83話 ラビの企み
「さっ、遠慮なく入っとくれ!」
店へ着くとラビが扉を開けて中に入る。
「????」
そして詠唱を行うと、室内に明かりが灯る。
魔法か……メルダ以外にも魔法を使える奴が居るんだな。
……いや待てよ? ラビに魔法が使えるなら、もしかして俺にも使えるんじゃないのか?
気になった俺は、メルダへ小声で聞く事にした。
「なぁメルダ、魔法って誰でも使えるのか?」
「誰でもって訳じゃないけど、素質があれば使えるわよ」
「なら、俺にも使える可能性があるって事だよな?」
「ええ、そうよ。トール、あんた魔法に興味があるの?」
「ああ! メルダ、俺に魔法を教えてくれ!」
「良いわよ。そのうちね」
おっと、これは思わぬ収穫だ!
俺の炎と組み合わせれば、料理の幅がもっと広がるかもしれない。
楽しみになってきたぞ!!
「おお!! ありがとう!! メルダ!! お前が仲間で良かったよ!!」
「ちょっと! 声が大きいわよ。みんな見てるじゃない……」
ふと我に帰ると、全員の視線が俺達に突き刺さる。
「トール様、何かあったんだわさ?」
「オイラにも教えてほしいっす」
「まさかメルダとトール様が……」
「うーむ、春なのである……」
「しっしっし! 二人とも、なーに良いこと話してたのさ?」
「べ、別に何でもないわよ! ちょっと魔法の話をしてただけ!」
メルダは顔を赤くしながら両手を振った。
そんな慌てるような事じゃないだろ……
「今度メルダに魔法を教えてもらう事になったんだ! 俺はてっきり魔女や魔導士にしか魔法は使えないと思っていたが、ラビが使えるなら俺にも使えると思ってな!」
するとラビが指を俺の鼻先に突き付けながら睨む。
「トール、そりゃまるでアタイが魔法を使えるなら誰でも使えるみたいな言い方じゃないかい。あーヤダヤダ、魔王サマになった途端にアタイを見下すようになっちまったのかねぇ?」
「うっ!? ……い、いや。そういうつもりで言ったわけじゃないんだ。悪いなラビ、気を悪くさせちまった。謝るよ……」
「ふっ。良いんだよ、少し揶揄っただけさ。でも、アンタのそういう所は足元を掬われる原因になるよ。気をつけな!」
「ああ、ありがとう。肝に銘じておくよ……」
ラビの言う通りだ。
口は災いの元と言われている。
もう少し気を引き締める必要があるな。
「さて、じゃあアタイは下拵えに取り掛かろうかね」
そう言うとラビは厨房へと入っていき、ガサゴソと冷蔵庫の様な箱から食材を取り出した。
そして何やら小声で呟き始める。
「はぁ。コイツは下準備が大変なんだよねぇ。今日はコレはやめておこうかね……」
どうやら時間の掛からない食材を探しているらしい。
「ラビ、俺も何か手伝おうか?」
「うーん、そうだねえ。今日はトールに手伝わせるのは気が引けるんだけど、アンタが居ればもう少しまともなモノが作れるかも知れないねぇ……」
「なら決まりだな! ラビ、今回はお前の手伝いに徹するよ。だから良いだろ?」
「わかったよ。じゃあトール、少し面倒だけどコイツの下拵えを手伝っとくれ!」
ラビの指差す先には大量の野菜が入った籠が用意されていた。
隣を見ると、ラビがナイフで一つずつ不要な部分を切り落としている。
これは結構時間の掛かりそうな作業だな……
「よし! ラビ、下拵えは全部俺に任せろ! 直ぐに終わらせてやるから!」
「えっ? 全部やるのかい?……」
俺は全身炎化すると、野菜の山を全て炎に包み込んだ。
そして炎へ視点を移すと野菜の形状を把握する。
やはり炎を通して覗くと、細かなものがよく見える。
野菜達の表面を炎で撫でながら、芋は表面を削ぐように焼き切り、ネギは中へ侵入させながら炎の渦で表面を剥く。
こうして数秒後、野菜の下拵えを終えると人型に戻った。
「わっ! ト、トール……アンタのその姿、何度見てもおっかないねえ……」
「悪い悪い、驚かせちまったな。だが下拵えは終わったぞ!」
「えっ、もう終わったのかい……」
「おう。これで少しは早く出来上がるだろ? あいつら今日は特に腹空かせてるからさ、早く食わせてやりたいんだ!」
「ああ、そうだね! アタイも腕が鳴るってモンだよ!」
ラビはいつに無く張り切っている。
後の調理はラビに任せた方が良さそうだ。
俺はテーブルへ食器を並べながら、ラビの料理が出来上がるのを待つ事にした。
※※※
「待たせたね! ほーら出来たよ!」
テーブルに運ばれてきたのは、カレーのような煮込み料理だった。
地球ではあまり嗅いだ事の無い甘辛い匂いが食欲を掻き立てる。
「うわぁ! 美味しそうだわさ!」
「早く食いたいっす!」
フォンとダルスが今にも飛び付きそうに料理を凝視する。
「まったく、二人共ちょっと落ち着きなさいよ! ぐぅ〜……」
メルダが二人を窘めるが、直後にメルダの腹が鳴った。
するとフォンがメルダにジト目を向ける。
「メルダも人の事を言えないんだわさ!」
「しょ、しょうがないじゃない! あたしだってお腹は空いてるもの……」
今度はドラムが料理の匂いを嗅いでいる。
「う〜ん、ラビの料理も美味そうなのである!」
「アタイだって美味い料理は作れるさ! トール、料理に関しちゃアタイもアンタには負ける気しないよ!」
ラビが得意気に鼻を鳴らす。
いいだろう、ラビのお手並みを拝見といこうか。
「おう、望むところだ! よし、みんな準備は出来たな! 食うぞ!」
「「「「「いっただっきまーす!」」」」」
俺達は一斉に料理を口に運ぶ……
「「「「「ん!!」」」」」
美味い……
俺は異世界の料理を侮っていた!
初めて食べる味に、俺の舌が急速に情報を集めようと奔走している!
この優しい辛さは何だ!?
そして背後に広がる甘味は一体?……
「ラビ! 美味いぞこれ! どうやって作ったんだ!?」
「しっしっし。アンタに料理を褒められると特に嬉しいねぇ。でも、作り方はヒミツさ。アンタに真似されたらアタイの立場が無くなっちまうからね!」
くっ、やはりそう簡単には教えてくれないか……
仕方ない、今回はラビに華を持たせてやろう。
「わかった。今回は諦めるよ。だが、いつかこの味は盗んでやるぞ!」
「へへっ! 望むところさ。またいつでも食べに来なよ!」
俺は静かにラビへの対抗心を燃やすと、悔しさを抱きながら料理を堪能していった……
※※※
やがて全員が料理を食べ終えると、徐にフォンが立ち上がる。
片手にはいつの間にか酒が握られ、目が据わっている。
これは嫌な予感がするぞ……
フォンは覚束無い足取りで、ゆっくりとオルガの元へ歩き出す。
「ねぇオルガ。結局アンタ、ニャイとはどうなったんだわさ?」
「うっ!? いや、それは、その……」
ダルスとメルダは状況を察して苦笑し、ラビは悪そうな笑みを浮かべている。
「しっしっし。オルガの代わりにアタイが説明してあげるよ。二人は見ての通り恋仲になったのさ! 見ているこっちが胸焼けしそうなくらいにアツアツのね!」
「お、おいラビ! その話はもういいだろ……」
ラビは意地悪そうにオルガへ嗤う。
「何言ってんのさ、ちゃんと“魔王様”へ報告しないといけないじゃないか! みんな、よーく聞きなよ! オルガはあの時ねぇ……」
「やっ、やめろぉぉぉぉ……」
……そしてラビはオルガがニャイへ告白する様子を事細かに話し始める。
途中でオルガはラビの話を遮ろうと試みるが、ラビは見事な身のこなしで躱し、結局俺達はオルガの告白の全貌を聞くことになった。
「うっ……」
ラビが話を終える頃には、オルガは真っ赤な顔を両手で静かに抑えていた。
やはり精神的ダメージを負ってしまったらしい……
そんなオルガを余所に、フォンはオルガの背を盛大に叩く。
「くぅーっ! アンタやるんだわさ!!」
「うっ!? ……グフォッ!」
すると辺りに突風が吹き、オルガは血眼で咳き込んだ。
「あははははー! やっぱりオルガは、どこかのだれかと違って漢気あるんだわさ!」
「うっ! うっ! うっ!」
フォンは笑顔でオルガの背を何度も叩くと、今度はダルスにジト目を向ける。
「な、なんでオイラを見るんだよ……」
「な〜んでもないんだわさー!」
ダルスは苦笑で返すがフォンはどこ吹く風と聞き流し、今度はドラムの元へ歩を進める……
「で、ドラムはどうなんだわさ?」
「“どう”とはどういう意味であるか?……」
ドラムは額に僅かに汗を滲ませながら、フォンに視線を向け顔を引き攣らせる。
「そんなの決まってるんだわさ! ラビとは本当はどうなったんだわさ?」
「それは……さっき言ったように、良き……」
ドラムのセリフを遮るように、ラビがドラムとフォンの前に酒を置いた。
「ほら、二人ともコレ飲みなよ! あとドラム、アタイは正直な男がカッコイイと思うんだよねぇ……」
「正直な男……であるか」
するとドラムは小さく呟き、目の前の酒を一気に飲み干した。
「我輩は……我輩は……」
ドラムは勢いよく立ち上がると、ラビに熱い視線を向けた。
俺達は固唾を飲んでドラムの様子を静観する。
フォンは置かれた酒を一気に煽ると、目を輝かせてドラムを注視している。
「我輩は……ラビの事が好きなのであるっ!!」
「「「「おおっ!」」」」
ッパーン!!
俺達が歓声をあげたのも束の間。
ドラムは両手を挙げて叫ぶと、勢い余って椅子から転がり落ちた。
「「「「「ドラム!?」」」」」
俺は慌ててドラムの元へ駆け寄るが、ドラムは呼びかけに応えない……
「ドラム! おい、しっかりしろ! おい……」
「…………くかー、くかー、くかー……」
暫くするとドラムは寝息を上げ始めた。
「おい、ドラムが寝ちまったぞ……」
困惑する俺の前にラビの顔がニュッと現れる。
「あちゃー、やっぱり寝ちゃったかい。すこーし強いお酒だったから仕方ないねぇ……」
ラビは満面の笑みで俺に告げた。
まさか、ラビはこうなる事を知っていて酒を出したのか?……
「うぅ、アタシもなんだか眠くなって来たんだわさ……」
今度はフォンが千鳥足になりながら、自分の席へ戻ろうと歩き出すが……
ッパーン!
フォンも席に着く前に倒れてしまった。
ダルスは困惑しながらフォンの元へ駆け寄り、俺はラビを睨む。
「ラビ、お前こうなる事を知ってて二人に酒を出したな……」
「しっしっし。どうだかねぇ? でも面白いものは見れただろう? 今日はアンタ達しか居ないんだ。酔いが覚めるまでいくらでも居るといいさ!」
ラビはそう言うとカウンターを出てドラムの元へ駆け寄る。
むう……俺はラビの笑みに返す言葉が出なかった。
渋々倒れた二人を見遣ると、ダルスはフォンを介抱し、ラビはドラムを介抱している。
オルガとメルダは倒れた二人の様子を半ば呆れながら眺めていた。
こいつらを見ていると、なんだかラビを怒る気も失せてくる。
俺は大きく溜息を吐くと、倒れた二人の様子を見守るのだった。
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