~涙するにもほどがある!10~
魔王城と聞くと、骨で作られた椅子だとか、なんの動物か分からない骨が散乱している様を想像してしまう。結人はテラスへ開け放たれている窓から恐る恐る中を見てみると、予想を大きく裏切るかのように、豪華絢爛とはこのことかと納得出来る光景が広がっていた!
二十畳くらいのその部屋には、天井からぶら下がった大きなシャンデリアが辺りを明るく照らし、これまた大きな暖炉が備え付けられている。その前には、人が五人以上は腰掛けられるのではないかと思われる長椅子が置いてあり、机も艶々と輝いていていかにもお高そうだ。
想像していたような感じとは大きくかけ離れていたせいで少し拍子抜けだ。というかティスさん、顔が怖いですよ。
「結人殿、ここは一応魔族の土地。しかも魔王城と来ている。なるべく気を抜かないでください」
「それもそうなんだけど、こちらから仕掛けることはしないでよ。喧嘩を売りに来たんじゃなくて、リアの居所を探るという目的があるんだから」
「そうですね。一応警戒はしておきますが、手を出してくるまでこちらから仕掛けないようにします」
そう言ってカレンデュラの柄から手を放してくれた。こういう物分りのいいところは彼女の良い点だ。そう言えば、ティスって料理とかできるのだろうか?
そんなくだらないことをふと思った矢先、ラプソディアが優しくほほ笑みかける。
「そう身構えなくて大丈夫ですよ。誰もあなた方を取って食おうとはしませんのでご安心を。それではそちらの椅子でごゆっくりお待ちください。私は魔王の儀を執り行う準備が出来ているか確認してきますので」
ラプソディアは結人達を豪華な長椅子に座らせて部屋を出ていってしまった。よくよく見るとこの椅子の周りに細かな装飾が彫ってあって、その装飾が翼の生えた生き物や、目だけの生き物、ガーゴイルを連想させるような生き物など多種多様な魔族を描いているようだった。近くで見るまで気が付かなかっただけで、シャンデリアも机も至る所にそういった彫刻が施されている。だが、想像していたものより禍々しさはなくはるかに可愛い。そんな緊張のかけらもないことを考えていると、横に座ったティスがおもむろに口を開いた。
「ここまで来て今更なんだが、リアの居所を探る可能性があるとはいえ結人殿は本気で魔王になる気か? こういう言い方もあれだが貴殿は異世界人だ。我々のためにそこまでする義理はないのではないのか?」
確かに理屈で言ってしまえばそうなのかもしれない。だけど、リアを天秤に……いや、天秤にかけなくとも答えは明らかだ。
「ティスのいうことも確かに一理あると思うよ。だけどさ、王都の奴らが俺を殺そうとしていた中、リアもティスも俺を信用して味方でいてくれようとしている。俺がオルクスを制御できなくて暴走した時も見捨てなかっただろ? それと同じで俺は大切な仲間を見捨てたくないんだ」
その時天井から女性の声が聞こえてきたが、意味が分かったのは結人だけでティスには何を言っているのかさっぱりわからなかったが二人して上を振り仰ぐ。
「へ~。今度の魔王様はずいぶんとお優しいんだね。そんなんじゃ誰かに嘗められて食べられちまうよ」
声のした方を振り仰ぐのと、その声の主がスルスルと降りてくるのが重なり、美人な顔が結人を逆側から覗き込むような形で直ぐ間近にあった。そいつは見上げた結人の首を赤く長い爪で撫でまわしながら、蛇のような舌を伸ばし結人の耳を舐める。
「坊や、坊やみたいなのが魔王になっても嘗められて終わりなんだから、死ぬ前にお姉さんと気持ちいいことしにいきましょ?そしたらお姉さんが守ってあげる」
視界の隅で慌てて抜剣しようとするティスを手で制し、体内のオルクスを一定量だけ相手に気が付かれないよう圧縮させた状態で待機させる。ここで嘗められたらそれこそ終わりだ。
「お姉さんこそ早く離れないと怪我しても知らないよ」
「あら面白いこと言うのね。じゃあここで気持ちよくなっちゃう?」
そう言いながら首にかけた手が徐々に徐々に下へ降りていき、服の隙間から手を入れられそうになる。
「忠告はしたからね!」
そう言って体内に溜めておいたオルクスを瞬間的に爆発させるようなイメージで相手に向かって一気に解放する。
相手は結人が反撃してくるとは一切思っていなかったらしく、ものの見事に吹っ飛び天井に当たって落ちてきた。一瞬「いやん」という声が聞こえた気がしたが、気のせいだと思いたい。ティスはすごく嬉しそうにガッツポーズをしている。
そこでそいつの容姿がはっきりとしたのだが、上半身は綺麗な女性という感じで、赤茶色の髪に細めの輪郭をしている。耳はとがっていて上半身はとても露出度の高い黒いひらひらのついた服を着ていた。よくよく見ると服が透けているような気がしなくもないが、そこはあえて触れずにいることとしよう。そこまでは、まだよかったのだが、下半身、もといお腹から下は蛇の姿そのものだった。蛇の身体に美しい女性がくっついているといった感じだ。
「坊やなかなかやるのね。ますますそそられるわ」
この期に及んで、まだ懲りてないらしい。結人がどうしたものかと思案しているところへ扉がノックもなしに勢いよく開いたかと思うと、ラプソディアが少し息を弾ませて入ってきた。努めて冷静を保とうとしているようだが怒っている?
「見つけましたよ、オピス! 魔王の儀の準備中に抜け出したと聞いたから慌てて戻ってきてみれば、次期魔王様になられるお方に何をやっているのですか!」
ラプソディアは容赦なしにオピスの首根っこを掴むとそのまま引きずるように廊下の外に放り出し、何事もなかったかのように結人の方を振り返った。
「さあ、結人様。魔王の儀への準備が整いましたよ」
~おもちろトーク~
結人 「ティスって料理できるの?」
ラプソディア「それは私も食べてみたいですね」
ティス 「できなくもないぞ……このカレンデュラを使ってもいいなら」
お読みいただきありがとうございます。
先日、小説をお読みいただいた方にTwitterでご感想をいただいたのですが、色々とほめてくださりとても嬉しく幸せな気持ちにさせていただきました。人をほめて伸ばすってとても大切なことだと改めて実感させていただいた次第でございます。
さてさて、魔王城について早々へんな蛇女に絡まれていましたね(笑)。この先どうなってしまうのか、お付き合いいただければ幸いです。
日頃、ブックマークや感想、評価や誤字報告等ほんとに感謝しております。
今後とも「いせたべ」をよろしくお願いいたします。





