涙がぽろぽろと零れ落ちるのもそのままに、必死にオルクスと魔力を送り続ける。傷はすでに塞がっている。だが、彼女の顔は青白く、ピクリとも動く気配はなかった。
胸に開けられた傷が致命傷だったのは間違いない。だが、彼女がもう一度目を開けてくれることを必死に望み、懇願し、自分の中の魔力やオルクスすべてを使ってでも彼女を助けたいという思いで必死だった。
「頼む。頼むから、目を開けてくれ。お前は少し変わった奴だったけど、それでも嫌いじゃなかった。もう一度笑って話そう。頼むから……お願いだから……」
出会いは天井からだった。そのあとも色々なところから顔を出してきては結人に抱き着いたりして、そのたびにラプソディアがため息をつきながら連れ去ってくれる。出会ったばかりのはずなのに、これからも続くであろうそんな日常が決して嫌だったわけではないのだと、今改めて痛感していたのだった。
~おもちろトーク~
ラビア 「結人たち、今頃リアさんを助け出せたかな?」
ストラティゴス「俺もついていきたかった」
ラビア 「ここの守りも必要だからね! あ、そのお皿はこっちね」
ストラティゴス(なぜ俺は手伝っているのだろうか)
今作もお読みいただきありがとうございます。
オピス大変なことになっていますね。リア救出に至らなかったことも踏まえ結人とティスの心境は想像を絶するものがあることでしょう。そんな彼らを今後も暖かな目で見守っていただけると幸いです。
この休みは、家で飼育する用の海水魚を捕りに行っていました(笑)まあ、今回が初めてというわけではないのですが(逆によく行っているような)、なかなか暖かくなってきたおかげで魚のレパートリーも豊富でした<+ ))><<
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