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~涙するにもほどがある!25~

 目の前の光景に、思考が追い付かず、すぐに行動することが出来なかった。オピスを貫いた手が引き抜かれ、そいつが姿を見せて倒れたオピスが確実に死んだか確認するように覗き込む。そいつは茶色い身体に所々ヘドロを塗ったような箇所があり、二足歩行で立ってはいるものの片足が短いのかもう一方の足を半分折るような形でバランス悪く斜めに立っていて、右の首元からはもう一つ小さな首が出ていて、見るからに悪寒が走る姿をしていた。


 だがそんなことはどうでもよかった。オピスが倒れると同時に結人は頭が真っ白になり、オピスを助けたいという思いだけでその場から気持ちの悪い魔族に向かって飛び出していた。足にオルクスを集中させ、百メートル近くあった距離を一瞬で詰め寄る。そのあまりの速さにラプソディアでさえ驚いたほどだ。


 詰め寄ると同時にオルクスを真っ黒い刀に具現化し、今まさに小首をかしげながらオピスが死んだか確認するかのように覗き込んでいるそいつの心臓めがけて思い切り刀を突き出す。だが、結人が伸ばした刀は狙った心臓を捉える事が出来ない。とっさに反応したそいつが急所を逸らしたのだ。だが、結人の手には、肉に突き刺さる感覚がはっきりと伝わってきた。結人のあまりの速さに急所を逸らす事で精一杯だったようだ。


 刀が肩の付け根辺りに突き刺さったままのそいつは、くるりと踵を返し、紫色の血を垂れ流しながら耳が痛くなるような叫び声ともつかない声を発しながら、洞窟内に逃亡を開始する。そいつに刺さったままの刀は結人から離れると黒い霧となり消滅した。


「ティス、ラプソディア、済まないが行ってくれ。中にいるリアを頼む」


 後から追いついた二人は、無言で頷き洞窟内へとその魔族を追って見えなくなった。ラプソディアとティスに指示を出した結人は、オピスのそばに膝をつき、容態を確認する。

 オピスは体中に切り刻まれたような細かな傷跡がいくつもあり、さきほど貫かれた胸の中心にはぽっかりと穴が開き、そこからこれでもかというくらい血が溢れ出ている。オピスに意識がなく顔面は蒼白で辺りは血の海と化していた。


 胸の空いた穴から見える半分だけになった心臓が弱々しく動こうと頑張っているところを見るとまだ死んではいないらしい。結人は助けたい一心で傷口を手で押さえ、リアが以前使っていた「サナーレ」という回復魔法を思い出しながらオピスの傷口に魔力を流し込むイメージを作る。


 結人は確かに感じた。自分の内側から水のようなさらさらとした魔力が腕を伝い、傷口を押さえている手からオピスに流れ込むのを。だが、オピスの傷はふさがる気配を見せない。実際にはふさがっているのだが傷が深すぎて回復速度が追い付いていないのだ。


 結人はどうにかして助けたい一心で必死に頭をフル回転させていた。どうすればいい? まず魔力で血を止めてから……だめだ、そんなことをしている時間はないだろう。逆に心臓などを先に修復してからとも思ったが、その間も血は流れ続ける。ならば血を止めつつ、細胞の組成を同時に行うしかない。集中しろ。助かる助からないは一度頭から締め出して、自分の中に存在する()()()()()()()に全神経を集中させる。魔力で血管など繊細な部分の修復をしつつ、オルクスで傷ついた内臓の修復などを同時に行う。彼女が助かるにはそれしかない。


「オピス、死なないでくれよ」


 結人は身体の内側に感じるさらさらとした水のような魔力と、どろどろとした油のようなオルクスを同時に操り、右手へ魔力を、左手へオルクスを流していく。最初の頃は二つの力が反発しあい、うまいこと操ることが出来なかったが、身体が感覚を覚えたのか、それとも魔王の力を封印した石を二つ取り込んだことが関係しているのか、今は呼吸をするかのように自然と意識することなく操ることが出来た。




 



 結人に刺された箇所から紫色の血を流しながら牢屋が並ぶ場所まで戻ってきた魔族はそこで今なお話し込んでいた人間に命令口調で怒鳴り散らした。


「おい、お前ら、今からくる奴らを殺せ。さもなくばお前たちの命はここでお終いだと思え」


 自分たちがつるんでいるのが魔族だと分かりきっている男たちはやや不服そうではあったが殺されてはたまらないと行動を開始した。頭が禿げあがった男は急いで剣を抜き、もう片方のやせ細った男は洞窟の更なる奥へ仲間を呼びに駆けていく。


 そこへラプソディアとティスが広間へ入ってきて辺りを見回し、捕まっている亜人や獣人を目の当たりにしてキッと男たちをねめつけティスが声を上げる。


「お前たちはここで何をしているのですか! 奴隷売買は一部の地域を除いて固く禁止されているはずです」


 すると禿げあがった男が剣をだらんと下げたまま、もう片方の手で顔を覆い笑い始めた。何がそんなにおかしいのか分からないが、ひとしきり笑った後、まるで人ががらりと変わったかのように眼光が鋭くなり、足が地面を思いっきり蹴り、ティスめがけて襲い来る。


 だが、ティスがこの程度の人間にやられるわけもなく、相手の剣を受け流しつつ入れ替わるようにして流した身の捌きで相手の後ろ首に剣の柄を思いっきり打ち付け、男は「うっ」っという低いうめき声と共にその場に倒れて動かなくなった。

~おもちろトーク~

結人 「おい、しっかりしろ」

オピス「やっと私の身体に興味を持ってくれたのね」

ティス(オピスの頭にたんこぶが増えている!?いったい何があった)


いつもお読みいただきありがとうございます。

おもちろトークでは冗談を言う元気があるオピスですが、本編では大変なことになってしまいましたね(;´Д`)

もう少ししたら、リアたちがどうしているのかまた書きたいですね♪


いつもいいねや評価、ブックマークやご感想などありがとうございます。

執筆していく上での励みとなっており、心強い限りです。また、小説以外での質問なども受け付けておりますので、気軽に感想覧へご記入いただければ、お応えできる範囲でお応えいたします。


今後とも「いせたべ」をよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 楽しみにしていました!オピスの身が…結人、頑張るんだ、と応援する気持ちでいっぱいです。魔力とオルクスの同時使用は凄いですね。リアが知ったら、「流石、結人様!」と喜ぶだろうな。 [気になる点…
2022/06/13 05:35 退会済み
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