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81話 大丈夫だ

 

 メルダに案内された場所へ降りると、そこには小さな建物があった。


「ここがニャイの家よ。あたしも来るのは初めてだけどね」


 メルダはそう言いながら扉を叩き始める。


「あたしよ、メルダよ!」


 暫くすると、ゆっくりと扉が開かれる……


「ニャイ、悪いんだけどオルガの居場所を知ら……っ!?」

「おや、メルダ殿でしたか!」


 中から現れたのは、ニャイ……ではなく、獣人の兵士だった。

 予想外の展開に俺達は困惑し、メルダは兵士へ指を差す。


「ちょっと! 何でニャイの家に兵士が居るのよ! 事情を説明してちょうだい!!」

「ええ、実はですね……」


 兵士はメルダの勢いに若干引きながら、尻尾をピンと伸ばすと淡々と説明を始めた。


「……という状況なのです」


 兵士の話では、ニャイが何者かに襲われたところをオルガが庇い怪我を負ったようだ。

 だが、命に別状は無いと聞き、俺達は一先ず胸を撫で下ろす。

 この兵士は不審者の発見と俺達へ連絡の為に派遣されたそうだ。


「……で、ニャイも今は城内に匿われているのね?」

「はい。わたしはこの場を離れられませんが、シェリー様からは皆さんを城内へお通しするよう通達が出ています。先ずは王城へお越しください」


「わかったわ。……トール! そういう事だからシェリー様の元へ行くわよ!」

「あ、ああ。わかった、直ぐに行こう!」


 メルダは跳ねるように杖へ跨ると空へ浮上する。

 俺も後を追うように飛翔すると、王城へ向けて出発した。


 ※ ※ ※


 スカイラインの王城内。

 医務室ではオルガのベッドの隣でドラムが寝かされていた。


「ドラム……アンタ一体どうしたんだい?」


 意識無くベッドに横たわるドラムを、ラビが心配そうに覗き込んでいる。


「ドラムは疲労によって倒れたのじゃ。こやつは思念通話を獲得しておるからのぅ。出力の加減を失敗したのかもしれぬな」

「そう……ですか。じゃあドラムは助かるんですか!?」


 ラビは思念通話の概念を理解していないようだ。

 だが、シェリーが頷く事でラビの不安は解消される。


「まったく……心配かけさせんじゃないよ。アンタまで変な事件に巻き込まれたらアタイは辛いんだからね……」


 ラビは小声で呟くと、ベッドの下で密かにドラムの手を握る。


「しっかし、オルガの奴は一体どこで油を売っておるのじゃ!」


 シェリーは焦りと苛立ちを露にしながら窓へと視線を向けていた。

 その様子をニャイが申し訳無さそうに窺っている。


「オルガさん、一体どうしちゃったんだニ。一人で出て行ってしまうなんて……」


 ニャイが小さく呟いた直後、衛兵の声が室内に響く。


「シェリー様。トール殿がお見えになりました!」

「うむ。入るのじゃ!」


 シェリーの返答の直後、医務室の扉がゆっくりと開かれる……


 ※ ※ ※


 俺は城門の前で着地し人型に戻ると、衛兵へ声を掛けようと近付く。

 すると、衛兵は俺達の顔を一瞥する。


「トール殿、お待ちしていました。どうぞ城内へ!」


 衛兵に促され城内へ入ると、医務室の前まで案内される。


「シェリー様。トール殿がお見えになりました!」

「うむ。入るのじゃ!」


 室内からシェリーの返答があり、衛兵が医務室の扉を開ける。


「オルガ! 無事か!?」

「ニャイ! 大丈夫!?」


 俺達は足速に入室すると、シェリー、ラビ、ニャイが深刻な表情で椅子に座っていた。

 室内にはテーブルと思しき破片が散乱し、異常事態だということが窺える。

 メルダはニャイの姿を見て飛び付いた。


「ニャイ! ここに居たのね。怪我は無い?」

「メルダさん!? ウ、ウチは……大丈夫だけど……」


 ニャイはメルダの言葉に頷くが、申し訳なさそうにベッドへ視線を移す。

 俺はベッドを覗き込むと、そこにはオルガ……ではなくドラムが寝かされていた。


「な、何でドラムが寝かされてるんだ!?……」

「ふぅ。せっかちな奴等じゃのぅ」


 背後から俺の肩に手が置かれる。

 振り返るとシェリーが呆れた顔で溜息を吐いた。


「こ、これは一体どうなってるんだ! オルガが倒れたと聞いてきたんだぞ! 何でドラムが倒れてるんだ!?」

「まあ落ち着け、ドラムは心配無い。ただの過労じゃ。放っておけば回復するじゃろぅ」


「そうか、ドラムは無事なんだな……良かった」

「うむ。……トールよ、お主はドラムに呼ばれて(・・・・)来たのじゃろぅ?」


「ああそうだ。俺達はドラムの声を聞いて駆け付けた。だが、聞こえたのは“大変だ”という言葉だけだ。詳しい事を聞き返しても返事が無かった。一体どうなってるんだ?」

「まったく、ドラムは大した奴じゃのぅ。やはり異世界まで思念通話を飛ばしおったか……屈強な兵士でも国を跨ぐ程の通話が限度だというのにのぅ。ドラムと言い、オルガと言い、やはり転生者を介した儀式成功者は化け物じゃな」


「……そういえば、オルガの姿が見えないぞ! どこに居るんだ?」

「オルガは行方不明じゃ」


「「「「えっ!?」」」」


 ドラムの容体に安堵したのも束の間、シェリーが呟いた言葉に俺達四人は固まった。


「案ずるな、オルガは兵に探させておる! そのうち見つかるじゃろぅ……」


 シェリーは気丈に言葉を返すが、僅かに語尾を濁した。

 オルガが無事に戻ってくるという確証がないのだろうと感じ、俺の頭に最悪の展開が過ぎる……


「まさか、このまま見つからないなんて事は無いよな?……」

「……アタシ、オルガを探してくるんだわさ!」

「オイラも行くっす!!」


 フォンは跳ねるように医務室から飛び出すと、ダルスもフォンの後を追う。


「うぎゃっ!!」


 だが、扉の向こうからフォンの間抜けな声が響いた。


「オルガ! お前どこに行ってたっす!?」


 ダルスの声も扉の外から聞こえてくる。

 直後、扉が開かれると、フォンとダルスを連れてオルガが入室した。


「「「「オルガ!?」」」」


「オルガさん!? もう! 何処に行ってたんだニ! みんな……みんな心配してたんだニ!!」

「少し外の空気を吸いに行っていた。すまない、大事になってしまったようだな……」


 ニャイはオルガに飛び付くと、泣きながら何度もオルガの胸を叩いた。

 するとオルガは申し訳なさそうに、そっとニャイを抱きしめる。


 《なあ、この二人、上手くいってるみたいだな!》

 《あはっ。これでオルガが元気になってくれれば良いんだわさ!》

 《やっとオルガが素直になった感じがするっす!》


 俺はオルガの無事に安堵すると密かにフォンとダルスへ思念通話を交わし、暫しの間二人の様子を暖かく見守っていた……


「……おっほん! オルガよ、貴様が無断で外出した事で場を混乱させ、多くの者に迷惑を掛けた。仕出かした事の重大さをわかっておるのか!?」


 シェリーは咳払いをすると、二人の間を割って入りオルガを問い正す。


「……外で頭を冷やしたかったんだ。だが、ここまで騒ぎになるとは思わなかった。シェリー様、本当に申し訳ない!」


 オルガはシェリーへ深く頭を下げた。

 するとシェリーは鋭い眼差しでオルガを睨む。


「ふん。まあ良い。貴様が本当に無事ならばな」

「オレは……いや、大丈夫だ。もう、大丈夫なんだ」


 オルガは口籠もりながら、自らに言い聞かせるようにシェリーの問いへ応えた。


「オルガ! お前、怪我は大丈夫なのか!?」

「トール様……ああ。もう何とも無い。余計な心配を掛けてしまってすまない……」


「……そうか、お前が無事なら良いんだ。だけどな、オルガ。お前最近様子が変だぞ? 悩みがあるなら話してみろよ。一人で抱え込んだって良い方向には進まないぞ!」


「そうだな……確かにオレには悩みがある。大切なものを護る力すら無い弱い奴だと思っていたんだ。だが今回のニャイの件で感じた。力が無ければ身に付ければ良いと……もう吹っ切れた。心配掛けてすまなかった」

「オルガ、お前は十分に力がある。周りを見てみろ! みんなお前を心配してここに居るんだ。困った時は俺達を頼れ! 力が足りなければ俺達を使え! それが仲間ってもんだろ? もっと自分に自信を持てよな!」


 オルガは辺りを見回すと、再び深々と頭を下げる。


「みんな……そうだな。本当にすまなかった……」


「もう謝らなくて良いんだわさ! オルガを邪魔する奴は、みーんなアタシ達がブッ飛ばしてやるんだわさ!」

「フォン、ありがとう。本当に困った時は、頼らせてもらうぞ」


「オルガは悪い方向に考えすぎっす! 何でもオイラ達に話せば良いっす!」

「考えすぎ……か。そうだな、オレもダルスを見習わなければな」


 オルガはフォンやダルスの声に頷いて返す。

 こうしてオルガは平静を取り戻したかに見えた。


 だが、俺は気付かなければならなかった。

 オルガへしてやるのは“お前は強い”と言葉を掛ける事ではなく“強さを実感させる”事だったのだと。

 何故それに気づけなかったのか?

 今はそれを後悔する由もない……


今回もお読みくださりありがとうございます。

ブックマークや評価を頂けると嬉しいです。


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ありがとうございます!

次回の更新は29日の予定です。


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― 新着の感想 ―
[良い点] うーん……、全然大丈夫じゃないですね。 オルガに仕掛けられた『爆弾』的なものが、いつ爆発するのか。 とりあえず、ラビがドラムにラブラブなのが見れてよかったです(笑)。
[一言] >オルガへしてやるのは“お前は強い”と言葉を掛ける事ではなく“強さを実感させる”事だったのだと。 上司の悩みですね( ˘ω˘ )
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