~身勝手にもほどがある!21~
「魔王リガーレは何の躊躇いもなく、『これ以上、同族の血が流れないのなら』と自らの力をオルクスに封じ込めたのだ。それは、『傲慢』『強欲』『嫉妬』『憤怒』『色欲』『暴食』『怠惰』という名の力。だが、当時勇者側の王の側近だった男は、その瞬間を待ちわびていた。いや、それこそが奴の狙いだったのだ。奴は、教会の裏で暗躍する陰と呼ばれる組織を使い、力を失ったリガーレの背後から心臓を貫くように仕向けていた。力の根源を自ら封印してしまったリガーレは、成す術もなくその場に倒れ伏し絶命した。命の灯が消えるその瞬間にリガーレは封印した力にこい願った。誰にも見つからぬところへ飛んで行けと。その思いを受け我らは散り散りに消えた。争いのない世界を願い、人も魔族も、生きとしいけるもの全てが笑って暮らすことのできる、そんな世界を創りたかっただけだというのに、なぜこのような仕打ちを受けなければならない!」
イラの感情がまた高ぶり、黒いもやがどんどんと膨れ上がっていく。結人は不思議と今の話をすんなりと受け入れることが出来た。それは、結人自身が話を聞きながら、記憶を追体験していたような錯覚にとらわれていたからかもしれない。
「イラ、過去に何があったのかは分かった。そして、その話を聴く限り、紛れもなく人族に落ち度があるとも思う。だから、このとおりだ」
そういいながら結人は深々と頭を下げる。だが、そう簡単にイラの怒りは収まってはくれない。
「わかったところでなんになる! 魔王リガーレは死に、希望は絶たれた。いまさらお前ごときに謝罪されても何も変わらん」
声はかなり怒っていることが伺えるが、その中に深い悲しみが見え隠れしている気がした。多分イラなりに色々と考え、悩み、それでも答えが出ないでいるのだろう。イラは、そこまで一息に言い切り、急にしばらくの間押し黙ったかと思うと、とんでもないことを言い出した。
「いや、待てよ・・・・・・おいっ、お前は我の存在が邪魔なのだろう?」
「邪魔とは言わないけど、また暴走されたら困るのは確かだ。俺は誰も殺したくはないし」
イラは何やら満足げにひとしきりうなずいている。
「結人、我を受け入れろ! 」
結人は一瞬固まり、こいつはいったい何を言い出したのかと困惑したが、どうやら冗談とかではないらしい。しかし、イラを受け入れるということは、体を支配されるということになるのではないだろうか?
「クックック、案ずるな。我を受け入れてもお前を支配しないと約束しよう。だた、代わりにお前が世界を変えて見せろ! 魔王リガーレのなしえなかった本当の平和を、お前の手で掴み取れ。その先に何が待ち受けているのか我自身見てみたくなった。そして、魔王リガーレの力を再び一つに戻すのだ! 言っておくが、お前が拒否したり、事を成しえなかった場合はお前を我が物とし、世界のありとあらゆるものが消えてなくなるまで暴虐の限りを尽くすからゆめゆめ忘れるな」
何を勝手に! と抗議をする間もなく、イラは黒い煙の残像を引きながら結人に勢いよく突っ込み、そのまま胸の中へ吸い込まれるようにして消えてしまった。とたんに結人は胸の奥が締め付けられるような感覚に襲われ、息が苦しくなり、胸を押さえてひざを折り片手を地面に着く。苦しい。胸が・・・・・・息が・・・・・・できない。しばらく苦しみに耐えているとスッと胸のあたりが軽くなり、息ができるようになる。結人はそのままの体勢で悪態をついた。
「なに勝手に人の体に入ってきてるんだよ。それに俺、やるとも何とも言ってないし」
息も絶え絶えに抗議するも誰も何も答えない。それに、拒否すればこの体を支配するといっていた。俺に拒否権はないってわけか。というよりそもそもだ、この世界に勝手に呼び出され、魔物に食べられて追われる身となり、挙句の果てに力を一つに戻し争いのない世界を作れといきなり言われても何をどうすればいいのやらさっぱりなのである。
「みんな身勝手にもほどがあるだろ! 」
などと叫んでみたところで、結人の声が空しく消えていっただけだった。
それよりも、ここからどうやって戻ればいいのだろうか。結人は立ち上がりながら考える。イムザには、俺の方法でイラをどうにかしろと言われ、イラは身体を支配しないと約束してくれたわけだから、ひとまず最低どうにかすることはできたと思うのだが、精神世界からの戻り方がわからない。こんなことなら、戻り方までちゃんと聞いておくべきだった。などと考えていると、突然背中を思いっきり引っ張られ後ろ向きに倒れるような感覚に襲われる。
次に目を開けると自分は椅子の上に座っていて、目の前にはイムザがおいしそうにさっきの飲み物をすすっている。机の上では相変わらず、小さな螺旋状の滑り台を連想させる置物でくるくる回っては落ちていく光の玉が無邪気に遊んでいて、羽の生えたリスの置物は今は羽ばたくのを止めて羽を折りたたんでいた。
皮のローブに身を隠しながらリアとティスは結人の身を案じていた。だが、村でティスが集めてきた状況を整理するに、予想通り三人ともお尋ね者扱いとされているようで、下手に行動するわけにもいかず、結人の姿が見えなくなった森の奥に身を隠しながら野営しているところだった。
「結人様はいったいどこに行かれたのでしょうか。最後意識はあったように見えたのですが、いつまた暴走するとも限りません。早く見つけて差し上げたいのですが・・・・・・」
「いっそ、暴走してくれたほうが居場所が分かりやすいっていうメリットもあるが。いや冗談だ」
ティスはリアを元気づけようと言ったつもりだったのだが、今のリアには心の余裕がまるでないらしく、真剣な面持ちで考え込んでいる。
「まあリアが結人殿のこと好きなのは分かったから、少し落ち着け」
「そうですね。結人様のことを好き・・・・・・って、誰が誰を好きって!?」
顔を真っ赤にして恥ずかしがるリアに、少しでも元気を取り戻してほしくて意地悪を言ってみる。
「あれ、好きじゃないのか。好きじゃないのなら、私がもらっても別に問題ない?」
「え、いや、だ、だめです!」
相変わらず顔を真っ赤にさせながら、両手を交互にバタバタと動かして息も絶え絶えに全否定する姿をみて、リアは昔と変わらないなと懐かしくなり、ティスは心のどこかでほっとする。それと一緒にチクリと痛んだような気もしたが気が付かなかったように蓋をする。
それにしても、結人殿はいったいどこに行ってしまわれたのか。リアを不安にさせないように気丈にふるまってはいるが、ティス自身、結人のことが心配なのであった。
同じ星空の下、薪を囲み談笑した昨日の夜とは程遠い不安な渦中の、何か起こりそうな嫌な雰囲気の夜だった。
~おもちろトーク~
リア 「そういえば、ティスは怖い話や幽霊が苦手でしたよね?」
ティス「な、なぜこのような森の中でそんな話を」
リア 「いえ、少し確認を。・・・・・・ね?」
ティス(最後の「ね?」は明らかに違うほうを見ていったよね!?(汗))
ここまでお付き合いいただきありがとうございます。
イラに色々と押し付けられた結人の今後はどうなっていくのでしょうか?
早くもクリスマスの週となりました。今月の24日に「異世界召喚されたはいいが、魔物に食べられました! 番外編」の一話読み切りを投稿しようと考えております。
本編とはまた違った雰囲気に仕上げることが出来たのではないかな?と思っておりますので、併せてお楽しみいただければと思います。
これまでにブックマーク、評価、感想などしていただき誠にありがとうございます。
今後とも結人達の成長と共に見守っていってくだされば幸いです。
これからも、「異世界召喚されたはいいが、魔物に食べられました!」をよろしくお願いいたします。





