~身勝手にもほどがある!11~
雲ひとつない夕闇の空に、地球とは比べ物にならないほど大きい月が辺りを照らし、その光はこの世のありとあらゆるものを優しく包み込み、見守ってくれてさえいるようだった。
遠くに見える山の影は背丈が高すぎて、途中から雲に隠れてしまっている。
手前に見える森の向こう側には、舗装もされていない道が一本横に続いていた。大きな月のおかげで夜だというのに地球では考えられないくらい明るく遠くまで見渡すことが出来た。
まだ異世界に来てしまった、という実感が持ててないのは確かだが、見慣れない光景を目の当たりにすると嫌でも自覚せざるを得ない。
壊れた壁から、走り幅跳びの選手かよ! と突っ込みを入れたくなるくらいの跳躍で、飛び出した結人は、このまま鳥になりたいなどと、目に飛び込んできた光景を見て頭お花畑なことを考えたのだが、それは本当に一瞬の出来事で終わる。
すぐに真下に広がる森が目に飛び込み、結人の体は重力に逆らえず、落下をし始めたからだ。声にならない叫びを上げながら、風圧で口が凄いことになっている自覚がある。しかし否応なしに木々は迫り、物凄い勢いでぶつかる! というところで空からティスたちを乗せたノエルが結人の腰の辺りを鷲づかみで、キャッチして森の上空、木々すれすれの所を低空飛行で飛んでいく。
キャッチされたことに安堵しながら、ティスのお姫様抱っこじゃなかったのかい! などと自分に突っ込みを入れる反面、心のどこかでお姫様抱っこをされなくて良かったと思う気持ちと、扱い雑すぎませんか? という気持ちが入り交ざり、苦虫を噛み潰したような顔をした結人のことなど露ほども知らぬという顔で、二人を乗せ一人をキャッチしたノエルは城が完全に見えなくなるまで飛び続けたのだった。
ノエルは川の岸辺に座り込み、月を見上げては水面に移った月を揺らして遊んでいる。結人、ティス、リアの三人は薪を囲むような形で座り、川で取った魚を枝に刺して焼いているところだった。ティスは火の属性魔法が得意らしく、人差し指の先に火を点すとあっという間に薪に火をつけてしまった。今まで魔法というものが存在しない世界にいた結人にとってこういう時、かなり便利なんだと改めて感じさせられた。
「ノエルに掴まれていたところが痛むか?」
結人が腰の辺りを摩っているのを見て申し訳なさそうにティスが心配してくる。
「大丈夫だよ。慣れない姿勢でいたからか、筋を少し違えたんだと思う」
「あの、私の魔法で回復させましょうか?」
結人は一瞬ドキッとする。月明かりと焚き木の炎に照らされながら、上目遣いでそんなことを言われ、ドキッとしない男がいるのだろうか。否、断じていないだろう。というよりそもそも、目の前にいる女性二人のレベルが高いのだ。それだけでも男としてはどぎまぎするものがあるというのに。
「いや、本当に大丈夫だよ。大したことじゃないから。それに魔法もいくらでも使えるってものでは無いんだろ?」
もしここが、あのゲームと同じ世界なら何か少しでもヒントを得られるかもしれない、という思いから質問してみることにした。純粋な興味からともいえる。
「はい。結人様の仰るとおり、魔力にも限界はあり、その器の大きさも人によって違います。結人様の場合だと器は大きいのですが、今はまだそれに伴う魔力操作が見合っていないという感じですね。ですがきっと結人様ならどんな魔法でも扱えるようになります」
炎と月明かりの下、きっとそうなる! という根拠の無い自信に満ち溢れて、リアの顔はきらきらと輝いていたのだった。
「ええいっ。奴らはまだ見つからんのか」
王城の地下の壁を壊された跡を忌々しげに見つめ、ご自慢のちょび髭を触りながら、クシロス卿は兵士が持ち帰った報告に舌打ちをする。奴らに逃げられたということが彼のお方に知られれば、自分の命が危ない。いや、あのお方のことだ。すでに知られていてもおかしくはない。とにかく、再び捕まえてしまえばまだ命くらいは助かる可能性も十分にあるはずだ。
「ええい!何が何でも奴らを探し出し、捕まえろ。反逆者どもを決して許すな」
あのお方の目的のためにこんなところでつまずくわけにはいかないからな。クシロス卿は、遠からずも近しい未来を想像し、ほくそ笑んだのだった。
~おもちろトーク~
リア「結人様が、お姫様抱されなくてほっとしました」
ティス「しかし、結人殿にそんな趣味があったとは」
結人「いや、趣味じゃないからっ!!」
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