80話 叫び
俺達は部屋に戻ると、テーブルに着いてぐったりとしていた……
「あー、もう疲れたよー。散々な目に遭ったわ!」
「一時はどうなるかと思ったが、七海が無事で良かったよ」
七海が両手を伸ばして突っ伏している。
「こっちの世界の人間は、小難しい事ばかり考えていて大変ね……」
「そうだな。向こうの世界とは違う生き辛さがあるな……」
メルダは腕を組んでヤレヤレといった表情だ。
「アタシ、あんなに大勢の人に囲まれたのは初めてだわさ!」
「オイラは久しぶりに注目されて気持ち良かったっす!」
「そうか。お前らは楽しめたようで良かったよ」
フォンは疲れを露わにするも笑顔を浮かべた。
みんな肉体的な疲れよりも精神的な疲れの方が大きいようだ。
しかし、ダルスは一人だけ疲労もなくピンピンしている。
コイツは気楽だな。
「なんか落ち着いたら腹減ってきたっす!」
「アンタ、いつもお腹すいてるんだわさ!」
ダルスが腹を摩ると、フォンが呆れたようにジト目を向ける。
「ぐぅぅぅぅ……」
だが、フォンの腹も鳴った。
「お前だって腹減ってんだろ! オイラの事言えねえじゃねえか!」
「うっ! こ、これはお腹が空いた音じゃないんだわさ!」
「じゃあ何の音だって言うんだよ?」
「そ、それは……」
フォンは言い訳を並べようと捥がくが、言葉に詰まりテーブルに伏してしまった。
ダルスはニヤニヤとフォンの肩を叩く。
「へへっ! 今回はオイラの勝ちだな!」
「……帰ったらブッ飛ばしてやるんだわさ」
するとフォンは悔しそうにキッとダルスを睨みながら呟き、ダルスは顔を引き攣らせた。
こっちに来てから大人しいと思っていたが、どうやらフォンが抑えていただけのようだ。
こりゃあ異世界へ帰ったら先が思いやられるぞ。
俺は内心で溜息を吐いた。
……さて、腹が減った奴を放ってはおけないな。
「わかったわかった。少し早いが夕飯にするぞ!」
フォンとダルスは跳ねるように頷くと、七海とメルダも姿勢を正した。
「よし、じゃあ準備を始めよう!」
材料を用意しようと席を立った瞬間、何かが頭の中へ飛び込んできた。
《《たっ、大変なのである!!!!》》
「「「ん!?」」」
「ちょっと! 三人とも固まって、どうしたの?」
「フォン、ダルス、お前らも聞こえたか?」
「アタシも聞こえたんだわさ!」
「オイラも聞こえたっす!」
間違いない、今のはドラムの叫び声だ!
異世界で何かあったのか?……
「お兄ちゃん、何が聞こえたの?」
「向こうの世界に居る仲間の叫び声が聞こえた! 俺達に助けを求めて来たんだ。七海、すまないが今すぐ帰る。お前ら行くぞ!」
「わかったんだわさ!」
「了解っす!」
「メルダも良いな?」
「ちょっと! そんな急に帰るの?」
「ああ、あの声は尋常じゃなかった……ドラムに何かあったのかもしれない! 心配だ。すぐ出発しよう!」
「……わかったわ。行きましょう」
メルダは俺の表情を察したようで静かに頷いた。
すぐさま仲間達が異世界の服装へ着替える。
俺は全身炎化すると『空間収納』に飲み込んでいた部屋の物をソファーの上へ吐き出す。
段ボールや本、衣類などが次々に腹から乱雑に飛び出し、ソファーの上に高々と積み上がった。
「お兄ちゃん、この荷物の山はどうするの?」
「すまん、七海。悪いが片付けておいてくれ!」
「ええっ! これ全部あたしが片付けるの!?」
「緊急事態なんだ。頼むよ……な?」
「うーん、しょうがないなぁ……その代わり、今度ぜったいに向こうの世界へ連れてってよね!」
「ああ、約束する。だから、頼んだぞ!」
「……わかったよ。じゃ、気をつけて帰ってね!」
「ありがとう。お前は俺の自慢の妹だ!」
俺は内心で胸を撫で下ろすと七海の肩を叩く。
そして仲間達を荷物と共に炎に包み込んでいく……
「七海ちゃん。また会いましょうね!」
「今度はアタシ達の世界へ来るんだわさ!」
「その時はオイラ達が色々と案内するっす!」
「みんな、ありがとう。次はゆっくり楽しもうね!」
各々が七海へ挨拶を済ませると、俺は仲間達を『空間収納』へ飲み込んだ。
「じゃ、またな!」
「うん、お兄ちゃん。気をつけてね……」
俺は頷きながら人型に戻り、七海に軽く手を振ると部屋を後にして走り出す。
向かう先は前世の俺が居る中華料理店だ。
※ ※ ※
中華料理店に到着すると、すぐさま裏口へと飛び込む。
すると、前世の俺がコーヒーを片手に寛いでいた。
どうやら休憩中のようだ。
「おい、どうしたんだ? こんな所で……」
「急用が出来た。今すぐ帰るよ」
「今すぐだと? 何を急に……」
「悪い、話してる時間はないんだ。直接送るぞ!」
俺は前世の俺と向かい合い視線を合わせた。
直後、静電気のような刺激が全身に走り、欠損していた記憶を共有する。
「うっ! ……お、おい! 何だよ立て篭もりからの大爆発って!? それに部屋が大変な事になってんじゃないか!」
「まあ、そういう事だ! ほら、借りてたニャオンを返すぞ! じゃ、また来るよ!」
前世の俺は衝撃によろけながら状況を把握する。
俺は借りていた物を押し付けるように前世の俺へ返すと、全身炎化し飛翔する。
そして上空で振り返ると、互いに小さく手を振り合う。
「ふう、まったくお前は忙しないな。今度はゆっくりしていけよ!」
「ああ。そうだな……また来るよ」
俺は正面へ向き直ると、飛翔速度を上げていく。
慌ただしい3日間だったが、貴重な時間を過ごせたと思う。
今度は二人を異世界へ招待してやろう。
そんな事を考えながら、大気圏を突き抜ける。
――こうして俺達の地球旅行が終了した
※ ※ ※
宇宙空間を光速で飛翔中、共有した記憶を整理する。
透は相変わらず遠藤料理長から面倒事を押し付けられていたようだ。
……飛び入りで五十人の予約を押し付けられたのか。
ははっ、相変わらず人遣いが荒いな。
苦笑しながら転生前の記憶を思い出す。
最近は数十人前のコース料理なんて作っていなかった。
まあ、今の俺の能力なら百人前でも余裕で調理出来るのだが、そんな機会はなかなか来ないものだ。
腕を奮いたくてウズウズするが、ここはグッと気持ちを抑えるしかない。
そんな料理人の性を感じていると、異世界の星が見えてきた。
飛翔速度を音速まで落とし、俺達の泊まっている宿屋へ向けて降り立つ。
※ ※ ※
宿屋に駆け込むと、俺たちの取った部屋には誰も居なかった……
ひとまず仲間達を吐き出す事にする。
腹に手を突っ込み、中をかき混ぜながら仲間達を掴み上げ、思いっきり引き抜いた。
すると、いつものように仲間達が勢いよく飛び出して壁に激突する。
「ぎゃっ!」
「うわっ!」
「いたっ!」
三人が綺麗に積み重なった。
メルダは俺にジト目を向けている。
いつもの事だが気まずいな……
「つ、着いたぞ! オルガとドラムは居ないみたいだな。何処へ行ったんだろう?」
「そんなの思念通話で二人を呼べば良いんだわさ」
フォンからもジト目を向けられてしまった。
ここは大人しく提案を受け入れよう。
「そうだな! 早速呼んでみよう!」
「……トール、上手く誤魔化したわね」
「うっ!? ご、誤魔化してないぞ。……よし、二人を呼ぼう!」
《おーい! 二人とも、何処だー!?》
俺はメルダから眼を逸らしながらドラムとオルガへ向けて思念通話を飛ばした。
……だが、暫く待っても返事がない。
「おかしい。二人から返事がないぞ……」
「どうするんだわさ!? これじゃあ二人の居場所がわからないんだわさ……」
「いや、まだ方法はある! オルガはニャイに逢いに行っているはずだ! ニャイの元へ行けば何か解るかもしれない!」
「それなら直ぐにスカイラインへ行くっす!」
「そうだな! よし、お前ら掴まれ! メルダも行くぞ!」
「……わかったわ。直ぐにニャイの元へ行きましょう!」
俺達は宿屋を飛び出す。
俺はフォンとダルスを両足へぶら下げ、メルダは杖に跨り魔法を詠唱する。
こうして俺達はスカイラインへ向けて飛翔した。
※ ※ ※
俺達は人間お断りの居酒屋へ降り立った。
だが、店の扉には“準備中”の札が掛けられている。
今は昼を過ぎた頃だ。
おそらくラビは、夜の営業へ向けて仕込みをしているのだろう。
軽く扉を叩いてラビを呼び出すことにした。
「おーい、ラビ! 居るか!? 悪いが出てきてくれ!!」
だが、店内からは物音一つ聞こえない……
「……誰も居ないみたいだ。くっ、参ったな。これじゃニャイの居場所がわからないぞ!」
俺が途方に暮れていると、背後から肩を叩かれた。
振り返るとメルダが呆れた顔で俺に視線を向けている。
「ちょっとトール。あんたまさか、ニャイの家の場所を知らないの?」
「し、知らない……そうだメルダ、前にニャイと親しげに話してたよな。もしかしてお前、ニャイの家の場所を知ってるのか?」
「ええ、もちろん知ってるわよ!」
「おお! じゃあ早速案内してくれよ!」
「まったく、しょうがないわね。教えてあげるから付いてきなさい! 少しは感謝しなさいよ……」
焦るばかりにメルダへの感謝の気持ちを忘れていた。
メルダの言う通りだな。
ここは目を見て丁寧に、お礼を言っておこう。
「ありがとう、メルダ。お前のおかげで助かったよ」
「……べ、別に良いわよ。さあ、早く行くわよ!!」
メルダは顔を赤くすると、逃げるように杖へ跨り上空へと飛翔した。
ふっ、あいつ普段は研究ばかりで感謝の言葉なんて掛けられてないから照れてるな。
「……よし、俺達も行くぞ!」
「うん!」
「了解っす!」
俺はそんな事を思いながら、メルダの後に続き上空を舞う。
前回の更新から3ヶ月も間が開いてしまい、申し訳ございませんでした。
次回の更新は22日の予定です。
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