~涙するにもほどがある!18~
ルシウスは誰にも聞かれていないことを確認したうえで声を潜め自分の考えを話してくれた。
「リア様も今の話を聞いて違和感を覚えたかと思います。昔の国王陛下は今のような決断や言動をする方ではなかった。ここからは、私の推測を交えてお話しするのでそのつもりでお聞きください」
リアはちょうどスープを飲み終わり「ごちそうさまでした」と手を合わせたところだった。
「リア様が現在の勇者であるあの方を召喚される少し前に、城でクシロス卿が数日姿をくらましていた。という噂があるのをご存じですか?」
それはリアも覚えている。なんでもクシロス卿の奥さんが夫の行方を知らないかと尋ねてきたのが始まりだ。クシロス卿自身は風邪をひいていたなどととぼけていたが、実際はどこで何をしていたのかわからない空白の時間が存在しているのだ。
「嘘か真かは定かではないですが、彼が数日姿が見えなかったと聞き及んでいます」
ルシウスはひとつ肯定し話を続ける。
「そうです。そしてリア様が勇者召喚を行った。勇者召喚自体はクシロス卿の失踪前に決められたことでしたが、国王陛下がお変わりになられたのはその辺りからなのです」
リアは少し考えた。リア自身は勇者召喚の準備のため忙しく国王に直接会ってはいなかったが、教会に仕えている者たちから聞く話では色々と戸惑いがあったようだ。
「クシロス卿の消えた三日間に何かがあって国王様もお変わりになられた? 宰相のカルロはどのように言っているのですか?」
宰相といえば王を補佐する最も近き存在だ。彼ならば王の異変や身近に起こっていることに気が付いていてもおかしくない。しかし、ルシウスは首を横に振った。
「分かりません。なぜなら、一般の民にすら謁見を許していた王が、今現在誰ともお会いになられなくなったのです。側近の立場の彼もまた同様に。今回リア様を私の保護下に置くようにできた経緯も手紙を通してなのです。ですので救出が遅くなってしまいました」
わからない。話を聞けば聞くほど何が起こっているのか謎が深まるばかりだった。そしてさらに追い打ちをかけるかのようにルシウスは重たい口を開く。
「それだけでもかなり不可解なのですが、聖光教会に仕えていたものや熱心な信者たち、王城内でも幾人か姿が見えなくなっている者が出始めています。私の部隊に真相究明の指示は出しておりますが……王はこの事態に捜索隊など結成もされず、傍観を貫いていて、民たちも今の王のやり方に不満を募らせているようです。本来でしたらあなた様が戻られたことを国民に知らせるべきなのですが、私が身柄を拘束するという形になっていまして、何かとご不便をおかけするかもしれませんがこの部屋からは出ないようにお願いします。リア様の命を守るためでもあるのです」
この王都から人が消えている? 王がお変わりになられたことと何か関係があるのだろうか? いや、タイミングからすると関係がないと考える方が不自然だ。だが何が起こっているのか皆目わからない。王が国民の命を消している? あってはならないことだが、もし仮にそうだとしたら一体何のために……
「ルシウス、色々とありがとう。最後にひとつ聞きたいのですが、私がここへ誰に連れてこられたと聞いていますか?」
リアの疑問は当然だった。得体のしれない何者かに襲われ、気が付けば拷問部屋に捕らわれていて、あの嫌らしいクシロス卿の顔が目の前にあったのだ。ルシウスは少しいぶかしんでいるようだったが、質問に答えてくれた。
「私が聞き及んでいるのはクシロス卿が勇者であるあの者がリア様を亡き者にしようとしていたところを救い出したと。さすがにその話を全て信じるほど私もバカではありませんが、こうしてリア様が目の前にいることは事実なので、どこまで信じたものか迷っているのです」
ルシウスはリアに事の真相を確かめたかったのだろう。リアもまたあの時何が起きたのか、あの者たちはいったい何者なのか洗いざらい話してしまいたかったが、誰が敵で、誰が味方かわからない今、目の前のルシウスにすら話すことがはばかられた。彼のことは信用している。だが彼の周りにいる者はどうなのだろうか?
「ルシウス、あなたのことは信用しています。今も昔も。そこでひとつお願いがあるのですが、事の真相を、今この国で起こっている悲劇も含めて調査をお願いできませんか? 危険な調査になると思います。ですが、今頼りにできるのはあなたしかいないのです」
「民たちを愛するリア様ならそういわれるであろうと思いすでに動いております。ただ、事が事だけに慎重にならざるを得ないためこれといった進展がないのが現状ですが、引き続き調べてまいります。また何かありましたら外にいる者に声をおかけください」
そう言ってルシウスは部屋から出て行ってしまった。現状何が起こっているのか、これから何が起ころうとしているのか答えが分からないまま、不吉な予感だけが確かに強まっていくのを胸中に感じ、今どこにいるのか分からない結人とティスに想いを飛ばしたのだった。
~おもちろトーク~
リア 「心配ですね」
ルシウス「ほんとに。クシロス卿はどこにいかれたのか」
クシロス卿「国家予算で行く温泉旅行は気持ちいいな~」
いつもお読みいただきありがとうございます。
今回で新たに分かったこともあれば、まだまだ謎だらけな部分も多いですが、ルシウスやリア、結人達が力を合わせて立ち向い謎を解き明かしてくれることでしょう!
いつもいいねや評価、ブックマークやご感想などありがとうございます。
執筆していく上での励みとなっており、心強い限りです。また、小説以外での質問なども受け付けておりますので、気軽に感想覧へご記入いただければ、お応えできる範囲でお応えいたします。
今後とも「いせたべ」をよろしくお願いいたします。





