~涙するにもほどがある!5~
そちらがいきなり殺しに来ておいて、その言い草はないように思うがそんな話が通用するような相手ではない。ティスが結人とリアにだけ聞こえる声で囁く。
「敵が魔法障壁を破るすべを持っている以上、魔法障壁に頼りすぎるのは危険だ。ラプソディアはずっと動く様子がないので、ひとまずは様子見で。まず私がルベルと呼ばれていた少女から殺る」
「イヒヒッ。いつまで仲良くお話してるのかな。その辺にしておかないと誰か死んじゃうよ」
そう言い残しアルブスはまた姿をくらます。それを見た結人はふと疑問に思った。アルブスの姿は確かに消えているし気配もまるで分からない。だが、空を飛んでいるとかではない限り、足は地面に着いているのではないのか? だとしたら、試してみる価値はある。
結人は、いまだ焦点のあっていないルベルめがけてかけていくティスの背中を見送り、片手を地面に着けて薄く広がる水をイメージして魔力を流す。それは結人を中心としてどんどんと広がっていく。結人から見て右斜めすぐ後ろの何もないところで波紋が起きたのを感じた。見つけた! 距離はかなり近い。
結人は急いで振り返り気味に真っ黒い刀を具現化し思いっきり横殴りに振り抜く。型も何もあったものではないその斬撃はアルブスの鼻先をかすめただけで当たらない。自分の居場所がばれたことに意表をつかれたアルブスは集中が切れたためか姿を現した。だがそれだけだ。敵は、結人にできた一瞬の隙を見逃してはくれない。夢に出てきそうな笑みを浮かべながら一気に肉薄してくる。
「勇者の首、もらったぁ」
確実に死んだ。世界がゆっくりとスローモーションのように見えている結人はそう思った。ナイフの刃先が結人の喉元に吸い込まれる。結人は刀で振り払おうと動いているが間に合わない。こんなに呆気ないものなのか? 確かに身体能力など高くなったとはいえ戦闘経験で得られる勘や、戦闘経験の差というものは簡単に埋まることはない。そんなことは分かっている。でも、それでも、こんなところで終わるのは、嫌だな。
結人があきらめかけたその時、目の前で物凄い音がしたかと思うと、アルブスの身体が後方へ弾き飛ばされる。何が起こったのか理解が出来なかったが、自分の首を触って確認してみると結人の首はつながったままだった。
アルブスは吹き飛ばされる瞬間に隠し持っていたもう一本のナイフを取り出し、二つのナイフを交差させるように構えて何とか衝撃をしのいだようだが、地面にはその威力が半端ではなかった事を思わせる足で踏ん張った時の線が十メートルくらいは続いていた。
助かったのか? 助かったのだ。だが、アルブスを突き飛ばした正体を知って結人は一瞬我を疑った。さっきまで全く微動だにしなかったラプソディアが白い手袋をはめた腕を突き出し正拳突きでも繰り出すかのように、結人を半分かばうような形で立っていたからだ。彼の動きが全く分からなかった。
「あ、ありがとう」
声が半分ひっくり返ってしまったが、今はそんな事を気にしている場合ではない。
「千年です。千年あなた様の帰還を待ったのです。こんなつまらないことで、またあなた様を失いたくはありません」
そこで体勢を立て直したアルブスがものすごい形相で一睨みをしてくる。はっきり言ってゾクっとする目つきだったが、すぐに元の顔を取り繕い、例の笑い方をする。
「イヒヒッ。へ~、魔族側はそっちにつくんだ。うんうん、やっぱりそうじゃないと面白くないよね。だったらさ~、もう用はないから魔族も皆まとめて殺してあげる」
そこへルベルがティスの相手をしているのにも関わらずアルブスをたしなめる。余裕だ。それだけ実力の差があるということなのだろう。
「だから、アルブス遊びすぎ」
結人はちらりとルベルの様子を窺ったのだが、なんかすごいことになってるな……。焦点のあっていないルベルは、背中から細く黒い触手みたいなものを幾本も生やし、それが意思を持っているかのようにグネグネと攻撃をしかけたかと思うと、違う触手でティスの攻撃をガードしている。そこへ更に違う触手が攻撃を仕掛けるといった具合でなかなかティスも攻めあぐねているようだった。しかも、かなり触手自体の動きが速い。
そのときだ。ルベルの横、数メートル離れた地面に魔法陣が突如として現れる。しかもその大きさときたら直径五メートルくらいはありそうだ。地面に描かれた魔法陣から徐々に徐々に姿を現したのは、全身黒色の毛におおわれた体躯はとてつもなく大きく、鋭い牙に鋭い眼光を合わせもち、ひとつの身体から三つ首がでている地獄の番犬ともいわれている「ケルベロス」だ。足の付け根部分までで結人の倍以上ありそうだ。
ティスの相手をしていたルベルは素早く木の上に飛びすさる。ティスも距離を開けようとしたところへ、アルブスがすれ違いざまにティスの首めがけてナイフを突き立てようとするが、さすがティスである。カレンデュラで受け流し、そのまま入れ替わるような形でティスは結人達のところへ戻ることが出来た。
「この獣くらいなら私が抑えられます! カデナ」
あまりの激しい戦闘に参加できずにいたリアがすかさずに魔法を放ったのだった。
~おもちろトーク~
ルベル 「だからアルブス、遊びすぎ」
アルブス「いいじゃん。何事も楽しむことが大事だって」
ルベル 「だからって敵目の前にして、ナイフで地面に絵描かないの!」
ここまでお読みいただきありがとうございます。
これだけ多くのキャラがいると戦闘シーンなど難しいなと痛感しているゆるふわです(笑)。
表現方法など日々勉強にながらこれからも精進していきたいと考えているので、暖かく見守っていただけると幸いです。
また、ブックマークや評価、感想などありがとうございます。
正直、皆様に応援をしていただけることが創作意欲につながっており、大変感謝しております。
これからも「異世界召喚されたはいいが、魔物に食べられました!」をよろしくお願いいたします。





