~涙するにもほどがある!21~
結人もティスも目玉だと思い込んでいた目の前のこれがキノコだという衝撃の事実を目の当たりに、どこかほっとしている自分がいた。だれだって目玉はあまり食したいとは思わないだろ?
ひとしきり笑ったラプソディアも結人の隣へちゃっかりと腰を掛け、自分がとってきた料理に手を付けていた。そういえば、おかずやサラダの類はいっぱいあったのを見たが、お米やパンといった主食となるものが一切なかった。結人は自分が取ってきた野菜を肉で包みアマダレで焼いた料理を何とかかみちぎりながらティスとラプソディアに尋ねた。
「そういえばここにパンやお米とかないみたいだけど、主食となるものは何食べてるの?」
「結人殿、お米とはなんだ?」
「あー、やっぱりお米ないのか? 自分がいた世界の主食で野菜」
こんな説明で伝わるのかとも思ったが、肉が思ったよりも硬く悪戦苦闘していたので許してくれと見やるとティスはなにか頷きながら納得してくれていた。
「結人様、人間界のパンといったようなものは魔族はあまり好んで食べないのです。そもそも手先の器用な者が限られているうえに食べる物も魔族によりさまざまで、一つのものに絞るというのはなかなか難しいのです。強いて言うのであれば、今、目の前に置いてあるものがその時の主食ということになります」
つまりあれか……外国人がいっぱいいる的な! などと少しずれた想像をしていると、ラビアが若草色のさらさらな髪の毛を揺らしながらこちらにかけてくるのが見えて、腕の中には黒色のまりもから蝙蝠のような羽を生やしたのかと思うような魔族を抱えて戻ってきた。
「結人さま、お食事中のところ失礼します。例の魔物を連れてきました」
ラビアが抱えている魔物には目がないようで、どのように周りを感じているのか不思議だ。小さな牙がいくつも並んだ口だけがまりもの真ん中にあるという感じだった。そんな口が半分笑っているかのような形でしゃべりだした。
「これは魔王様。魔王の儀ではびっくりしましたよ。あのオルクス量は半端な者じゃ太刀打ちできやしない。あっしもそこそこ長いこと生きているのですが、ここにいるラプソディア様でも恐ろしいというのにあなた様はその量をはるかに凌駕している」
どうやらあの会場にいた魔物のようだ。というかぺらぺらと余程おしゃべりが好きなのか関係ない内容を頼んでもいないのに一人でどんどんしゃべり始めてしまった。そろそろどうしようかと結人自身困り始めた辺りでラプソディアが軽く咳ばらいをし、挨拶はそのくらいで話の本題へと促してくれてやっと聞きたい内容を話し始めてくれた。
「ええ、あっしのお仲間から届いた情報だと魔王様がこちらへやってくる二日ほど前に、ここから北の洞窟に三人組の人間が、薄紫色の髪をした少女を連れて入るのを目撃したということらしいです。あっしは見たことありませんが、ちょこちょこ目撃されていますね」
目がなく口だけがよく動くこの魔族は少しだけ不気味だったが、貴重な情報を教えてくれたのだから感謝しなくてはならないだろう。ティスは両手を組んで祈りをささげている。
「結人様、この者のいうことが正しければ、リア様はそこにいる。あるいは、何かしらの手がかりは残っている可能性はあります。奴らに連れ去られて今日でちょうど七日目。できるだけ急いだほうがいいかもしれません」
そうなのだ。リアが連れ去られた日から移動して結人が五日間眠っていたことを考えると確かにそれだけの時間が経過していることになる。
「私たちも知らされたのは昨日の晩なんだ。今日結人殿が目覚めなければ、私一人でも探しに行っていたところだ」
ラプソディアは肩をすくめてやれやれといった雰囲気だ。
「結人様も何とか言ってやってください。いくらティス様がお強いとはいえ一人で行くのは危険すぎます。私が止めるのにどれだけ苦労したことか」
この雰囲気だと相当苦労したのだろう。ティスは頭に血が上ると少々周りが見えなくなる性格なようだからな。
「ははは、ラプソディアにはこれからも苦労をかけそうだ。ティスもすぐにでも探しに行きたかっただろうに我慢してくれてありがとう。ラビア、すまないんだけど、この魔族にもう少し詳しい場所を聞いて地図を用意してくれないだろうか。一時間もあったら用意できる?」
「はい。結人様のお役に立てるよう精いっぱい頑張ります」
走り去っていくラビアの後ろ姿を見ながら、なぜメイド服なのだろうかと疑問に思わなくもないが気にしていても仕方ないだろうと思い気持ちを入れ替え皆に向き直る。
「じゃあリア救出のメンバーはティスにラプソディア、俺でいいかな? 出発は一時間後ということで」
皆異議なしと意思疎通出来たなと感じるものがあった矢先のことだった。聞き覚えのある美しい女の声が机の下から聞こえてきた。
「そのメンバーに私も入れてくれないかしら」
~おもちろトーク~
ティス 「はっ! やあっ!せいっ!」
結人 「はあはあ。二人がかりでもラプソディアに攻撃が当たらない」
ラプソディア「さあ二人とも、もっと華麗に舞い踊りましょう♪」
結人・ティス(ラプソディア、人が変わってる)
いつもお読みいただきありがとうございます。
今作、いかがだったでしょうか?
現在話が進行している「涙するにもほどがある!」編は、思っていたよりもはるかに長くなりそうな予感がしております(あんまり長くなるようなら流れとか帰るかも?)
何に対しての「涙」なのかは読んでいってのお楽しみにしていてください(笑)
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