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85話 メルダの新居

 

 早速出発しようと俺達が宿屋を出ると、背後から兵士が追いかけて来た。


「メルダ殿!!」


 どうやら兵士はメルダに用があるらしい。

 藍色の装飾が施された服を着ているという事はサッティンバーグの兵士か。

 俺達は状況を察し固唾を飲んでメルダと兵士を見守る。

 やがてメルダと兵士が会話を終えると、寂しそうに俺達へ振り返った。


「みんな、ごめんね。家の手配が出来たみたい。もう帰らないと……」


 各々が引き止めたい気持ちを堪えて頷く。

 今回はメルダの意思を尊重し、誰も引き止める事はしなかった。


「わかった。じゃあ、お前の新居まで送るよ。荷物も渡さなきゃいけないからな!」

「そう言えばあんたに全部預けっぱなしだったわね。ありがとう、それなら家の前までお願いするわ!」


 ※※※


 兵士に連れられてやってきたのは、サッティンバーグの高台にある建物だった。


「こちらになります!」


 案内された建物は、以前のメルダの家よりも3倍は大きい。


「あら、こんなに大きな家を貰って良いのかしら?」

「ええ、メルダ殿の功績と、今後の研究への期待を踏まえた選定だとフェスタ様が仰っておりました」


「そう。益々気が抜けなくなったわね。これからも頑張らなくっちゃ! ここまで案内してくれてありがとう!」

「はっ! では私はここで失礼します!」


 兵士は俺達に挨拶を済ますと足早に去っていった。


「さあ、入ってちょうだい。まだあたしの家っていう実感は無いけどね!」


 メルダの後に続き、俺達も建物の中へと入っていく。

 室内は薄らと木の匂いが感じられ、新築だということが窺えた。

 まだ何も無いガランとした部屋を各々が見回す。


「うわあ。みんな! これを見るんだわさ!」


 フォンが目を輝かせて窓に指を差す。

 俺達は揃って指の先に視線を向けた。


「おおっ……綺麗っす!」

「波が光っているのである……」

「木々も絶景だな……」

「ほう。これは良い眺めだ!」


 窓から見える景色は、眼下には林が広がり、その先には陽の光を反射し輝く海が一望できた。

 メルダが窓を開けると、心地良い風が室内を駆け抜ける。


「んー! 気に入ったわ。こんな良い家を用意してくださったフェスタ様に感謝しなくっちゃ! さて。じゃあトール、荷物を出してくれるかしら?」

「おう、今探すから待っててくれ!」


 俺は全身炎(イフリート)化すると、腹に手を突っ込んだ。


「んー、どれだ?」


 口の中を舌で探るように、腹の中を掻き混ぜていく……


「おっ、これだな!」


 そして結界に包まれた塊を掴み上げ、一気に腹から引き抜いた。


 ポーン! と勢いよく飛び出たメルダの荷物が部屋の中央に着地する。


「ちょっとトール! 乱暴に扱うんじゃないわよ! 床が傷ついたらどうすんの!?」

「わ、悪い悪い……」


 確かに新築の新居を傷つけられたら怒るよな……

 ここは素直に謝っておいた。


「まったく……結界を張ってなかったら床が抉れてるわよ! ????」


 メルダは頬を膨らませながら、魔法を詠唱し結界を解いた。

 するとドサドサと結界に包まれていた荷物が崩れる。


 ゴリュッ!!


「……あっ」


 そして崩れた荷物が勢い余って床を抉り、離れた位置からも視認出来るほど大きな窪みが生まれてしまった。


「こ、こういう事もあるさ。さあ片付けようぜ……ふぐっ!?」

「……」


 メルダの顔を覗き込むと、生気を感じられぬ程の絶望感を漂わせていた。

 俺は背筋が凍り、思わず変な声が漏れ出る。

 メルダ、その顔は怖すぎるぞ……


 だが、引っ越し初日に傷が付くのは、さすがに凹むよな……

 何とかしてやりたいと思い床を眺めると、どうやら板を何枚か繋げて組み込んだ作りのようだ。

 傷が付いたのは、そのうちの2、3枚といったところか……


 俺はそっと目を瞑り『空間収納』内の様子を眺める。

 すると、以前飲み込んだ丸太が何本か漂っていた。

 こいつなら使えそうだな……


「わかった。今直してやるよ……」

「……ふぇっ? 直して……」


 メルダが間抜けな返答している間に、俺は床の破損した箇所を炎で包み込んだ。

 そして木々の隙間に炎を侵入させると、組まれた木の形状を読み取る。

 なるほど、こんな感じか……


 更に『空間収納』に有る丸太を炎で包み込み、床の木と同じ形状になる様に焼き切った。

 最後に傷の付いた木へ敵意を込めて5000度で一気に蒸発させ、代わりに加工した木片を嵌め込むと、床の修復が完了し人型に戻った。


「……直してくれるの?」

「ああ。もう終わったぞ!」


 この間、約3秒。

 焼き切った断面を焦がす事なく加工できたのは、我ながら上手く仕上げられた思う。


「あっ、あれ? 傷が無くなってるわ!」


 メルダが床を撫でて状態を確認している。


「どうだ? こんな感じで良いか?」

「……トール!! ありがとう!! 大好き!!」


 そして肩を震わせたメルダが、突然俺に飛びついて来た。


「おっ、おう……喜んでもらえて良かったよ」

「ありがとうトール! 危うく最悪な一日になるところだったわ!」


 大好き……か。

 メルダはまるで子供のように喜んでいた。

 外見が子供の状態という事もあって、はしゃいでいる姿は可愛げがあるな……


「えっ? あっ、この大好きは、ありがとうっていう意味の大好きで、変な意味の大好きじゃないのよ! か、勘違いしないでよね!!」


 メルダは俺から一歩飛び退くと、顔を真っ赤に染めて小声で呟いている。

 ははーん、さてはメルダの奴、子供っぽい言動だと気付いて恥ずかしがってるな……


「わかってるよメルダ! 俺もお前が大好きだからな!」


 俺はメルダの頭をポンポンと叩いてやる。

 するとメルダは拳を握り大人しくなってしまった……


「メルダ? どうした?……」

「や、やめなさいよ。こんな所で……恥ずかしいじゃない!」


 おっと、少し揶揄い過ぎたか。


「わ、悪いな。お前の“大好き”は、ありがたく受け取っておくよ!」

「えっ!? ……ありがとう」


 メルダは再び顔を赤く染めると、俺の右手をギュッと握ってきた。

 俺はその意味がわからず、暫しの間メルダに右手を委ねていた。


 ふと辺りを見回すと、ドラムは腕を組みながら頷き、オルガは目を細め、フォンとダルスはニヤニヤしながら俺達を眺めている。


「おい、お前らどうしたんだよ、そんな顔して……」

「トール様は何もわかってないんだわさー」

「オイラ達は応援してるっす!」

「うーむ、道のりは険しいのである……」


 なんだこいつら……一体何を企んでるんだ?


「おい、お前ら何を隠してるんだ?」

「隠してるんじゃないんだわさ!」

「トール様が見つけられてないだけっす!」


 なんだよ、何を見つけられてないって言うんだよ……


「あーもう、わかんねぇ! なぁメルダ、お前は何かわかったか?」

「し、知らないわよ! それより片付けないと日が暮れちゃうわ!!」


 メルダが恥ずかしそうに荷物を片付け始めた。

 俺もメルダに続き床に散らばった物を片付ける。


「おい、お前らも手伝えよな!」

「「「「はーい!」」」」


 いつもよりも威勢の良い返事が返ってきた。

 どうも腑に落ちないが、一先ず片付けに専念する事にした……


ここまでお読みくださりありがとうございます。

今回から新章となります。

引き続きお付き合い頂けますと幸いです。


執筆中に218件目のブックマークを頂きました!

ありがとうございます!

次回の更新は14日の予定です。


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― 新着の感想 ―
[良い点] おおっ、メルダがヒロインブームをぶちかましてる! もう、公認カップルじゃないですか! でも今回一番気になったのは、メルダの新居ですね。 有吉ゼミなら、億円単位で紹介される物件っぽいです…
[一言] 遂にトールにも春が( ˘ω˘ ) ずっと待ってた( ˘ω˘ )
[一言] 木の香りなど描写が丁寧で良かったです ^ー^/ 蒸発させるっていうのも良いアイデアですね☆彡
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