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78話 身勝手な被害者

 

 俺達は街の外れの閑静な住宅街にある公園へと避難した。

 途中、何人かのギャラリーが追いかけてきたが、メルダが密かにそいつらの足元へ結界を張って転ばせ事なきを得た。

 本当は魔法を使ったメルダを咎めるべきだろうが、ここは口に出さず心で感謝しておこう。


「何とか振り切ったな……」

「はぁ。酷い目に遭ったわね……」

「ふぅ。二人の格好がコスプレよりもリアルだったからね。人が集まるのも仕方ないよ……」


 落ち着いてきた所で七海が額の汗を拭いながら俺に視線を向ける。


「急いだら汗かいちゃった。あたし、飲み物買ってくるね! みんなの分も買ってくるから待ってて!」

「おう! よろしく!」


 七海は意気揚々と向かいのスーパーへ入っていき、俺達はベンチに座りながら一息ついた。


「アタシ、あんなに沢山の人に囲まれたのは初めてだわさ……」

「オイラは闘技場を思い出して懐かしかったっす!」


 今度はフォンとダルスが感想を口にし始めた。

 なるほど、ダルスが動じなかったのは闘技奴隷生活で多くの観客に囲まれる事に慣れていたからか。

 それとは対称的にフォンは、のどかな村の出身だ。

 人混みに困惑するのは無理もない。

 フォンには悪い事をしてしまったかもしれないな。


「悪いな、フォン。大勢に囲まれて驚かせちまったな」

「いいんだわさ。アタシも良い経験が出来たんだわさ!」


 フォンは帽子やコートを羽織りながら笑顔で応えてくれた。

 だが、写真を撮らせてしまった事は楽観視は出来ないな。

 ネットが発達した地球こっちでは、個人の持つ情報が時として凶器と成り得る。

 特に異世界と繋がる情報は、もっと慎重に扱わなければならないと改めて思った。

 そんな事を考えていると、メルダに肩を叩かれる。


「ちょっとトール! 七海ちゃん戻って来るの遅くない?」


 気付けば七海が飲み物を買いに行ってから15分が経過していた。

 確かにメルダの言う通り少し遅い気がする。

 意識し出すと気になるもので、なんだか落ち着かなくなってきた。


「そうだな……俺達も様子を見に行くか!」


 結局、俺達も七海の後を追いスーパーへ向かう事にした。


 ※ ※ ※


 俺達はスーパーの店頭に到着した。

 このスーパーは最近出来たようで建物が真新しい。

 マンションとマンションの間に建てられ、これから近隣住民に重宝されていくのだろうと推測出来る。

 店内は一階が食料品、二階は生活雑貨を扱っているようだ。

 辺りを見回しながら店内を進むと違和感に気付いた。

 店員を含めて店内に誰も居ないのだ。


「ねぇトール。ここって服を買いに行った時と同じような建物よね? 誰も居ないのって普通なの?」

「……ああ、メルダも気付いたか。普段はレジに人が立っているものだが、誰も居ないってのは不自然だな」


「なんか変な匂いがするんだわさ!」

「オイラも匂いが気になるっす!」

「匂い? どんな匂いだ?……」


「うーん。奴隷時代に嗅いだことがある気がする匂いっす……」

「アタシにはよくわからないんだわさ。不思議な匂いだわさ!」


「そうか……少し気をつけながら進んでいこう」


 俺にはわからなかったが、フォンとダルスは鼻が効く。

 異常事態が発生しているのは確かなようだ。

 不確定な事態は不安を増長させる……

 こんな真っ昼間に、こんな普通のスーパーで、一体何が起きてるって言うんだ?

 そんな事を思いながら、俺達はゆっくりと二階への階段を上がっていく……


 二階に着くと柱の影から恐る恐る売り場の様子を覗いてみた。

 すると、後手に縛られて怯えながら座らされた七海の姿が目に入る。

 他にも三人の店員が同様に縛られて座らされ、横には銃を持った40代くらいの男が辺りを見回しながら立っていた。

 尋常ではない七海の姿に、俺は咄嗟に声が漏れ出てしまう。


「ななっ! ……むぐっ!」

「ちょっと! バカじゃないの!? どう見ても七海ちゃんは人質に取られてるわよ! あの男に気付かれたら七海ちゃんが危ないわ!」


 メルダが俺の口を押さえ止めに入った。

 確かにメルダの言う通りだ。

 銃を持った男が七海を撃つかもしれない。

 迂闊に動けない所で失態を踏んでしまった。

 というか、こいつは何故銀行ではなくスーパーに立て篭もっているんだ?……

 そんな事を考えていると、男がこちらに気付いてしまい俺と目が合う。


「あっ……」

「おいっ! そこに隠れてるてめぇら! こっちへ来い!!」


「見つかっちゃったんだわさ……」

「くっ……すまん」


 男は俺達へ銃を向けながら怒鳴り散らす。


「あいつを刺激したら七海ちゃんが危ないっす。ここは大人しく出て行った方が良さそうっす……」

「そうだな……仕方ない、行こう」


 俺達なら銃で撃たれても致命傷は免れるだろう。

 だが、七海や他の人質はそうもいかない。

 俺は男を刺激しないように、ゆっくりと一歩踏み出す。

 するとメルダが俺の袖を掴んで止めた。


「ちょっと待って! 出て行く前に、捕まってる人たちに結界を張っておくわ!」

「なるほど、頼む。こうなっちまったのは俺の所為だ。あの男は俺が何とかする。メルダは七海や人質に怪我が無いように動いてくれ!」


 メルダは頷き柱の影で詠唱を開始する。


「??????」


 直後、人質の表面に薄い光の膜のようなものが現れた。

 言われなければ気付かない程の僅かな変化だ。


「これで気休め程度の防御にはなると思うわ!」

「ありがとう。メルダが居てくれて助かった」


 俺一人でも犯人を無力化させる事は出来るだろう。

 だが、人質を傷付けられずに対処するのは難しい。

 改めてメルダを連れてきて良かった。

 そんな事を思いながら、俺達はゆっくりと男の元へ向かう。


「わかったわかった。撃たないでくれ!」


 俺が両手を挙げると、三人も倣うように手を挙げて後に続く。


「よし! そのまま手を後ろに回せ! おかしな事をしたら頭を撃つぞ!」


 男が俺達を後ろ手に縛ると、隠してあったポリタンクの蓋を開け、中の液体を俺達の足元へ撒いた。

 匂いの元はこれか……

 液体は恐らくガソリンだろう。


「うっ、嫌な匂いだわさ……」

「鼻の奥に突き刺さるっす……」


 フォンとダルスはまるで玉葱を切ったように涙を流している。

 余程この匂いが苦手なのだろう。

 早く何とかしてやらなければ……

 だが、男は言動から察すると、かなり興奮しているようだ。

 下手に刺激したら火を着けかねない。

 冷静さを取り戻させる為に、男との会話を試みる。


「な、なぁあんた、なんで銀行じゃなくてスーパーなんかに立て篭もってるんだ? ここじゃ大した金は無いと思うぞ」

「オレは金目当てでこんな事をしてるんじゃねぇ! オレがここに居るのは、この店に人生をぶっ壊された恨みだ!」


 おっ、食いついたぞ!

 うまく話を進めれば、人質を開放させられるかもしれない。

 そんな淡い期待を持ちつつ会話を続ける。


「ぶっ壊された? 一体何があったんだ? 俺でよければ話を聞くぞ!」

「ふん。てめぇに話したところで気は晴れねぇ! ……が、まあ話してやる。元々オレは嫁や子供とここに住んでいた。だが、このスーパーの建設の為に無理矢理立ち退きをさせられたんだ。そして、用意された引越し先は欠陥住宅だった。住み始めてから一ヶ月で建物の至る所にヒビが入り、二ヶ月で水回りが壊れ始め、近所の奴らとのトラブルも絶えなかった。引越しのストレスで嫁はノイローゼになって子供と心中しちまった。オレは一人残され、生きる希望を奪われたんだ。このクソみてぇな再開発にな!!」


「そ、そりゃ散々だったな……だが、こんな事をしても良い事なんて無いぞ。今ならまだ間に合う。人質を解放した方がいい!」

「クソがぁぁぁぁ! てめぇにオレの何がわかるってんだ! オレはこんな店ぶっ壊してやると決めたんだ! てめぇらも道連れだ! 纏めて吹っ飛ばしてやる!!」


 くっ、言葉選びを間違えたか。

 男は更に怒りを顕にすると、売り場の四方へ乱暴にガソリンを撒き始めた。


「無関係の人にまで迷惑を掛けるなんてダサいんだわさ」

「……う、うるさいうるさいうるさいうるさい!!!! お前ら全員今すぐぶっ殺してやる!!」


 フォンの呟きがトドメとなり、男は更に怒りを過熱させた。

 もう、この男を言葉で止める事は無理だ。

 仕方ない、能力を使って止める事にしよう……


 俺が以前獲得した能力の中に、未だ使用を控えている能力がある。

 使わなかったのは機会が無いのもあるが、一番の理由は危険だと思ったからだ。

 能力の発動方法は、獲得した時点で直感である程度把握していた。

 だが、最初から使い熟せる自信はない。

 今回は初めてその能力を使用する。


「おい、紐が解けたぞ」

「何っ!?」


 男の注意をこちらに向かせる為に腕を縛るロープを引き千切った。

 すると男が反応しこちらを向く。


 今だ!

 俺は男と視線を合わせ、眼の中へ力を注ぐ。

 目に見えない力の波が、男の眼球を纏い浸透していく……




『止まれ』




 俺が使った能力、それは『思考誘導』だ。

 プルトニーを斃した時に獲得した能力だが、解除方法は能力の使用者が解除を施すか、能力を受けた者を殺すしか無い。

 使い方に慣れていない状態で、この能力を試す事はあまりにも危険だったのだ。


 ……力を注ぎ終えると、男が直立不動で静止し目から光が失われた。

 そして銃が手から離れ、床に叩きつけられる。




 ――パーン……ドォォォォォォン!!!!




 直後、銃が暴発し、火花がガソリンに引火すると、室内へ一気に炎が燃え広がり大爆発を引き起こした!

 爆風で扉や窓ガラスが一斉に吹き飛び、室内のあらゆる物が一瞬で建物の外へと弾き出された。

 天井は穴が空き、壁には棚の破片が突き刺さる。

 燃え盛るトイレットペーパーや洗剤のボトルなどの商品が飛散し至る所へ衝突する。


 俺は咄嗟に七海へ視線を向けると、メルダの結界のお陰でどうやら無事のようだ。

 人質は叫んではいるが無事なようで、ガラス片が結界に突き刺さるも怪我は無く胸を撫で下ろした。

 フォンとダルスは目を丸くしながら平然と立っている。

 この程度の爆発でダメージを負う事は無さそうだ。

 メルダは自身に結界を張っていた。

 男の姿は見当たらないが、それ以外は全員無事のようだ。


 さて、油断は出来ないぞ。

 未だに室内は凄まじい炎に包まれているのだ。

 このままではいずれ酸素が尽きてしまう……

 俺は慌てて消火を試みるが、人質の三人が俺を見ている事に気付く。

 ロープを引き千切った事で注目を集めてしまったか。

 ここで炎を吸い込めば、地球に俺の存在が広まってしまうかもしれない。

 七海だけ助けて逃げれば俺達の存在が広まる事は無いだろう。

 しかし、人質の三人は死んでしまうかもしれない。

 どうする? 情報の拡散を防ぐ為に放置するか、三人を確実に助けるか……


今回もお読みくださりありがとうございます。

ブックマークや評価を頂けると嬉しいです。


執筆中に209件目のブックマークを頂きました!

ありがとうございます!

次回の更新は29日の予定です。


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― 新着の感想 ―
[良い点] おお、珍しく今の世界で大事件ですね。 単純な戦闘ならトールの右に出るものはいないですが、立ち回りに器用さを求められるとどうか?
[一言] ううむ、これは判断が難しいところですね( ˘ω˘ )
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