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~身勝手にもほどがある!20~

 気がつくとそこは真っ白な何も無い世界だった。傍から見れば、その世界に結人が浮かんでいるように見えたのかもしれないが、足が地に付いているような不思議な感覚はあった。


「ここが精神世界なのか?」


 見渡す限り何もない空間がどこまでも広がっているだけのように思えたのだが、いきなり目の前に黒いもやが現れたかと思うとだんだんと蜘蛛の形に変化していく。その大きさときたら、二階建ての家に匹敵するのではないかという大きさだった。


「わざわざ殺されるため我に会いに来るとは、お前も物好きだな」


 この声には聞き覚えがあった。結人の中のオルクスが暴走するたびに頭の中で激怒していた声だった。結人は無意識のうちに緊張し身体がこわばっているのが分かった。


「お前は、誰なんだ?」

「我が誰かだと? これだから人間は好かんのだ!」


 またこいつが激怒するのだろうかと身構えたが、意外な反応が返ってきた。


「まあよい。ここまで我に会いに来た褒美に教えてやろう。我が誰なのか、しかとその脳裏に刻むがいい。我が名は、イラ(憤怒)。かつて魔王と呼ばれ、恐れられていたものだ」


イムザが俺の中から魔王の気配を感じると言っていたのを思い出す。本当にこいつが魔王なのだろうか?


「イラ、お前はなぜそれほどまで人を見下し、忌み嫌うんだ?」


 とたんにイラが瞬間移動でもしたかのように目の前に現れ、イラを取り巻く黒いもやが結人の首を締め上げ結人の足が浮きそうになる。


「お前たち人間が、人間風情がそれを言うのか! あの時裏切ったのは人族のほうだというのに!!」


 何の話か皆目検討もつかなかったが、捕まれた首が圧迫されるような変な感覚に襲われていて苦しい。ここは精神世界で生身の身体とは違うことに感謝した。生身の身体でこれほどの力で締め上げられていたら首の骨が折れていたかもしれない。結人は苦しいのを何とかしたい一身で声を絞り出す。


「イラ、俺は別の世界から来た人間なんだ。だからイラが過去に、人間に何をされたのか知らない。もしよければ話してくれないか?」

「聞いてどうする」

「分からない。だけど、もしも人間がイラにひどいことをしたというのなら、ちゃんと謝罪したい」


 首を絞めた状態のままイラはしばらく様子を見ていたようだったが、6つの眼でじっと結人の瞳を覗き込み、その思いの強さを確認する。イラの周りの黒いもやも少しだけ落ち着きを取り戻し、結人の首を解放した。結人はそのまま地面に手をつく。


「お前は少し変わった人間だな。いいだろう、話してやる。我が、いや、()()が魔王リガーレと呼ばれていた頃のことを。かつて魔族と人族はともに共存することはできないと信じ、歩み寄ることもなく、幾多にもわたって争い、大地に血の海を作り上げてきた。それは今も変わらぬ。だが、リガーレ様は少し変わった魔王だった」


 そこまで話し、鋭い爪の生えた足で指差しながら「少しお前と似ている」とほくそ笑む。いや、実際に蜘蛛なのだからイラがどんな表情をしたのかはわからないが、結人にはそう感じ取れた。


「魔族の種類の中には、血を好むものや戦闘好きなものも数多くいる。だが、リガ―レ様は争いごとが嫌いでいつも魔族の、民たちのことを考えていた。どうすれば血を流さずにすむのか。人族との争いを避けることができるのかと。しかし、その願いとは裏腹に人族と魔族との争いは日に日に壮絶さを極めていった。ある日、勇者と名乗る者が軍勢を率いて魔王の下へ現れた。さすがは勇者と言ったところだ。今まで、あそこまで互角に魔王と戦えたものはいなかったからな」


 その声にはどこか懐かしむような、それでいてどこか悲しむような感情が伺えた。結人は自分が実体験してきたかのような不思議な感覚に捕らわれ、ただただ聴くことしかできない。そしてイラは話を続ける。


「力は常に互角。何度剣を交えたかは数えられぬほど、数多(あまた)の戦いを魔王リガーレと勇者は繰り返してきた。そして魔王リガーレは気がついたのだ。剣を打ち合う度に伝わってくる勇者の想いが。勇者もまた剣を打ち合う度に魔王リガーレの想いが伝わっていたのだろう。ある日、魔王リガーレは勇者に提案を持ちかけた。それは和解の提案。その提案を勇者側も魔族側も受け入れ、これ以上無駄な争いをせず、お互いの領地を荒らさないという約束をするにまでいたった。だが、勇者を召喚した国の王は欲をかき、それだけでは信用できぬと、『魔王リガーレの力の根源を消滅させたとき初めて、その契約を交わそう』などとぬかしおった」


 その時の記憶が鮮明に思い出されたのか、話しているイラの周りにある黒いもやがまた膨らみ始める。結人もだんだんと、イラが怒ったときなどはこのもやが膨らむのだと気がついてきたので、あわてて少し気分をそらす発言をする。


「魔王リガーレは民のことを考えられるとてもいい魔王だったんだね! それでその後どうなったんだ?」


リガーレを褒められたことで気分が少し高揚したのか、落ち着きを取り戻したイラは再び話し始めたのだった。

~おもちろトーク~

イムザ「これほど簡単に精神世界に落ちていくとは・・・・・・」

イムザ「・・・・・・・・・・・・」

イムザ「暇じゃの。どれ、インクで落書きでもしてやろうかの」


ここまでお読みいただきありがとうございます。

結人の中の確信に迫っているわけですが、今後どのような展開になっていくのか、お付き合いいただけたら幸いです。

12月だというのにただ今の外気温21度。来週から寒くなるらしいのですが・・・・・・


また、評価やブックマーク、レビューなどお書きいただきありがとうございます。

大変やる気へとつながっております。


今後とも「異世界召喚されたはいいが、魔物に食べられました!」をよろしくお願いいたします。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ついに結人の精神世界が明らかに…!二階建ての家位の蜘蛛…良いですね!禍々しさが伝わってきます! [気になる点] 憤怒(イラ)もしかして、キリスト教の『七つの大罪』ですか? [一言] イラが…
2021/12/13 14:46 退会済み
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