~身勝手にもほどがある!19~
案内された場所には木で出来た家が一軒、月明かりの中建っていて、窓からは暖かなオレンジ色の光が漏れていた。
「主、言われたとおり連れてまいったぞ」
木で出来た扉の前に辿り着き、トルチュが口を開くが、言い終わるよりも先に扉が軋みながら開く。そこには、紫色のローブに身を纏った老婆が杖を手に優しい微笑を浮かべて立っていた。その杖の先端には拳位の大きさのガラス玉のようなものが浮いており、赤、黄、青といった小さな光がその周りを縦横無尽に飛び回っては、先端に浮かぶガラス玉の中へ出たり隠れたりしている。
「良く来たね。まあ、こんなところでは寒いだろうからこちらへお入り。トルチュもおつかいありがとね」
そう言いながら老婆が手に持っている杖をトルチュに向けると、トルチュの身体が青い小さな光へと変わり、杖の先で色とりどりの玉が飛び交う中に混ざって消えてしまった。
結人は少し驚いたが、おばあさんから醸し出される雰囲気は不思議なものがあり、何故かそういうこともあるだろうという気にさせてくれる。
川原でリアやティスと野宿した時には火があったからまだ良かったが、今はそういったものが何もなく、さらにここが深い森の中ときているのでとにかく寒い。おまけに結人はぼろぼろの肌着姿のままだったので、中に入っていいという申し出は非常にありがたかった。
「おじゃまします」
扉をくぐると不思議な光景が広がっていた。暖炉や木で出来た家具といった物はゲームなんかでよく見かけるような物ばかりだったのだが、とある棚の上には緑色にきらきらと輝く液体が入った金魚鉢程度のビンが置いてあったり、机の上には小さな螺旋状の滑り台を連想させる置物があり、くるくる回っては落ちていく光の玉が無邪気に遊んでいるように見える。その横には、リスを連想させる置物があるのだが、それには羽が生えていて時折羽ばたくような動きをしていた。
この部屋の至る所に見たこともないような物が色々と置いてあった。
結人が部屋の中にある物に目を奪われていると、湯気が立ち上る黄色い飲み物をマグカップに入れてきて、渡してくれた。毒が入っているのではないかとも一瞬頭を過ぎったが、今朝、携行用のパンを食べただけだったのでほんわかと心温まる美味しそうな香りに思わず口をつけ一口飲む。
これはハーブだろうか。優しい花の香りと蜂蜜の甘さが絡み合ったとても心落ち着く味の飲み物で、すごく後味もさっぱりしている。
「そちらの椅子におすわり。なぜ自分が呼ばれたのかとか聞きたいこともあるじゃろうが、まずは自己紹介じゃな」
結人が素直に従い、座ると、おばあさんも腰掛けながらにっこりと微笑む。
「私の名前はイムザ。訳あってこの森の管理を任されている精霊使いで、錬金術師でもある。といっても、錬金術はとうの昔に辞めてしまったのだがの」
そういってイムザは一人おかしそうに笑う。さっき飲んだ飲み物のおかげか、身体は温かくなってきていたし、イムザの笑う姿を見ていると心に余裕が戻ってくるのが分かった。
「俺は結人です。おばあさんはここで、ずっと一人で過ごしているんですか?」
「結人か、いい名じゃな。そうじゃな、お前さんの言うように森の管理を任されてからずっとここにいる。この森を守るために人や亜人、魔族といった者から森自体を精霊術で隠しておるからの。それが私に出来る、唯一の・・・・・・」
そう言いながらイムザは遠い目をして、どこか物悲しく何かを見つめるように窓の外へ目を移す。結人もその視線の先を追いかけるが、暗くなった森が広がっているだけだった。しかし、それも一瞬で優しい穏やかな表情に戻り、結人の魔物化した片目と腕を指差した。
「結人よ、お前の中に魔王の力が入っているのを感じる。一部だけじゃがの。今はかろうじて封印がなされている状態でいつ暴走するかがわからん状態じゃ」
結人はごくりとつばを飲み込む。さっきまでほっこりとした気分になりかけていたのに、一気に緊張が体中を支配する。
「じゃが幸いなことに、お前さんはまだ飲み込まれてはおらん。それがお前さんをここに呼んだ理由じゃ。力に飲み込まれ、飲み込まれたままお前さん自身と力が混ざり合ってしまえば私の力ではどうすることも出来なんだが、今ならまだ力を制御することも出来るはずじゃ。その代わり、それを成すのはお前さん自身だ。わしは手助けをするだけじゃ。それを成すには、相応の覚悟と精神力がいるじゃろうが、結人自身その覚悟はあるかい?」
いきなり覚悟があるかと聞かれても正直分からない。だが、このまま人や生き物を肉の塊として殺してしまうようなことがあってはいけないと思う。
「やります。このまま何もせずに、また身体を乗っ取られて、訳のわからないことをしてしまうくらいなら」
しばらくの間、結人の瞳をじっと見つめていたイムザだったが、よく言ったねと結人の頭をぽんぽんと撫でてくれた。この歳になって頭を撫でられるとは思わなかったなと、少し嬉しくもあり恥ずかしくもあった。
「それじゃ今からお前の魂を精神世界に送るからね。そこでお前さんの中にいる魔王の力の一端があるはずだから、それをお前さんのやり方でどうにかしておいで」
どうにかしておいでって、俺は一体、何をすれば? という疑問をよそに、イムザは精霊の歌を謳い始める。聴き慣れない言葉に、最初違和感を覚えたが、いつの間にか一つ一つの言葉がまるで月に照らされた海のように暖かく、優しく結人の体を包み込む。結人はいつしか子守唄で眠る子どものように椅子に座ったまま、精神世界へと落ちていったのだった。
~おもちろトーク~
結人 「イムザのその杖って何なの?」
イムザ「ああ、これかい? これは精霊のやどり木と呼ばれる木からできている杖で―――――――」
結人 (な、ながい……かれこれ三十分は説明してくれてる)
いつもお読みいただきありがとうございます。
早くも十二月ですね!これからますます寒くなってくると思いますが、お鍋など暖かいものを食べて元気に過ごしましょう!私もお鍋は大好物です(笑)
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今後とも「異世界召喚されたはいいが、魔物に食べられました!」をよろしくお願いいたします。





