異世界召喚されたはいいが、魔物に食べられました!~番外編 クリスマス~
本編とは直接関係ない、ほんわかとしたクリスマスらしい番外編を書いてみました。
異世界の幻想的な、日頃見られないキャラたちの一面をお楽しみください。
「ふっふっふーん♪ ふっふっふーん♪ ふっふっふっふっふーん♪」
結人は、ジングルベルの曲を鼻歌で呑気に歌いながらクリスマスツリーに飾りつけをしている。その横では、リアが結人のそんな姿を微笑ましく思いながら、飾りつけを手伝っていた。
何故、結人がここまで上機嫌なのかというと、以前クリスマスの話をした際にリアが、ぜひともやってみたい! と言い、ティスも、たまにはいいんじゃないか? と意外にも乗り気だったこともあり、今日をクリスマスということにして、森の奥の誰も使っていない古い家でクリスマスパーティーをしようとしていたのだった。雪こそ降っていないが、暖炉なしではいられないくらい寒いので季節的にもちょうどいい。
近くにあった二メートルほどの針葉樹を切り倒してきて家の中に運び込み、クリスマスツリーの代わりに見立てていた。ティスは近くの村へ今晩のパーティーで食べるものの買い出しに行ってくれている。
「結人様、この木を彫って作ったお星さまはどこへ飾り付けますか?」
リアも結人に負けず劣らず高揚とした気分で手に持っている星を突き出すようにしながら訊ねる。
「それは最後にツリーのてっぺんに飾るんだよ! その前に周りの飾りつけを終わらせちゃおう。ティスが帰ってきた時にびっくりするように」
森で集めた木の実や葉っぱなど様々な工夫をして作った色とりどりの飾りを、木の周りに二人で飾り付けていく。この国では、冬になって枯れる植物もあるとのことだったが、大半は色が鮮やかに変わるのだという。なので飾り付けにはもってこいだった。
「よし、こんなものかな」
その言葉を待ってました!と言わんばかりにリアが星を持ってくる。
「結人様、早くお星さま乗せましょう」
子供のように目を輝かせて、ワクワクしているのがまるわかりだった。こういう純粋なところはリアの良いところだよな、などと思いながら、ひとつ肝心なことに気が付く。
「あ、そういえばこの家、椅子も机も何もないな。俺の身長なら手を伸ばせば届きそうだけど・・・・・・」
と言いつつ、リアを見ると、リアはリスのように頬を膨らませていた。そうなのだ、リアはそこまで背が高いわけではないうえに、家の中に台になりそうなものは一切ない状態だった。
「私はそこまでちっさくありません」
リアはそう言ってツリーのてっぺんへ手を伸ばしてみるが、あともう少しというところで届いていない。実際リアは小柄なほうだと思う。結人より十五cmほど低い。
「じゃあ、しゃがむから俺を踏み台にしてよ。そうすれば届くと思うから」
そう言ってしゃがもうとする結人をリアは全力で止める。
「結人様を踏むなんて。それに、そう簡単に地に手を付けないでください。仮にも勇者様なんですから」
そういわれることはわかってはいたが、残る手段となると限られてくる。結人はしゃがんだままで冷静を装ったままリアに背中を向ける。内心ではドキドキしていたが。
「じゃあ、おんぶしてやるから」
リアは少し迷った挙句、結人の背中に乗ることを決意したようだった。そっと結人の背中に体重を乗せ、星を持ったまま後ろから首に両腕を回す。リアはこれほど密着していたら自分の心臓の音が伝わるのではないかと本気で思った。そもそもが異性にこれほど密着したこと自体初めてで、顔は見せることが出来ないくらい赤くなっているのが自分でもわかる。
「じゃあゆっくり立つぞ」
そう言って結人はゆっくり立ち上がる。女の子をおんぶしたのは初めてだ。意外と軽いんだな。そんな思いとは裏腹に、リアがどこか緊張した声を出す。
「あ、あの・・・・・・その・・・・・・・・・・・・お、重たくありませんか?」
最後の方はごにょごにょと何を言っているか聞き取れないくらいの声音だったが、何とか言いたいことは理解出来た。
「いや、逆に軽いから驚いてたくらいだよ! それより届きそう?」
「重たくないなら良かったです」
リアはそう言いながら腕を伸ばすが、今一歩のところで届かない。何度か試してみたが、やはり微妙なラインで届かないのだ。結人は一度リアをおろし、リアの背後に回って自分の肩へリアを乗せて立ち上がる。いわゆる肩車というやつだ! 恥ずかしさから何も言わずに立ち上がってしまったので、リアが小さな悲鳴を上げて結人の首へしがみつく。
「リア、く、首は苦しいから、力入れるなら額にして」
リアは、ごめんなさいと言って、手を額に添えなおす。
「どう? これなら届くでしょ?」
「はい。飾りつけできました! あ、あの、降ろしてもらって大丈夫です」
これ以上はリアの方が恥ずかしさと嬉しさのあまり、耐えられそうになかったのでゆっくりと降ろしてもらう。後ろで結人が立ち上がる気配がするが、赤面した顔を見られまいと、すぐに結人のほうを振り向くことが出来なかった。いまだに心臓が高鳴り、自分の耳に聞こえそうなくらいドキドキしているのがわかる。
「リア、ここの隅に置いてある葉っぱ? は何に使うんだい?」
そんな中、いきなり結人に話しかけられ、意を決し、火照った顔に手でパタパタと風を送りながら振り返る。
「リア、顔が赤いけど熱でもある?」
結人が近づいてきたかと思うと、今度はリアの額と自分の額に手を当てて体温を比べ出す。せっかく意を決し、振り返ったおかげで少し火照りがマシになってきたかもと思った所へこれだ!
「ゆ、結人様、私なら全然問題ありませんので。それよりその葉っぱですよね! この葉っぱの茎を折るとネバネバの液体が出てきて、糊の代わりになるんですよ。で、茎からちぎったこの葉っぱをまばらになるよう、壁に貼り付けていってください」
危なかった。とリアは内心叫んでいた。あのままだったら、心臓が破裂してしまっていたかもしれなかった。結人をちらりと見ると、リアの気持ちなど、全く気が付いていないかのように壁にぺたぺたと葉っぱをちぎっては貼り付けていっていた。
「すごい! ほんとにくっつくなんて。これ楽しいね!」
なんか理不尽だと感じないでもないリアだったが、結人と一歩仲良くなれたことのほうが嬉しくて、さっきのことを思い出してまた顔が熱くなってくる。
そこへ、「ただいま~」と扉を開けてティスが入ってくる。手にはいろいろな食材を抱えていたのでリアが気を紛らわすために手伝いに行く。
「おかえりなさい。この半分はどこへ運ぶ?」
荷物の片方を受け取りながら、リアはいつもの感じで聞いたつもりだったのだが、姉妹も同然で育ってきたティスに隠し通せるはずもなくあっさりとばれてしまい、結人に聞こえない声音で耳打ちしてくる。
「結人殿と何か進展があったようで何より。キスでも迫られたか?」
それを聞いたリアは、脳内で想像してまた赤面する羽目になったのだった。
日もとっぷりとくれ、外は夜のとばりに包まれたころ、リアが魔法でサッカーボールほどの光の玉を作り出し天井付近に浮かべる。これだけで部屋が見渡せるくらい十分に明るくなった。飾り付けたクリスマスツリーもいい感じに雰囲気を出してくれている。
ティスが用意してくれた夜食は、少し硬めのパンに、野菜たっぷりの湯気が立ち上るスープとメインディッシュに鳥をアマダレで焼いたような料理で、どれもおいしくクリスマスにふさわしい内容だった。軽いはちみつ酒のようなお酒でほろ酔い気分になったころ、みんなで何か歌おうということになった。
「じゃあいいかい? 歌は教えたとおりに。せーの」
「ジングルベル♪ ジングルベル♪ 鈴が鳴る♪
今日は 楽しい クリスマス♪ へいっ!」
「メリークリスマース‼」
最後のメリークリスマスまで息ぴったりにそろったことに、なんだかとてもうれしくなり、結人は声を上げて笑った。それにつられてリアもティスも笑っている。地球も異世界も何も変わらないじゃないか。こうやってみんなで楽しく盛り上がって笑い合えるのだから!
食事もひと段落してそろそろ寝るようにしようかと床の上にそのまま横になる。窓側から結人、リア、ティスの順番だ。リアが消しますよと浮かべている光の魔法球を拡散させる。光源がなくなったのだから当然暗くなるだろうと思っていた結人はだんだんと周りの壁が緑色に光り始めたことに驚いた。
「結人様、気が付きましたか? 結人様に飾り付けてもらった葉っぱは『ルークス草』といって魔力を吸収した分だけ光を放つんです」
リアが説明してくれたように葉っぱの一枚一枚がリアの拡散させた魔法を吸収して淡い緑色や青色に光っているのだ。それがたくさん集まって幻想的な空間を創り出していた。
「確かにきれいだな。ルークス草にこのような使い道があったとは!」
さっきから何もしゃべらなかったティスも、内心驚いていたようだ。
しばらくこの幻想的な雰囲気の中、みんなで楽しく語らった後、一人また一人と夢の世界へ誘われていった。来年もこうやってみんなで楽しく過ごせるといいな。
お読みいただきありがとうございます。
いや-、今日はクリスマスイヴですね♪
ついこの間クリスマスをしたような気がするのですが早いものです(笑)
今年は一気に寒くなったので、サンタクロースも、赤鼻のトナカイも、風邪をひいてないといいですが(笑)
日頃、評価やブックマークや誤字報告などありがとうございます。
皆様も暖かくしてお過ごしくださいね。それではよいクリスマスを!
Mary Christmas✨





