~涙するにもほどがある!20~
そう、食べたくないと心に固く誓ったはずだったのに、なぜか今結人の目の前にあの目玉のようなものが入ったサラダが居座っていた。しかも、皿からあふれんばかりにてんこ盛りに! しかも目玉と思しきそれが皿から転げてるし。
目の前に座っているラプソディアをじーっとねめつけても涼しげな顔で「いただきましょう」などと人の気も知らないで言っている。
一体何がどうしてこうなったのかと言うと遡ること数分前、ずらりと並んだ料理の一品目から順番にラプソディアが説明をしてくれていたのだ。最初の一品目は日本でいうボイルさせたウィンナーのような食べ物で、グルニと呼ばれる野生動物からとれる香ばしい肉の中に芳醇な香りのする魔界にしかない香草が入っている料理だった。とてもおいしそうで食欲をそそられたため、それを一本自分の取り皿に乗せた。
次の料理は、ルブルムという料理でカヴリと呼ばれるカニのような生き物を煮て、辛めの香辛料を使ったピリ辛なスープの料理なのだそうだ。見るからに辛そうなスープからは熱々の湯気が絶え間なく湧き上がっている。おいしそうだったが、とりあえずほかにどのような料理があるか分からなかったのでスルーすることにした。
そんなこんなでラプソディアの説明を聞きながら料理を選んでいると、ついに例の目玉サラダの前に来た。ラプソディアが今までより一段と嬉しそうに説明してくれようとするのを何とか遮り、さっさと次の料理に向かった結人だった。少しだけラプソディアには申し訳ない気持ちにもなったが、食欲がなくなりそうで説明さえ聞く気になれなかった。
そして最後の色とりどりの野菜を肉で巻いてアマダレで焼いたような料理をお皿にとり、先に席の確保をしてくれていたティスのもとへ向かった結人だったのだが、そのあとをラプソディアが嬉しそうに追いかけて来るのが見えてぎくりとする。手にはラプソディア本人の分とは別に、もう一皿例の目玉サラダを持っていたからだ。近づいてくるラプソディアの足が今にもスキップでもしそうに感じるのは気のせいだろうか。
「ラプソディア、そのもう一つの目玉サラダどうするの? ああ、わかった! ラプソディアが食べるんだよな」
ここは先手必勝と思い、俺は食べませんと遠回しに言ったつもりだったのだが、全く伝わる気配がないどころか、ものすごい嬉しそうに結人のお皿の横に並べてきた。ティスも初めて見たのか、それとも今まで見て見ぬふりをしてきたのか、若干顔がひきつっているように感じる。しかも今確実に目をそらした。
「結人様、ぜひともこれを! 魔族の間では食べない者がいない程の一品です」
いや、そういわれてもと困惑気味にサラダとラプソディアを交互に見た後、助けを求めようとティスを見ると相変わらず目はそらしたままだったのだが、明らかに笑いたいのを我慢しているようだった。よーし、わかった! ティスがそのつもりならこっちにだって考えがあるからな!
結人は目玉のようなそれをフォークの先にさして準備すると、迫真の演技でティスにうそぶいた。
「ティス!! 足元になにか忍び寄ってる!」
いわれるや下を確認するティスの反射神経には驚かされたが、今はとにかく作戦の第二段階に移行する時だ! 何もないことを確認したティスが何か言いかけようとこちらを振り向いたところで、フォークにさしておいた目玉のようなそれをティスの口へ無理矢理に突っ込んだ!
しゃべろうとしていたティスはその勢いのままそれを嚙んでしまったようだったのだが、意外なことに結人が思っているものとは違った反応が返ってきた。
「これは……目玉……結人殿! これは美味しいぞ! 見た目こそあれだが、味はこの中のどの料理よりもおいしいかもしれん。いいから結人殿も食べてみろ」
まじかっ!? 全くもってそんな反応が返ってくるとは一ミリも思っていなかった結人にとってこれは大きな誤算だった。しかし、無理に食べらされた本人がこう言っているのだから、食べさした側である結人が嫌ですとは引き下がるわけにはいかない。意を決し、といっても見たくないあまりに目を固くつぶったままだったが、目玉のようなそれを口に運ぶ。口に入れた瞬間に広がる薫りはたしかに悪くない。勇気を振り絞りそれを噛んでみた。頼むから血の味なんかはしないでくれよ!
だが想像していたものとは百八十度違ったものだった。ブニっとした触感にジュワッと広がる汁がとても言い表せない程においしく、噛めば噛むほどに口の中いっぱいにうまみが広がる。あの見た目からは想像できないほど逸脱した病みつきになるおいしさに、つい次のそれにフォークが伸びる。
「やばい、これ、めちゃくちゃ美味しいんだけど! ラプソディアこれなんの目玉なの?」
その質問にティスも興味津々なのか身を乗り出して聞き入っているようだ。ラプソディアはしばらく目をきょとんとさせて何のことを言っているのだろうという顔をしていたが、すぐに合点がいったのか白い手袋をはめた手を軽く握り口の前にもってきてくすくすとおかしそうに笑いだした。ラプソディアと出会ってからこんなに笑う彼を見るのは初めてかもしれない。
ひとしきり笑った後、ラプソディアは笑い過ぎて滲んでいた涙を拭いながら教えてくれた。
「結人様、これは目玉ではなく魔界に生えているキノコですよ」
~おもちろトーク~
結人 「けどこれ見た目絶対目玉だよな」
ティス 「見た目とは恐ろしいものだな。私も目玉だと思い込んでいた」
ラプソディア「そういえば、人間の目玉を収集している魔族がいたような」
結人・ティス「……」
今作もお読みいただきありがとうございます。
いや、おもちろトークの内容をどうするか悩みました(笑)
結局地味な内容になってしまいましたが(笑)
最近おもちろトークが面白いやいいねと言ってくださる方が増えてきているので嬉しい限りです! 小説には出てきてない一場面などを楽しんでいただければと思います♪
いつも、いいねや評価、ブックマークやご感想などありがとうございます。
執筆していく上での励みとなっており、心強い限りです。また、小説以外での質問なども受け付けておりますので、気軽に感想覧へご記入いただければ、お答えできる範囲でお答えいたします。
今後とも「いせたべ」をよろしくお願いいたします。





