~涙するにもほどがある!22~
結人は声が聞こえた瞬間に悪寒が走ったため、一瞬身震いをし、机の下を確認する。そこにはやたら嬉しそうにしているオピスの顔がそこにあった。顔だけ見ればものすごく美人なのだが。
「いやいやいやいや、オピスさん! いい加減普通の登場をしてくださいよ! 正直心臓に悪い」
結人はオピスの顔を、じとーっとねめつけてみたがあまり効果はないようでくすくす笑っている。そんな彼女の首根っこを否応なしに鷲掴みにし、机の下から引っ張り出したラプソディアが半分呆れながらも話を聞いてやる。
「で、あなたはまた性懲りもなく結人様に近づいて、今度はどうしてほしいのですか?」
「あら、次はどんなお仕置きをしてくれるのかしら? じゃなかった。私だってたまには役に立てると思ってやってきたのよ。現に今、私が近づいても誰も気が付かなかったでしょ? 私たちラミアの種族にしか使えない特殊能力があるから隠密行動や偵察なんか得意よ。あとは子作りなんかも♡」
最後の言葉は聞き流そうとした結人だったが、「子作り」という言葉にティスは顔を引きつらせながらすでにカレンデュラの柄に手が伸び、今にも抜剣しそうになっている。ティスさん顔が怖いですよ……。
それにしてもオピスの言うように結人は気配にまるで気が付かなかった。というより、冗談抜きで誰も気が付いていなかったのではないか? 味方だからよかったようなものの、敵なら一突きにされて間違いなくあの世に旅立っていたことだろう。そんな彼女が共に向かってくれるというのであれば心強いことこの上ないのは間違いなかった。
「まあまあティスも、オピスの寝言だと思っておけばいいからさ。それより、彼女の隠密スキルは確かにすごいんじゃないか? 一緒に行ってくれるなら心強いよ」
「確かに、認めたくはないが気配に気が付かなかった」
「本気を出したオピスには私でさえ気配を感じさせませんからね。まあ最後の一言はいらなかったと思いますが」
やはりティスも気が付かなかったようだ。いまだにオピスの首根っこを掴んだままのラプソディアも珍しく彼女を認めている。
「じゃあオピス……さんでいいのかな? よろしく頼むよ」
「あら、私とあなたの仲じゃない♡ オピスって呼び捨てにして」
その言葉にラプソディアはため息をつき、またしてもティスが固まってしまったのだった。
結人達が控室の一室に集まったちょうどのタイミングでラビアも地図を大事そうに抱えて持ってきた。なにせラビアは身長がまだ子供のそれなので、少し大きな羊皮紙となると自分の腰の高さより大きくなってしまうのだ。
その地図をテーブルに広げて一同驚く羽目になった。そこには魔界大陸の詳細な、というかそっちの道で食べていけるのではないか?と思うほどリアルに描かれた地図があり、逆にどうやったらこれほどのものが書きあがるのか知りたいところである。
「これ、ラビアが書いたの?」
「はい。魔界にも地図がないわけではないのですが、とても貴重なものなので持ち出すわけにはいかないかと思いまして。空から見渡しながら書いたので間違いはないかと……あのお気に召さなかったでしょうか?」
突っ込みどころが多すぎてどこから突っ込んでいいやら分からなかったが、ひとまずお礼をいい頭を切り替えて本題に入った。
リア救出に赴くメンバーは、結人、ティス、ラプソディア、オピスの四人で、ラビアには結人が留守の間のことを任せることにしていた。なんでも魔王にしか決定権がない書類などが山のようにあるのだとか……。ひとまずほんとに重要な案件かどうかの仕分けをお願いしている。
「ラビアが書いてくれた地図によると、リアと思しき人物が連れていかれたのは魔界大陸北の洞窟ということだったな。つまりは、ここか」
ティスが指示した場所は大陸の北の端にほど近い場所で、切り立った岩山にぽっかりと口を開けた洞窟が描かれている。結人は率直な疑問が頭に浮かんだのでそのまま質問してみることにした。
「あのさ、魔界大陸って洞窟のすぐそこにある海までなんだよね? じゃあ海を挟んだこっちの大陸は人間が住んでる大陸?」
ラビアの書いてくれた地図には海の向こうにちらっとだけ大陸の下の部分が描かれていたのだ。その問いかけにはティスが頷きながら説明してくれた。
「ああ、そこは王都ゲネシスから西へかなり離れた場所にある水の都がある国が統治している土地だな。私も一度しか行ったことがないが、水に恵まれたなかなかにいい国であったぞ」
ちなみに王都ゲネシスはここからさらに東へ行ったこの辺りだと羊皮紙のない部分をさして教えてくれた。
「じゃあ作戦はどうする? こういうのはやっぱり夜決行したほうがいいよね」
「結人様、恐れながら具申しますが、人間ならそうかもしれません。ですが、ここは魔族の土地で、今はオピスがいます。明るいうちに動いてもこのメンツなら何も問題はないかと」
ラプソディアがいうと様になっていて男として正直あこがれる。こいつ異性にモテただろうな。というか今でもキャーキャー言われているんじゃないの?この、隅に置けない男だね!
「じゃあ今から現地に行くということで。現地に着いたらオピスに偵察してもらうことになると思うけど、それでいいかな?」
「ほんとに今回の魔王様はずいぶんとお優しいのね。お願いではなく命令をすれば誰も逆らうことなんかできやしないわ。だってあなたは魔王様なんですもの」
~おもちろトーク~
ラビア 「結人様のために地図を描かないと」
目玉魔族(あっしも肖像画書いてもらえないですかね?)
いつもお読みいただきありがとうございます。
急遽オピスも加わりリア救出に赴くこととなった結人達一同。無事にリアをたしけだすことが出来るのか?
新キャラが馴染んでいないと、セリフや仕草など固まりきっていないので執筆する段階で悩む時が多々あります。そんなときは設定集や今までの登場回など読み直したりするのですが、絵が描ければなと思う今日この頃であります(笑)。
いいねや評価、ブックマークやご感想などありがとうございます。
執筆していく上での励みとなっており、心強い限りです。また、小説以外での質問なども受け付けておりますので、気軽に感想覧へご記入いただければ、お応えできる範囲でお応えいたします。
今後とも「いせたべ」をよろしくお願いいたします。





