88話 魔法を教えてくれよ!
フォンとメルダの朝食が終わり、俺達はテーブルで一息ついていた。
仲間達は雑談を交わし、俺は黙々とお茶を飲んでいる。
ふう、そろそろフォンの村へ出発するかな。
そう思った時、何かを忘れているような気がしてきた。
なんだ? 何を忘れている?……あっ!!
「そうだメルダ! 魔法を教えてくれよ!」
仲間達の視線が俺に集中する。
「そういえば魔法を教わりたいって言ってたわね。うーん、どうしようかしら?……」
メルダは顎に手をやると、目を瞑り考え込んでいる。
俺はそんなメルダを凝視しながら様子を伺う……
「なっ、良いだろ?……」
「うーん…………わかったわ。でも一つ約束してちょうだい。どんな結果になっても受け入れるって」
なんだ、よくわからないが受け入れれば良いのか?
「わかった、受け入れるから教えてくれ!」
「……まあいいわ。ついてきなさい!」
「トール様、ついに魔法を覚えるっす?」
「トール様なら、すっごい魔法もバンバン放つようになるんだわさ!」
俺はメルダに言われるがままに何も無い部屋に連れて行かれた。
後ろにはフォンとダルスも控えている……
「????????」
部屋に入るとメルダが何やら詠唱を始めた。
すると、部屋の中が光の膜のようなもので覆われる。
「大抵の魔法はこの部屋から貫通することは無いわ。思う存分やって良いわよ」
「そっか。ありがとうメルダ!」
「う、うん……じゃあ始めましょうか。あたしが唱える魔法を繰り返してちょうだい」
「わかった!」
メルダは手を胸の前に翳しながら短く詠唱を始める。
「行くわよ!……『?』」
ポンッ!
するとメルダの前に火の玉が一瞬現れて消えた。
だがメルダが何を詠唱したのか全く聞き取れない……
「はい。あんたもやってみなさい」
「……ん? メルダ、いま何て言ったんだ?」
「だから『?』よ」
「……すまん、何て言ったのか聞き取れないぞ!」
するとメルダは小さく溜息を吐くと、俺の肩をポンと叩く。
「やっぱりね……残念だけど、この基本も聞き取れないならあんたに魔法を扱う素質は無いわ」
「…………は?」
そ、そうだ、メルダは火の玉を出した。
あのくらいなら俺にだって出せるぞ!
俺は見様見真似で手を胸の前に翳し、火の玉を一瞬放つ。
ボンッ!
……ジュッ!
飛び出た炎が勢い余って床を焦がす。
「ほ、ほら! 出来たぞ!」
「あんた今ズルしたでしょ」
な、何故バレた?
同じような火の玉を出したはずだ……
「べ、別にズルなんてしてないぞ!」
「はぁ。あんた甘いわよ。魔女や魔導士には発生した事象が魔法由来か否かがある程度わかるのよ」
「そ、そうなのか……くっ、すまん」
「あとね、あんた詠唱せずに火を出したでしょ。基本的に魔法は詠唱無しでは発動しないわ。それなのに素人のあんたが無詠唱で魔法を扱えるわけないじゃない!」
うっ、そういえば詠唱を忘れていた……
こんな凡ミスをするとは俺としたことか!
「それに、ね…………」
メルダが床を指差しながら、わなわなと肩を震わせ俺を睨みつける。
「なっ、なんだよ?……」
「あんた、この床どうしてくれるのよ!? また傷付いちゃったじゃないの!!」
「ええっ!? さっきメルダが“思う存分やって良い”って言ったじゃないかよ!」
「それは“魔法”の話よ! いいから早くこの床直しなさーい!!」
「はっ、はいっ!!」
俺はメルダの剣幕に押され、あたふたとしながら速やかに焦げた板を蒸発させ、新たな板を加工し嵌め込んだ。
「ふぅ。これでいいだろ。……ん? でも魔法かそうじゃないかってどうやって見分けてるんだ?」
「そうね……例えばトールは料理の匂いを嗅いだ時に、その料理がどんなものかなんとなくわかるでしょ? その感覚に近いわ。因みにあんたの炎は魔法じゃないわよ!」
なるほど、嗅覚のように感じ分けるのか……
以前ハワードが俺の炎を見て魔法の質では無いとか言っていたのはこの事なのかもしれないな。
「魔法って『?』の組み合わせで威力や難易度が上がっていくの。詠唱が長いほど高い威力になるわ」
「つまり、詠唱が長いと難しい魔法を使ってるって事になるのか?」
「ええそうよ。他にも唱える速さや詠唱の省略とか色々あるけどね!」
「ふーん。……そういえばラビが店内の照明を点けるのに魔法を使っていたな。あの難易度はどのくらいなんだ?」
「そうね……『?』が聞き取れないあんたに説明するのは難しいけど、普通の“人”よりも少し魔法に慣れていれば使えるくらいかしらね?」
「そっか。ラビも意外とデキるやつなんだな……」
メルダが頷くと、俺達の様子を後ろで眺めていたフォンが顔を覗かせる。
「ねぇトール様、もしかして魔法が聞こえないんだわさ?」
「……ああ、悔しいが全くわからん!」
「へー、アレが聞こえないんだわさ?……」
「そうだわ! フォン、ダルス、あんた達は聞こえるの?」
「うーん、なんとなく聞こえるんだわさ!
「オイラも短いのならわかるっす!」
「そう、なら試してみる価値はありそうね。……いいわ、今度は二人に教えてあげる!」
「「わーい!!」」
フォンとダルスはハイタッチをして喜んだ。
ん? なんかおかしな方向に話が進み始めたぞ……
魔法を教わるのは俺のはずだが、なんでダルスとフォンが教わる事になってるんだ!?
「二人ともいい? まずは基本の『?』から。わかったら手を前に出して詠唱してみて!」
『『?』』
ポポンッ!
ダルスとフォンが顔を歪ませながら詠唱をすると、二人の前に一瞬小さな火の玉が出現した。
「あら、二人とも意外と筋がいいわね。今のが基本の魔法『?』よ」
ダルスとフォンは互いに顔を合わせると、目を見開き歓喜の表情を浮かべている。
俺には何を詠唱しているのかさっぱりわからない……
「うわあ! 初めてまともに魔法が撃てたんだわさ!」
「オイラも初めてっす!」
「じゃあ次は『??』ね、聞き取れたかしら?『??』よ!」
『『??』』
ボッ! ボッ!
すると再び二人の前に火の玉が現れた。
今度はやや大きく、消えるまで数秒掛かった。
「「うっ!?……」」
直後、二人の顔色が悪くなり膝を突いてしまう。
「お前らどうしたんだ!?」
「なんだか気持ち悪いんだわさ……」
「ううっ、何かが抜けていく感じがするっす……」
「それは魔法酔いね」
「「「魔法酔い!?……」」」
「筋肉痛みたいなものよ。初心者が必ず通る道なの。でも大丈夫、普段から練習していれば酔いにくくなってくるわ!」
二人は部屋の角に座り込み、俯いてしまった。
「おい、フォンとダルスは大丈夫なのか!?」
「ええ、平気よ。ちょっと休めば体調は良くなるわ。今日はもう魔法は使えないでしょうけど、二人は普段から魔法を使ってないから問題無いわ!」
俺は不安に思いながらフォンとダルスの様子を見守る。
「頭が痛いんだわさ……」
「うう、気持ち悪いっす……」
結局わかった事は、俺には魔法が使えないという事だった。
俺はなんとも言えない気持ちを抱きながら、フォンとダルスの回復を待つ……
※※※
あれから5分ほどが経ち、フォンとダルスがゆっくりと立ち上がる。
「二人とも大丈夫か?」
「うーん、なんとか歩けそうだわさ」
「オイラもマシになったっす」
二人の様子にメルダの顔が引き攣っている。
「ん? どうしたメルダ」
「ちょっと! あんた達、本当にもう大丈夫なの!? 普通の獣人は早くても1時間は動けないのよ! 遅ければ半日は動けないはずなのに、こんなに早く治るなんて……」
「んー! もう何ともないんだわさ!」
「オイラも平気っす! もう一度練習するっす! 『?』……うっ!?」
ダルスが調子に乗って詠唱をするが、火の玉は現れなかった。
そして再び気持ち悪そうに座り込んでしまう。
「ああ、なんとなくわかったわ。あんた達、魔法酔いから醒めるのは早いけど、体内に溜められる魔法の量は普通の獣人と大差無いわね。安心したわ、魔法まで無尽蔵に放たれたらあたしの立場がないもの……」
「つまり、今日は魔法を使えないんだわさ?」
「ええ、そういう事になるわね!」
「なんか悔しいんだわさ! 『?』……うっ!?」
フォンは不貞腐れながら詠唱をすると、再び魔法酔いによって座り込み蹲ってしまった。
メルダはやれやれと肩を竦めながらフォンとダルスの肩を叩く。
「さあ、魔法はこのくらいにして、酔いが醒めたら戻りましょう」
フォンとダルスは渋々頷くと、俺達は二人の回復を待ってテーブルへと戻るのだった。
※※※
「トール様、魔法は使えるようになったのか?」
「えーと、その……な」
テーブルに戻るとオルガが目を見開きながら成果を尋ねてきた。
俺は口籠もり目線を逸らす……
「魔王種ならば島を吹き飛ばす程度の魔法は朝飯前なのである!」
「おっ、おう……」
だがドラムは胸を張ってとんでもないことを言い出した。
俺は返す言葉が見つからず、ただただ口元を引き攣らせる……
「残念だけど、トールに魔法を扱う素質は無いわ!」
(ぐはぁっ!)
そこへメルダが容赦ない追撃を喰らわす。
俺は内心で吐血した。
するとオルガとドラムの表情がみるみる曇っていき、俺を憐れみの目で見つめ出した。
おいやめろ! その顔は傷つくぞ……
「うぅ、まさかトール様が魔法を使えない運命にあったとは……」
「我輩、初めてトール様に同情したのである……」
「そ、そういうお前らは魔法を使えるのかよ!?」
「ああ。簡単なものを少しならな」
「うむ。齧った程度であるが……」
二人は徐に立ち上がると手を前に翳す。
『『??』』
ブワッ!
パチンッ!
一瞬だが突風と閃光が現れた。
くっ、こいつらも魔法が使えるのかよ……
「あら意外ね。二人はフォンとダルスよりも魔法に慣れてるのね!」
「ああ。一人で旅をしていた時に最低限の魔法は覚えたんだ」
「うーむ。我輩も何故かこの程度なら使えるのである……」
メルダは二人の言葉に感心しながら頷いた。
ちょっと待て! という事は、ここで魔法を使えないのは俺だけって事か!?
「な、なあメルダ。俺は本当に魔法が使えないのか!? 何かの間違いってことは……」
「諦めなさい! あんたに魔法は使えないわよ!!」
メルダに断言されてしまった……
「あーもう! 魔法なんて大っ嫌いだー!」
俺は不貞腐れながらテーブルに突っ伏す。
だが、誰かの手がそっと俺の肩を叩く。
顔を上げるとメルダが微笑んでいる。
「安心しなさい。あんたに魔法は使えないけど、あんたはもっと凄いものを持ってるじゃない!」
「……もっと凄いもの?」
「トール様には暖かい炎があるっす!」
「何度もアタシ達を助けてくれたんだわさ!」
「魔法には代えられないのである!」
「オレ達には無いものだ!」
そっか……そうだよな。
魔法が使えなくたって、どうとでもしてやる!
「お前ら、ありがとな! おかげで気持ちの整理がついたよ」
仲間達が笑顔で頷く。
「うむ! 無理にでも励ました甲斐があったのである!」
「お、おい、それは言っちゃ不味いっす!」
オルガがヤレヤレと顔に手をやっている……
ん? まさか、こいつら思念通話で俺を慰めるように組んでたのか!?
くっ、内心では俺の事を可哀想だとか思ってたんだな!?……
「だーっ! くそう! こうなったら島の一つや二つ燃やし尽くしてやるっ!!」
「あははは……トール様なら本当にやっちゃいそうなんだわさ……」
「ちょっとトール! 馬鹿なこと言うんじゃないの!」
「ははっ……冗談だよ、冗談! よーし! 気を取り直して出発するぞ!」
「あんたが言うと冗談に聞こえないのよ!」
メルダは顔を膨らませながら俺を小突く。
俺はそんなメルダの頭をポンポンと叩くと、メルダはそっぽを向いてしまった。
結局、俺は魔法が使えないようだが、気にしていても仕方ない。
俺達はメルダと別れると、フォンの村へ向けて出発するのだった。
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次回は8月中旬に更新予定です。
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