~涙するにもほどがある!2~
オーガとの距離はまだ少し離れている為、ティスはリアの張った魔法障壁の中へ駆け戻り息を整える。レッドキャップたちは、魔法障壁に阻まれ、自分たちの攻撃がはじかれることに怒り狂っていた。
「まさか、オーガが出てくるとは。私でも一対一でなんとか倒せるかどうかだ。なんといってもあのこん棒を振るわれるとひとたまりもないからな」
オーガが持つ棍棒は、長さも太さも人の倍以上はあろうかという代物だ。魔法障壁に集中しつつ、リアがちらりとオーガを確認する。
「オーガ一体程度なら、カデナの魔法で足止めは可能ですが・・・・・・」
「いやオーガに限って、たぶん一体ということはないはずだ。奴らはそこそこ知性もあり群れで行動するからな。それに、レッドキャップ達がこれだけいるとなったら、魔法障壁を解くわけにはいかんだろ」
嫌な予想というものは的中するもので、一体目のオーガの後ろから二体目、三体目のオーガが姿を現す。リアが使うことが出来る『聖魔法 カデナ』は、敵一体を魔法で生み出した鎖で縛り上げ、魔物のオルクスを吸い上げる魔法だが、発動させている間はほかの魔法が使えないという欠点がある。つまりレッドキャップが間違いなくリアに襲い来るであろうということだ。
「だが、ここでこうしていても囲まれ、リアの魔力が切れたと同時に魔法障壁が破砕し、この魔物どもが一気に襲い来ることは目に見えているからな。ノエルのところまで走り戻るか?」
「いえ、私が運動音痴という点を差し置いても、夜の森は危険です。ここは踏ん張ってでもここで倒したいところではありますが」
確かにリアの言っていることにも一理ある。そうこう言っているうちに目の前にオーガが迫りくる。そもそも魔物の接近をこれほど許すまで気が付かなかったという時点で後手後手なのだ。この状況を打開する一手が欲しいところだが、現状維持するだけで精一杯だ。
目の前のオーガが棍棒を振り上げ、魔法障壁を壊そうとしている。リアが張った魔法障壁ならそう簡単に破られるものでもないが、これだけオーガやレッドキャップといった魔物に囲まれた状況で攻撃を耐え続けるということは、いつ魔法障壁が破砕してもおかしくない。
ティスは、魔法障壁から勢いよく飛び出し、今まさに振り下ろそうとしているオーガの足元へ滑り込みながら足首の腱を狙い切り裂くも刃の通りが浅い。魔法剣カレンデュラの効果で切り裂いた部分が燃えているにはいるが、オーガは火に耐性があるらしくあまり効いている様子はない。しかし、足を切られたことで注意がそれ、振り下ろした棍棒は地面を揺らすに留まった。
もう一度同じ場所を切ることが出来れば。そう思い駆け出そうとした時、後ろから迫り来ていたオーガの横殴りの一撃がティスをとらえる。とっさにカレンデュラで受け止め直撃は免れたが、勢いまでは押し殺せずに吹き飛ばされ大木に背中を強打し息が詰まる。魔物からとれる特殊な糸を編んで作ったこの服でなければ内臓は破裂し骨が折れていたことだろう。
剣を地面に突き刺しやっとのことで立ち上がるが、敵も待ってくれるほど優しくはない。弱った獲物にとどめを刺そうと、ティスを吹き飛ばしたオーガが棍棒を今まさに振り下ろそうとしていた。リアはレッドキャップに囲まれていて身動きが取れないでいる。
「だめっ! ティス!」
リアの悲痛な声を最後に目を閉じる。ここで終わるのか・・・・・・だが、いくら待っても襲ってくるはずの痛みや衝撃が来ないため、恐る恐る目を開けてみた。そこには、両腕を魔物化させた結人がオルクスを具現化した真っ黒い刀でオーガの足を切断したところだった。オーガはバランスをとることが出来なくなりものすごい音とともに倒れる。
命が助かったという安堵と結人にまた出会うことが出来たという思いからティスは気が抜けてそこに座り込んでしまった。そうでなくても木に打ち付けられたせいで身体中痛い。結人はティスの様子をちらりと観察し命に別状がないことを確認する。
「ティス起き上がれるか? 自分の身は守れそうかい?」
頑張って立ち上がろうとするも身体に思うように力が入ってくれない。そこへリアが、レッドキャップの攻撃をかいくぐり駆け寄ってきて魔法障壁を展開する。この中ならティスが体勢を整えなおす時間は十分に稼げるはずだ。
「結人様! ティスの安全は確保しています。結人様もどうかご無理はしないでください」
結人は残りのオーガの上段からの攻撃をバックステップで華麗によけ、片手をあげて了解と合図する。ティスはまだ剣を支えにしていなければ立つことさえままならなかったが、リアが回復魔法をかけてくれたおかげでたちどころに傷が回復する。
「結人殿はいったい何があったのだ。この数時間で見違えるように強くなっている」
「ええ。それに、見たところオルクスを具現化できるほど自在に操っているようです」
いきなり別人のように強くなった結人に二人は驚愕したのだった。
~おもちろトーク~
結人 「いやー、いきなり人間離れした動きが出来るようになっちゃったよ」
ティス「今勝負すれば確実に私が負けるであろうな」
リア 「結人様、そんな力が使えるようになってもまだ人間だとお思いで?」
ティス結人
「怖い怖い怖い」
本日もお読みいただきありがとうございます。
物語も次章に突入しましたね(前回投稿時に章を入れるの忘れていたことは秘密です)
「涙するにもほどがある」という章なので、一体何が起きるのかハラハラドキドキです!
いつも評価やブックマーク、感想などいただきありがとうございます。今後とも楽しんでいただけると幸いです。これからも本作品をよろしくお願いいたします。





