いせたべGW~番外編 出会い~(前編)
皆様こんにちは♪
いつも「いせたべ」でお世話になっているゆるふわです。
今回ゴールデンウィークということで、番外編を執筆してみました!
今作では、本編で登場するティスとノエルの出会いまでを描いた作品にしてみたのでぜひとも最後までご一読いただけると幸いです。
いつも短時間で読んでいただけるように文字数を少なくさせていただいているのですが、今作は長くなってしまったため、(前編)(後編)に分けようと考えています。
それでは、番外編をお楽しみください♪
長く伸ばした白銀色の髪を後ろでひとつにまとめ、その髪を引き立たせてくれるような切れ長のライトブルーの瞳には力強き意思を宿している。凛とした顔立ちにはまだあどけなさが見て取れるものの、将来美人となるだろうことが伺える十五歳の少女、ロード・ティス・エリームは貴族の家系として育ち、幼き頃より王の剣となるため剣の腕を磨かされていた。そんな彼女が十二歳になるころには騎士や兵士と互角に戦えるほどに強くなり、今では誰よりも頭一つ抜きん出て注目を浴びる存在となっていた。
いや、それだけが注目を浴びる理由ではないだろう。先日の王都魔物襲来事件の折に彼女が魔物の親玉とでもいうべき存在を一人で撃退してしまったため、聖竜騎士副騎士長の座を齢十五歳にして勝ち得ていたら嫌でも目立ってしまうのも当然だった。
そんな彼女の腰には代々受け継がれてきた魔法剣「カレンデュラ」が鞘に納まった状態で太陽の光を受け輝いている。彼女と親しき間柄の者、特に姉妹も同然で育ってきたティスより一つ年下の十四歳の少女シネラーリアにはティスと愛称で呼ばれていた。そんな彼女もシネラーリアのことをリアと親しみを込めて呼んでいる。
朝露で濡れる王城の中庭で、青みがかったグレーの色をした普通種であるワイバーンドラゴンの「エルピス」を撫でてやりながら、今から赴く戦いのことを考えていた。いったいこの戦いでどれだけの者が命を落とすのだろうか。十五歳の少女は悲痛な面持を必死に押し殺そうと懸命だった。
そこへ草を踏み近づいてくる人の気配を感じてそちらを振り返る。そこには現在の聖竜騎士・騎士長で、かつティスの師匠でもあるカエルムが歩いてくるところだった。彼はがっしりとした体躯に軽めの胸鎧を着け、腰には愛剣である「ネア・セリニ」と呼ばれる青色の魔法剣がぶら下がっている。
カレンデュラもネア・セリニも魔法剣だが、そもそも簡単に手に入るものではないため二人とも普段から肌身離さずに持ち歩くようにしていた。
「カエルム騎士長、どうなされましたか?」
胸に手を当て敬礼しながらティスが尋ねると、カエルムは片手を軽く上げ、おろしても良いという合図をする。愛弟子は相変わらず真面目だなと思いながら少し笑みがこぼれる。
「今は一個人としてきているのだから騎士長はよせ」
「そうでしたか。カエルム師匠、どうされたのですか?」
そう。カエルムが幾度となく二人の時は呼び捨てで構わないといっても、ティスは師匠と絶対に呼ぶのだ。それが嬉しい反面、もう少し融通を効かせられても良いのではないか? とも思わないでもなかったが、これが彼女の良さなのだろうと最近は思うようにしている。
「いや、まあ、特に用事ってわけではないんだが、これから戦だ。戦前にお前さんの様子でも伺っておこうと思ってな。調子はどうだ?」
彼は昔からそうだ。戦いの前には必ずといっていいほどティスの様子を伺いに来てくれる。
彼はとても強い。ティスでも騎士長にはかなわない程に強く、懐の大きいお方だ。だが、強いということはそれだけ修羅場をくぐり抜けてきたということだ。つまりは、その数だけの別れもあったということに他ならない。そのため戦前には必ずティスのことを心配して様子を伺ってくれるのだ。
「大丈夫。いつもとかわりないです。今この場で師匠と戦ってもいい勝負をする自信があります」
「がっはっは。そいつは頼もしい限りだ! だが勝ちを譲ってやるにはまだ早いな。まあそれだけいきがれるなら大丈夫そうだ。これから向かう戦いは何が起こるかわからない。何せ相手は魔物だからな。気は抜くなよ」
そう、ここ王都ゲネシスの近郊では、最近魔物たちがやたらと活性化し被害が拡大していた。そんな矢先魔物の群れが王都より西に進んだ先にある丘陵地帯の先の森に集まっているという情報がもたらされた為急ぎ討伐隊が結成されたのだった。
「ありがとうございます! それにしてもこの度の魔物の活性化、いったい何が原因なのでしょうか。今までに報告例がないとなると、ただの偶然とは思えないのですが」
「確かにな。それは俺も気になるところではあるが、気にしてどうこうなるって話でもねえ。上から命令が下れば俺たち騎士はそれに従わなければならん。まあ今は命を落とさないように目の前の戦いに集中しろ」
「そうですね。師匠もご武運を!」
カエルムは成長したものだと嬉しさを隠しながら踵を返し、後ろ手に手を挙げ去っていったのだった。
イビロス大陸の中央の崖の上に位置する王都ゲネシスからみて西の小高くなった丘の上にカエルムを先頭にティスたちは陣取っていた。愛竜であるエルピスにまたがり向かいの森の中にうごめく魔物たちを注視する。いったいどのくらいの魔物がいるのかは定かではないが、魔物たちもこちらの動きを探っているような嫌な雰囲気が漂っていた。
こちらの戦力としては、師匠であるカエルム率いる聖竜騎士が二百、馬にまたがった騎馬隊が五百、厚手の鎧に身を包んだ騎士隊、重騎士隊併せて七百、魔導士隊二百、聖魔法士隊百、軽装の長槍を持った歩兵部隊千人の計二千七百人規模の軍勢だ。城にはまだ五千人以上の兵士が残っているが 城を開け放つ訳にもいかないので守りを固めて貰っている。
対する魔物の数ははっきりとはわからないが、今までに遭遇したことのない数がいるであろうことが伺える。それでも千に満たないと言った予想だ。そもそもが多種族同士の魔物が集まり襲ってくるなど前代未聞なのである。
森は彼らのテリトリーだ。森へ入ってしまえばこちらの数を生かせなくなるだけでなく間違いなく彼らが優勢だ。そこで手前の広くなった草原までティスがエルピスに跨りおびき寄せる作戦をとることになった。ティスは最高司祭であり親友でもあるリアに渡されたお守りを額に当てて握りしめ、必ず生きて帰ると心に誓っていた。
カエルムは愛竜であるイデアに跨りティスの横に並び立つ。彼のワイバーンは赤竜種と呼ばれ、普通のワイバーンと違い圧倒的なパワーを誇る反面、気性が荒い個体が多いのも事実だ。だが彼はそんな種をしっかり躾し乗りこなしているからやはり凄い。
「こいつはすごい数の魔物がいやがるな。ティス……いや、副騎士長殿は大丈夫か? 怖いならおとり役変わってやってもいいぞ」
「いえ、この作戦の立案者は私ですから。しっかりと遂行してみせます。騎士長殿もご武運を」
「まあ、あれだ。気楽に……ともいかないだろうが、あんまり肩に力入れすぎるんじゃねーぞ」
そう言い残しカエルムは持ち場に戻っていく。ほんとに師匠は優しいお方だ。ティスの性格を知っているからこそ、心配してきてくれたのだろう。私は副騎士長として皆の期待に応えなければ!
そうして作戦の開始を告げる魔法球が打ち上げられ、魔導士隊が詠唱を開始する。魔導士たちの胸の前に魔法陣が現れ、そこから小さな炎の玉があっという間にバランスボールくらいの大きさにまで膨れ上がる。
「放てっ!」
魔導士長が合図をすると、魔導士隊二百人分の炎球が森の奥めがけて放たれたのだった。
魔法が放たれるのとほぼ同時に、エルピスに跨り地面すれすれの低空飛行でティスは森へ迫り、森の外周に沿うようにして飛んでいく。炎球が森の至る所に落下し辺りを炎の海へと変えていく中、いきり立った魔物たちが森から姿を現しティスめがけて襲い掛かってくるが、空を飛んでいるティスやエルピスに攻撃が当たるはずもない。ここまでは作戦通りだ。このままできる限り魔物どもを森から誘い出して本体と合流すれば作戦の第一関門突破と言っていいだろう。
「それにしても魔物の数が多いな。これほど多種多様な魔物が群れを成し行動するなど聞いたことがない。そろそろ頃合いか」
後ろを振り返るとかなりの魔物の大群がティスを追いかけてきている。予想よりはるかに多いがこれならば抑えきれないことはないだろう。
ティスはエルピスを急旋回させ高度を上げて仲間のもとへと戻る。魔物から距離を開けたが、怒り狂った魔物どもは我を忘れて王国軍目指して我先にと一直線にかけてくる。
「これより魔物の群れがこちらにやってくる! 皆の者、国を守るため、己の誇りにかけて魔物どもを打倒するぞ! 私に続け」
ティスを筆頭に聖竜騎士が後に続き、そのあとを騎馬隊が緩く下った坂道を一気に駆け降りる。騎士隊は鎧に身を固めている為そこまで機動力がいいわけではないが、それなりのペースで騎馬隊の通った後を行軍している。ミスリルで出来たフルプレートアーマーを装備した重騎士隊は遅れて進軍する予定なので今は魔導士や聖魔法士の護衛として歩兵部隊と共に待機している。
先頭を行くティスは当然一番初めに敵と交戦になったが、大きなサルを連想させる魔物とすれ違いざまにカレンデュラで切り裂き、空へと華麗に飛翔する。大きなサルの肩口を切り裂いたようだが、切り裂かれたところから炎が全身を包み込み一気に燃え上がらせる。熱さと痛さで暴れ狂うサルをしり目に、次の獲物に狙いを定め急降下して一撃を与えては離脱を繰り返す。この国の聖竜騎士が無敵と称されるのは、この戦法を編み出したからに他ならなかった。通常このような戦い方はワイバーンの消耗が激しいのだ。
戦場はあっという間に乱戦となったが、中央の聖竜騎士や騎士たちが敵を惹き付けている間に左右へ展開していた騎馬隊が挟み込むように総攻撃を仕掛ける。虚を突かれた敵に隙が生まれたのを逃さずに騎士たちが猛攻撃を仕掛ける。遠方からは、魔導士隊が雷やら氷塊やらを魔法で飛ばして攻撃を仕掛けている。このままいけば押し切れるか。
状況を確認するためにティスは地形全体が見渡せる位置まで上昇した。こちらも被害が出ていないわけではないが、この調子でいけば魔物たちを殲滅させることが出来るだろう。ティスはふと師匠であるカエルムのことが気になり目を凝らした。
彼は赤いワイバーンドラゴンに跨っている為、どこにいてもすぐに見つけることが出来る。今だって敵が固まっている中央付近で愛剣であるネア・セリニを振り抜いている。彼の持つネア・セリニという魔剣は、己の魔力を水の刃に変えて飛ばすことが出来るため、敵に近づく必要がないのだ。そのため空を飛ぶ魔物や、下からの飛来物にさえ気を配っていればいい。そんな彼の戦い方をよく思っていない貴族たちもいるようだったが、ティスは知っている。魔法を使わず、剣技のみで戦っても師匠はとても強く、勇敢で一分の隙さえ無いほどの剣の腕で、誇り高き騎士なのだと。
「さすがは師匠だな。動きに無駄がないだけではなく、周りの状況も良く見ておられる」
その時だ。ティスの見下ろす眼下に黒い影が見えたので振り仰ぐ。一瞬だけ太陽の光が眩しく目を細めたが、皆が戦っているよりはるか上空にいるティスの、そのまだ遥か上を翼の生えた何かがものすごいスピードで飛び去っていくのが見えた。それを見た瞬間からティスの胸の内に不穏なざわつきが湧き上がった。
番外編お読みいただきありがとうございます。
後編は明日には投稿する予定ですので、心待ちにされている方も、まだこれから読むよという方もぜひお楽しみいただけたら幸いです。
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