~涙するにもほどがある!26~
ティスが男を打ち据えている間に、ラプソディアは例の魔族に向かって瞬時に間合いを詰める。
「ミミックですか。ですがミミックごときにオピスが不覚を取るとはおかしいですね」
ミミックとは自身の姿を自在に変えることが出来、宝箱に擬態し、洞窟の奥深く宝を求めてやってくる冒険者を襲ったり、時には水たまりなどに擬態し、水を飲みに来た動物なども襲って食べることがある魔族だ。
ラプソディアは勢い良く振り上げた拳でミミックをぶん殴った。普通のミミックであればラプソディアの攻撃を食らって平気でいられるはずがないのだが、ミミックは自身の腕を剣のように変化させ、ラプソディアの拳を払いのける。ミミックはそのまま間合いを取るのかと思わせるような動きをしつつ、逆に間合いを詰めて反撃してきた。上段から思い切り剣のように変化させた腕を振り下ろしてくるのかと思いきや、常人には見えない速度で刃が向きを変え、横殴りの攻撃に転ずる。
ラプソディアは難なくその攻撃をかわすが、敵はトリッキーな動きで二撃三撃と攻撃の手を緩めない。そこら辺の魔族であれば、この動きについていけないことだろう。しかし、ミミックがここまで強いということは本来であればおかしいことである。ひょっとすると、人間どもから魂を吸い取っている? ですが、そうだとしたらこの人間たちには何の益も得ない。何かからくりがありそうですが……。敵の攻撃を華麗に受け流しながらラプソディアがそこまで考えを巡らせたとき、奥から仲間を呼びに行った男を先頭に、ぞろぞろとむさ苦しい男たちが姿を現す。
「ラプソディア殿、彼らの相手は私が」
「それは助かります。くれぐれもご無理はなさらないように」
「ああ、この程度の相手に後れは取らんさ」
そう言いながらティスは男達とラプソディアの間に入るような形で前に躍り出た。全員で七人。皆、手にはそれぞれ剣や斧やナイフといった武器を持っている。真ん中にいる品のまるきりない男が軽く口笛を鳴らしながら下劣なことを言う。
「ヒュ~、こいつはかなりの上玉だぜ。生きたままとっ捕まえて、今晩皆で楽しむか? 少し気が強そうだが、その顔が泣き顔に変わるのがまたいいんだ。もうやめてと懇願するさまが見たくてたまらねえ」
男たちの言葉と下品な笑いに、ティスはかなりイラついていた。
「御託はいい。ここにいるさらった亜人たちと、リアを、紫の髪の少女を返してもらうぞ」
「はっ、粋がるなよ、女。あの娘はただ者じゃねえ。売ればそれこそ一生遊んで暮らせるだけの額が手に入るかもしれねえ。おい、お前ら、こいつの手足の一本二本なら飛ばしても構わねえ。奥にいるあの娘だけは絶対に渡すなよ」
どちらが先に動いたのか、あるいは同時だったのか、ティスが一歩踏み出した時には、先頭にいた男が小刀を腰辺りに構えて横殴りの一撃を繰り出していた。だがティスが、剣の腕も、素早さも、技の冴えも、どこをとってもこいつらごときに負けるはずがなく、横から来た男の腕ごと切り飛ばす。魔力をカレンデュラに流し込まなかったので燃えることはない。
思っていた以上に男達が弱すぎて、払いのけられると予想していたカレンデュラが思い切り男の腕を斬り飛ばしたことに、ティスは内心舌打ちしていた。男は残った手で派手に血しぶきを上げる腕を押さえ込み、地面にうずくまった。
「手、俺の腕がっ‼ 痛い、腕、手が」
それを見た残りの男達も「舐めたマネしやがって」と一斉にティスを取り囲み、襲い来る。それを、まるで子供をあしらうかのように一瞬にして返り討ちにしてしまった。男たちは全員、手首や腕の腱を切られ、力が入れられない。ティスは結人の願いである死者が出ていないかを確認し、カレンデュラを鞘に納めた。普通だったら失血多量で死人が出ていたかもしれないが、ティスはカレンデュラに乗せる魔力をコントロールし、傷口を焼いて血が出ないように塞いでいた。
ラプソディアの様子をちらりと見やるとミミックとまだ戦っていたが、彼の様子からするに増援の必要はなさそうだったので、倒した男の一人が身に着けていた牢屋のカギを手に、リアを助け出すべく男たちが出てきた洞窟の奥を目指し、駆けていった。
敵の攻撃を難なくかわしつつ、その様子を見ていたラプソディアもそろそろこのトリッキーな攻撃に慣れ始めていた。その間もラプソディアに対してしつこく攻撃を仕掛け続けていたミミックは、わざと刀のように変化させた腕を空振りさせて、その勢いでひそかに詠唱して、待機させていた氷の刃をラプソディアめがけて放つ。だが、そのような姑息な手段がラプソディアに通用するはずもなく、攻撃をかわしつつ、逆に残像を残しながら素早く肉薄し、ミミックの胸辺りを真横から思い切り、蹴とばした。骨の折れる鈍い音と共に、ミミックの身体は吹き飛び、壁にめり込むように叩きつけられ、動かなくなる。どうやら気を失ってしまったようだ。彼も魔族の端くれならこれくらいで死んではいないだろう。
ラプソディアはやられ、転がっている男たちを見て感心半分、あきれ半分でため息をつく。
「やれやれ、この人数を相手にして一歩も引けを取らない程の強さは称賛に値しますが、ご親友のことで頭に血が上ったのか攻撃がいささか単調でしたね。そういった感情に流されやすい部分というのは人族の強みでもあり弱みでもあります。さて私は尋問でもしてみましょうか」
ラプソディアは近くにうずくまるように転がっていた男の頭を片手で鷲掴みにし爽やかな笑顔で尋ねる。
「あなた方は、あの魔族と何をしていたのですか?」
~おもちろトーク~
ミミック 「おらおらおらおら」
ラプソディア「くすくす。あれが私の残像とも知らずに」
ティス 「戦いって性格出るな……」
今作もお読みいただきありがとうございます(^^♪
いかがだったでしょうか? 今回ティスとラプソディアの活躍っぷりが半端なかったですね(笑)
筆者としては、そろそろリアも登場させたいところであります。今後どのように話が進展していくのでしょうか?
私事ですが、部屋着として浴衣を買おうか迷い中(笑)帯は捲けないのでワンタッチの簡易帯にしようかな?
いせたべに関するご感想のほかに、「こんな話が読んでみたい」「誰と誰の絡みが見てみたい」というご意見や、私に関する質問などお応えできる範囲で答えますので、どしどしご感想いただければと思います。皆様の気持ちが執筆するうえでこの上ない力となりますので、今後とも「いせたべ」をよろしくお願いいたします。





