~身勝手にもほどがある!15~
息を切らす結人の喉元に魔法剣カレンデュラがあてがわれ、リアがそこまでと言う声を上げる。これで何度目か解らないが一本も取れないまま全て結人の負けで終わっていた。しかも、実力の差がありすぎて、結人の強化された枝を切らないよう、全て魔法剣の腹で受け流すように捌かれていた。
少しはなれたところにいるノエルは、まだやっているのかとでも言いたげな様子であくびをしている様が少し憎たらしい。
「どうした、結人殿の力はその程度なのか」
ティスは息ひとつ切らさずに涼しげな顔でカレンデュラを鞘に戻す。
敵わないだろうことは分かっていた。ただがむしゃらに打ち込んでも軽く払い流されるだけだったので、河原の石を拾って投げたところへ踏み込んでみたり結人なりにいろいろと工夫をして挑んでみたのだが、ここにくるまで握っている枝がティスを一瞬すらもかすめていなかった。
「もう一度お願いします」
どうにか呼吸を落ち着けながらいろいろと頭の中で、一瞬でも相手の隙を作るにはどうすればいいかを考えながらお願いする。ティスはひとつこくりとうなずいた。
「わかった。だが次で最後だ。あまり根をつめても仕方ないからな」
お互いに距離をとり、おおよその位置につく。これで最後と言われたが、まだ試していないことがひとつだけ残っている。いきなりうまくいくとはおもっていないが、いろいろと考えた結果、唯一相手に隙ができるとしたらこれしかない。
「それでは両者、始めてください」
リアが片手を振り下ろすと同時に結人はティスを中心に円を描きながら駆け出した。彼女は微動だにしていなかったが隙がないことは結人自身、身をもって体験済みだ。
だがしかし魔法ならどうだ。これはまだ試していない。結人はティスの死角に入った瞬間を狙い、ダメもとで左手をティスに向けた。瞬間、イメージ通りの火の玉がティスめがけて放たれる。
危険を察知して振り返りぎみだったティスも、立会いをしてくれているリアも、結人がいきなり魔法を放ったことにかなり驚愕した顔をしていたのだが、何を隠そう、このとき結人自身がいちばん驚いていた。
だが、驚いている暇はない! 一本でも取りたいという思いが体を動かし、右斜め下に棒切れを構えたまま瞬時に方向を変えティスとの距離をつめる。ティスは飛んできた火球を剣であっさりと切り払った。しかし結人もそれは想定ずみで、間合いに入るや握り締めた棒切れを右下から左斜め上に気合とともに思い切り振りあげる。今度こそ、一本取ることができたか、少なくともかすりはする! という自信があった。
あったのだが、実際は枝がティスに当たるかあたらないかと言うところで腕に衝撃がはしり、枝が叩き落されたのだと気がついた。あまりの集中に、そこまでというリアのかわいらしい声すら聞こえていなかった。
「驚いたな! 結人殿がそんな隠し技を持っていたとは。さっきの魔法はいったいいつの間に使えるようになったのだ!?」
結人は疲れてその場にへなへなと座り込み、すっかり日が高くなった雲ひとつない澄み渡った空を眺める。いつと問われても「今です」と答えるしかないのだが・・・・・・。そこへきらきらと瞳を輝かせながらリアもかけてくる。
「ほんとにすごいです、結人様。まさか無詠唱で魔法を発動させるなんて普通の人はできませんよ」
「いや、詠唱の言葉なんてわからないからとりあえず無我夢中で魔法をイメージしたんだけど。結局この棒切れはティスに一回も届かなかった」
魔法を放つことができたことは嬉しかったのだが、最後の自信があった一撃までかわされたという事実が重たくのしかかる。彼女に勝つなどおこがましいということは分かりきっているのだが、この先何が待っているのかわからない以上、この世界で生き抜くためにはもっと力が必要だ。
ティスは結人の肩にぽんと手をかけながら首を横に振った。
「いや、私のこの魔法剣、カレンデュラだからこそ魔法を切ることができたが、普通の者に魔法を防ぐすべはないよ。あるとすれば、私と同じように何かしらの道具に頼っているか、相手が魔法使いの場合かだ。今のように魔法を発動させることができるのなら、そこらのやつは目じゃないだろう」
これほど強いティスにそういってもらえると素直にうれしかった。
と言うか待てよ。それってつまり彼女が魔法剣を持っていなかったら危うく丸焦げにするところだったんじゃないだろうか。という結人の気がかりはどこ知らぬ風でティスはノエルの元へ歩いていく。
「結人様、汗いっぱいかいてますね。川で水でも浴びていかれますか?」
すでにぼろぼろになった結人の服を差し出しながらリアが気にかけてくれる。確かに汗で着ているシャツもズボンもびしょびしょだったが、彼女たちの前で服を、とりわけ下を脱ぐわけにもいかないだろう。結人はリアに貸していたぼろぼろのジャージを受け取りながらこれをタオル代わりにするかとズボンを捲くり上げて川へと向かった。
ノエルはおとなしくティスにあごをなでられながらすごく気持ちよさそうな顔をしている。
ティスが持っていた携行食用の固いパンを食べて、いよいよ近くにあると言う村へ向かう時がきたのだが、ノエルにまたがったティスがリアを引っ張りあげる光景を見てよみがえる記憶があった。
「これって、また鷲掴みにされるパターンなんじゃ?」
嫌な予感と言うのは当たるもので案の定、再びノエルに鷲づかみにされての空の旅となったのだった。
~おもちろトーク~
ティス「結人殿、毎回すまないな。ノエルに皆が座れたらいいのだが」
リア 「そうですよね。次は私と変わりましょう!」
結人 「いや、いろいろとまずくないか? 下からその服の中丸見えになるだろうし」
今週もお読みいただきありがとうございます。
今後結人の活躍の場が増えてくる予定です!
また、クリスマスにはストーリーとは離れた外伝エピソードも更新したいと思っておりますので、楽しんでいただけると幸いです。
日頃、応援やブックマーク、評価などしていただきありがとうございます。
皆様の支えが、本作品の執筆意欲へとつながっており、大変に感謝いたしております。
今後とも「異世界召喚されたはいいが、魔物に食べられました!」をよろしくお願いいたします。





