~涙するにもほどがある!4~
巻きあがった土煙が次第に収まっていくとその中央にこの世界では珍しい黒髪の男が立っているのが見えた。ただ、一部が銀色のメッシュのようになっており、耳には金色のピアスをはめてバンドマンか何かを連想させる。顔はかなりの美形だ。目が人間のそれとは違い横に切れ長いが、それがまた彼の顔の良さを際立たせている。服は執事が着るような燕尾服を着ていて手には白い手袋をはめていた。
彼は切れ長の目を細め少し嬉しそうな顔をすると、片手を胸に当て恭しく一礼する。相手のしぐさなどはとても紳士的なのだが、肌をびりびりとさすような、誰も抗うことを許さない、いや、抗おうなどと微塵も思わせないような尋常ではない気を発しているのが伝わってくる。
ティスは、自分の愛剣であるカレンデュラを抜き放ち、気合で恐怖を抑え込み相手に聞こえるように精一杯声を張り上げた。
「貴様は何者だ! この威圧感は人間ではないようだが」
「私は前魔王リガーレ様の側近であった冥界の守護者ラプソディア。私はそちらのお方に用がありやってまいりました」
ラプソディアと名乗った冥府の守護者は結人を指さす。まさかの俺ですか? というのが結人の本音だったが失礼に当たるかと思いぐっと胸の内に押しとどめたのだが、体は正直で足が半歩ほど後ろへ下がってしまった。
「こうして相対するまで信じられませんでしたが、間違いなくあなた様は前魔王リガーレ様のお力の一部を宿しているのを感じます。さあ、共に参りましょう。あなた様が本来おられるはずの魔界へ」
ラプソディアは、非常に紳士的で話も通じる相手だ。できるだけここは穏便にことを運びたいところだなどと考えていたら、ラプソディアはどんどんとこちらに進んでくる。威圧感半端ないんですけど‼ ティスはティスで思いっきり剣を構えて臨戦態勢に入っちゃってるし! 距離にして十五メートル…十メートル…五メートル…そこでラプソディアは立ち止まり今一度手を差し出してくる。
「さあ我が君、王城まで私と参りましょう。皆、魔王様がお戻りになったとお分かりになればさぞお喜びになられるかと」
その時だった。ここにいる誰にも気が付かれないように気配を、いや、文字通り姿までを消して走り寄ってくる一人の少女がいた。その少女に誰も気が付かない。ティスは本能的にラプソディアには勝てないと悟り、先手必勝で今まさに切りかかろうと飛び出す寸前だったのだが、気配を断ち、走り寄ってきたその少女は、刃渡り十五センチほどのナイフを片手にティスの首めがけて振り抜いた。ティスは危機一髪のところで本当に僅かな殺気を感じ取り地を蹴ろうとしていた足を止め剣でそれを防ぐ。剣と剣がぶつかる瞬間に甲高い金属音を響かせながら火花が散った。
首を取り損ねたことを面白がるかのように笑いながら、朱色の髪をしたショートヘアーの少女が姿を現した。体をすっぽりと覆うような感じで毛皮で出来たポンチョのようなものに身をくるんでいる。見た感じだと十歳くらいだろうか。結人達とラプソディアとその少女でちょうどトライアングルのような形になる。
「イヒヒッ。やるねえ。もう少しで首をとれるところだったのに。でも次は取るよ。誰の首を取るのかは秘密♪」
結人もオルクスを操り、腕を鋭い爪と黒曜石のような硬い腕へと魔物化させる。オルクスを練り上げ具現化させた黒い刀を装備し構えた。そこへ、その少女が立っている後ろからもう一人、同じ顔に同じ髪型の少女が姿を現す。結人にはその少女が何もない所から突然現れたように見えた。二人の少女の違う点で言えば、この少女は髪が白色という点と、焦点が合っていない瞳をしているという点だ。白い髪の方が朱色の髪をたしなめる。
「アルブス、遊びすぎ」
「ルベルが遊ばなさすぎるんだよ」
どうやら朱色の髪の毛をして手にナイフを持っている少女が『アルブス』、白色の髪の焦点が合っていない少女を『ルベル』というようだ。
「キヒヒッ。次は誰にしようかな。インビジブル」
そう言ってアルブスの姿が背景と同化し薄れていく。完全にどこにいるのか分からなくなってしまった。これはまずいかもしれない。姿が見えないということは、結人の眼をもってしても追いかけられないということだ。ならばどうする? 気配すらも隠している相手を探すにはどうすればいい? 結人は必死に思考を巡らせる。
ラプソディアは今のところ顎に手を当て何かを考えるように傍観に徹しているため、あまり気にしなくてもいいのかもしれない。そう考えると、集中したい敵は姿と気配を完全に断っているアルブスと、どこを見ているのかわからないルベル、この二人だけのはずだ。どういった用件かは分からないが、いきなり襲い掛かってきたところを見ると敵で間違いないだろう。
リアが魔法障壁を展開し、見えない壁が結人達三人を包み込む。これで不意打ちは防げるはずだ。いや、防げるはずだった。
だが、その予想は大きく外れることとなった。まるで見せつけるかのように魔法障壁の目の前に姿を現したアルブスは、いとも容易くファスナーでも開けるかのようにナイフの先で障壁を切り裂いていく。これには正直結人もティスもリアも驚き、ラプソディアと名乗った悪魔でさえ「ほお?」と感心する始末。
だが、ティスもただ黙ってみているだけではない。切り裂かれたとわかる前には身体が動いていて、そこにいるアルブスに対して鋭い突進突きをはなっていたが、ナイフで受け流しながら何度か後ろに軽い身のこなしで跳躍し逃げ延びる。
「イヒヒッ。半信半疑だったけど、このナイフほんとに魔法障壁が切れるんだ。それよりそこの銀髪の人、今の当たったら死んでたじゃん」
アルブスはそれすらも面白がるようにナイフをティスに向け、頬を膨らませたのだった。
~おもちろトーク~
ラプソディア「いやー、やっと私の出番がやってきましたよ」
結人 「たしかにここに来るまで長かったもんね」
ラプソディア「さすがに千年も待たされるとは」
結人 「え……あ……そっち?」
お読みいただきありがとうございます。
いや、ラプソディアさん出番お待たせして申し訳ありません(笑)今後活躍の機会も増えてくると思いますのでどうかご期待ください。
さてさて、新キャラが色々と登場で本作品もにぎやかになってきましたね!
このイビロス大陸でいったい何が起こっているのでしょうか?今後ともお付き合いいただけると幸いです。
評価やブックマーク、誤字報告などなど日頃からありがとうございます。
今後とも「異世界召喚されたはいいが、魔物に食べられました!」をよろしくお願いいたします。





