~涙するにもほどがある!9~
早く助けに行きたい気持ちは結人自身もそうだったが、妙に先ほどからティスは具合があまり良くないのではないだろうかと思えてならなかった。リアが心配でというのももちろんあるのだろうが本当に具合が悪そうなのだ。顔色も少し青白い。
「うん。だけどティス、少し具合が悪そうだけど大丈夫?」
「大丈夫だ。少し気持ちが悪いというか、目眩に似た感覚に襲われているだけだから」
それは大丈夫とは言わないのではないのか? という突っ込みは言わないでおく。
「これは、私としたことが。気が付くのが遅くなり申し訳ありません。魔界大陸は常にオルクスが満ち溢れている土地なのです。川や、草木でさえこの魔界大陸に生きるものの大半がオルクスを必要としています。そしてオルクスを身の内に持たない人族であるあなた方には毒ともなるもの」
そういうなりすぐにラプソディアは呪文を唱えた。「プラエフェクトゥス」。ラプソディアがティスに向けて呪文を唱えると、ティスの身体が淡い光に一瞬だけ包まれたかと思うと顔色が少しだけ戻り心なしかさっきよりは表情もマシになったような気がする。
「すまない。さっきより体が楽になった」
「いえいえ、次期魔王様となられる結人様の大切なお仲間とあらば、放っておくわけにもいきませんから」
「じゃあ、あともう少し休んだら出発しよう」
リアを助ける前に、他の仲間が倒れでもしたら先へ進めなくなる可能性もある。ここは急がば回れだ。
ティスの体調も良くなってきたので、そろそろ出発という手前で結人はノエルの鼻先を撫でながら、「もう少しだけよろしく頼むな」と話しかけていると、ノエルの金色の瞳が結人をじっと見ていることに気が付いた。もしかするとイラの力が結人の中に入ってきたことと関係があるのか?
しばらくの間、ノエルと結人は見つめ合う形となっていたが、急にノエルは目を細め甘えた声を出しながら結人に顔をこすりつける。いきなりのことで何が何だかわからないでいるとティスがけらけらと笑い出した。
「私以外の人間にここまで甘えるノエルは見たことがないぞ。結人殿、気に入られたみたいでよかったな」
そんな呑気なことを嬉しそうに言っているティスとは裏腹に、結人は力負けしないように踏ん張ることで精一杯だった。なんといっても甘えこすりつけてくる力がとてつもなく強い。挙句の果てに太くざらついた舌で顔をなめられる始末だ。
「あ、あのさ、これ何とかしてくれないかな?」
結人は本気で困り始めていたので助けを求めたのだが、意外なことにラプソディアが笑いたいのを必死にこらえていることに気が付く。
「ラプソディア、笑いたかったら笑ってくれていいぞ」
「いえ、あの」
そう言いながらまた笑いたくなるのを必死でこらえているようだった。何はともあれ、場の雰囲気が少し和んだのはいいことだ。魔族も人族も、どんな種族も笑って暮らせる世界、リガーレが目指した平和を目指すのも悪くないのかもしれない。
物凄いスピードで飛んでいくラプソディアを追いかける形で、力強く羽ばたいて飛んでいくノエルに跨りながら最初小さかった城が、だんだんと大きくなり、眼前に迫っていた。城の下には広大な城下町が広がっていて、それなりに賑わっているような印象だ。陽はだいぶ傾いて街を朱色に染めていた。町のあちこちで明かりがちらほらと見え始めている。
城はほんとに目と鼻の先だ。もうすぐだ。もうすぐリアの手がかりが見つかるかもしれないのだ。結人もティスも焦燥に駆られていたため、目の前に迫っている城までの道のりがやたら長く感じていたが、ラプソディアが広く突き出たテラスへと降り立ったのでこれからが本番だと気を引き締めなおす。ラプソディアに続く形でノエルも羽ばたきながら徐々に降下していったのだが、またしても例の上下に激しく揺れる飛びかただった。だから、この揺れ、酔うんだってば! そんな結人をしり目に、必死に翼を羽ばたかせ下降していくノエルであった。
ティスは慣れたものでノエルからサッと降りてしまったが、結人は酔いかけていたせいもあって、少しだけまごついてしまった。それを見たラプソディアがすかさず手を差し出してくれて少し複雑な気持ちになりながらもその手を借りてノエルからなんとか下りることが出来たのだった。
ティスは辺りを警戒しつつ、いつでもカレンデュラを抜けるように身構えている。ラプソディアは恭しく一礼する。
「結人様、よくお越しくださいました。ここが貴方様の城、魔王城です!」
~おもちろトーク~
ノエル(ジーッ)
結人 (見つめてきてどうしたんだろう?)
ノエル(こいつのオルクス量なら力の限り遊んでくれそうだよな)
ティス「私以外の人間にここまで甘えるノエルは見たことがないぞ」
お読みいただきありがとうございます。
私はこの間「甘平」というみかんを初めて食べたのですが、今まで食べたどのミカンよりも比較にならない程美味しくとても感動いたしました!
皆様も、食べる機会があればぜひおすすめいたします!
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今後とも「いせたべ」をよろしくお願いいたします。」





