~涙するにもほどがある!11~
結人とティスは魔王即位の儀を行うという部屋までラプソディアの後をついていった。途中何回も曲がっては階段を下りていきを繰り返し、長い通路をどこまで歩いていくのかと思っていると今度は階段を昇っていく羽目になった。
かなり歩いたように思うのだが、入ってない部屋や通路はまだまだありそうだ。それだけこの城が広いということなのだろう。
「ラプソディア殿、結人殿が魔王になるとお決めになった以上あえて止めはしなかったが、結人殿が魔王になるにあたり危険はないのだろうな?」
ティスはずっと胸の内に抱えていた不安を吐露する。確かにリアのことばかり頭にあってそういった点を結人自身忘れていた節があったのは確かだ。ラプソディアは斜に構える感じで微笑み「大丈夫ですよ」という。
「私どもといたしましても結人様には魔王として皆の先頭に立っていただきたいのです。ですので、結人様が死んでしまっては元も子もありませんから。それに、魔王になったからと言って何かが変わってしまうわけではないのでご安心を」
意外なことに道中、他の魔族と出会うことがなかった。それはラプソディアから醸し出される威圧感のおかげかもしれない。とにかくオプスのように厄介ごとを持ち掛けてくる輩がいないことに安堵していた。というより、オプスが異常なんじゃ、と思わなくもない。そうして今、見上げなければいけない程大きな扉の前にたどり着いた。
「それでは結人様、この先が魔王即位の儀を執り行う場所にございます」
「そういえば、俺はいったい何をすればいいの?」
「うまく事が運べば皆の前で宣誓するだけですので、とりあえずは私の後についてくるだけで大丈夫ですよ」
そう言ってラプソディアは扉を開け放った。中央には赤いビロードが道を作り、その周りを取り囲むようにありとあらゆる魔族が扉が開くと同時に歓声やら雄たけびに似た声を上げる。二足歩行の骨のドラゴンや、頭に角を生やした筋肉隆々の魔族に、オプスと同じ種族なのか下半身は蛇という種族、その中に彼女、オプスも混じっていてこちらに手を振っていたがあえて気が付かないふりをした。他にもガーゴイルのように羽の生えたものや形のないスライムのようなものまでいる。その中で、人間の姿と寸分たがわない姿をしたものがいることにどこかほっとする。ほんとに様々な魔族がいるようだ。
「皆さん、静粛に」
ラプソディアが「パンっ」とひとつ手をたたき呼びかけると、あれだけ喧騒に包まれていた会場の声がぴたりとやんだ。そしてラプソディアは、いかにも高そうなビロードの上を堂々と歩いていくのに対し、結人はどこか場違いな気がして気が引けながらついていく。そのあとをティスが警戒しながら追いかけていった。
魔族たちの間を歩いていくと数段の階段があり、その手前でラプソディアは足を止め結人にこの上へあがるように促す。結人は言われた通り壇上に上がりくるりと踵を返したところでラプソディアがよく響き渡る声で魔族たちに紹介する。
「お集まりになった皆様に告げる! 今ここにいる結人様こそが、次期魔王になるにふさわしいお方であり、前魔王リガーレ様の意思を次ぐお方である」
その言葉に「おお」やら「ついに魔王様が」と喜んでくれる魔族がほとんどだったのだが、どこからか「そいつが魔王だって? そんなもん認められるわけねーだろ! そいつは人族だぞ」という声が聞こえたかと思うと、その声に便乗するかのようにあちこちから罵声や怒声が結人に浴びせられた。
相変わらず魔族が何を喋っているのか分かっていないティスも、場の雰囲気が嫌な方向に流れていることは察したようで剣の柄に手をかけ結人をかばうように前へ出たところをラプソディアが手で制す。
「異論がある魔族も中にいることは予想範囲内です。まあ魔族も人族と同じで三者三様ですから、私が力づくで彼らを黙らせることは簡単ですが、それでは結人様が魔王になられた後にしこりを残してしまいかねません。ですので」
ラプソディアはそこで指をパチンと鳴らす。するとメイド服に身を包んだ黄緑色の髪をした少女がしっかりとした作りの箱を大事そうに持ってやってきた。身長は結人の胸の高さよりもさらに低いのではないだろうか。
「ラプソディア様。例の物をお持ちしました」
ラプソディアは一言お礼を言い少女の掌に箱を乗せた状態のまま蓋を開ける。中には、手のひらサイズの鋭利な石が入っていて、琥珀のような色をしていてとても綺麗だ。だがそこで、結人はあることに気が付く。この石って、例のリガーレとかいう魔王のオルクスの一部を封じたものなんじゃ……。
ティスも嫌な感じが伝わったのか結人に耳打ちをする。
「あの石からは禍々しい力を感じる。どうか気を付けて」
結人は返事をする代わりにひとつ頷いたものの、俺も気を付けたいんだけど、嫌な予感しかしないよね! が本音だ。
「皆さんもご存じの通り、前魔王リガーレ様のお力が封じられたオルクスの結晶がここにあります。ここにいる結人様は魔王となられる器をお持ちのお方。この結晶を近づければ何かしら反応が起こるはず」
オルクスの結晶が目の前に現れた段階でゴクリと喉を鳴らし怯える者や、目を輝かせるもの、恭しく胸に手を当てる者など皆それぞれ違うが魔族たちの雰囲気ががらりと変わったことは結人にも分かった。それだけ、リガーレというものは王としての器も人望も大きかったのだろう。
「さあ結人様。この石の上に手をかざしてみてください」
嫌な予感しかしない結人の心境とは別に、振り返りながらそんなことを言ってくるラプソディアの笑顔がとてつもなく眩しく感じた結人であった。
~おもちろトーク~
結人 「え、ティス魔族の言葉わからなかったの?」
ティス 「ああ。だから結人が蛇女なんかと普通に会話できていたのが驚きだったぞ」
ラプソディア「ということは魔族が求愛してきてもわからない? それはそれで面白い」
ここまでお読みいただきありがとうございます。
結人どうなってしまうのでしょうね。無事に儀式が終わってくれたらいいのですが……
ちなみにどうでもいい話なのですが、私は刺身などが大好物なのです。というわけで、カツオのたたきを買ってこよ♪
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