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77話 ハロウィン

今回は69話の続きとなっております。

時系列が複雑で申し訳ございません。

 

 ――時は暫し遡り、トール達が異世界を発ってから3日目の朝


「んー。よく寝たっす……」

「んあ? もう朝か……」


 ダルスの声で目が覚めた俺は、寝ぼけ眼を擦りながら起床し立ち上がると、全身炎イフリート化し腹を弄りフォンとメルダを吐き出す。


「ぎゃっ!」

「あいたっ!」


 勢いよく飛び出した二人は背中を壁に打ち付けて目を覚ました。


「んーっ。叩き起こされたんだわさ……」

「ちょっと! いい加減この起こし方やめなさいよ!」

「ははっ、悪い悪い……」


 俺は二人からジト目を浴びながら、お茶を濁すようにそそくさと身支度を済ませてキッチンへと向かう。

 ダルスは見慣れたように目を擦りながら俺達の様子を眺めていた。

 キッチンでは前世の俺が朝食の準備に取り掛かっている。


「おはよう」

「おう、おはよう! もう出来上がるからテーブルで待っててくれ!」


「おう、悪いな」


 俺は食器の準備を済ませるとテーブルに着いた。

 ダルス、フォン、メルダは既に着席している。


「「ふぁ〜あ」」


 ダルスとフォンが揃って大欠伸を披露した。

 フォンは機嫌が良さそうに、ダルスは首を回しながら気怠そうにしている。


「あー。よく寝たんだわさー!」

「うー。首が変な感じするっす……」


 フォンは昨晩、酔った勢いでダルスへ盛大に告白をした後、ダルスの首を絞め落とし満足気に寝てしまっていた。

 俺とメルダはその様子を思い浮かべながらフォンの無邪気さに苦笑する。

 丁度そこへ前世の俺が料理を持ってテーブルにやってきた。


「お待たせ。朝食はこいつだ!」


 テーブルに置かれたのは、大皿に盛られたパエリアだった。

 エビや貝が散らされて、匂いを嗅ぐだけで腹が減ってくる。


「おっ、パエリアか。朝から洒落てるじゃないか!」

「うーん! 良い匂いだわさ……」

「早く食いたいっす!」

「こういう大皿に盛られた料理って唆られるわね!」


 各々が感想を口にしながらパエリアを取り分ける。


「「「「「いただきまーす!」」」」」


 皆が同時にスプーンを口に運ぶと、フォン、ダルス、メルダが目を丸くして固まった。


「「「ん!?」」」

「どうだ? 美味いだろ!」


 前世の俺が笑顔で三人を見やる。


「なんか不思議な味がするんだわさ!」

「噛むほどに味が濃くなっていくっす!」

「底の焦げた部分も美味しいわ!」


 三人は目を見開きながらパエリアを掻き込んだ。


 暫くすると、入口の扉が勢いよく開かれる音がした。


「みんなー! おっはよー!」


 七海の声だ。

 まったく、あいつは何度言っても勝手に入ってくるな……


「「おい七海! チャイム鳴らせっていつも言ってんだろ!!」」

「あはは! お兄ちゃん達、今日も息ピッタリだね!」


「「はぁ。お前はなぁ……」」


 呆れる俺達を余所に、七海は異世界人達を見回すと、フォンと目を合わせニヤニヤしながら口を開く。


「ねぇ、フォンちゃんって意外と積極的なんだね! 昨日のダルスくんへの告白、びっくりしちゃった!」


 フォンは七海と目が合うと、硬直し咥えていたスプーンがテーブルへと落ちる。


「ま、まさか、あれって夢じゃなかったんだわさ?……」


 フォンの顔がみるみるうちに青褪めていく。

 その様子に俺達三人は溜息を吐いた。


「七海、そっとしといてやれよ……いつもの事なんだから」

「また苦い思い出が増えたわね……いつもの事だけど」

「フォン、オイラ聞かなかった事にしてやるっす……いつものように」


「あっ、えっと……ごめんねフォンちゃん」


 今度はフォンの顔が紅潮し、両手で顔を隠した。

 そしてフルフルと首を振ると俯きながら叫ぶ。


「……あーん! もう、お酒なんて二度と飲まないんだわさー!!」


 ……俺は知っている。

 フォンはもう禁酒なんて出来ない事を。

 どうせまた近いうちに酒に溺れるんだろうなと思いながら、密かに横へ視線を向ける。


「「「はぁ……」」」


 すると、ダルスやメルダと目が合った。

 きっと二人もフォンの酒癖は諦めているのだろう。

 そんな事を思いながら、俺達三人は再び揃って溜息を吐いた。


 ※ ※ ※


 騒がしい朝食を終えると、俺は昨日動かせなかった3Dプリンターをテーブルに置いた。

 フォンも普段の調子に戻ったようで、興味津々に3Dプリンターを眺めている。


「さて、落ち着いたところでコイツを動かすとするか! メルダ、スマホを貸してくれ!」

「これね。はい、どうぞ!」


 メルダからスマホを受け取り、3Dプリンターの電源を入れる。

 するとランプが点滅し、ガチャガチャと左右に動き始めた。

 どうやら充電はされていたようだ。


「「「おおおおおお!!」」」


 その光景に異世界の三人が目を輝かせて凝視する。

 対して俺は、慣れない説明書を睨みながら、何とか初期設定をこなしていく。


「えー、なになに、イニシャライズが終わったら、フィラメントをセットして端末と接続させてください、接続が終わったらテストモードでプリントが開始します……っと」


 説明書の通り操作を進めると、どうにか印刷が始まったようだ。

 溶けたフィラメントが謎の物体を構築していく。


「ちょっと! トール、凄いじゃない! アンタこんなものまで動かせるの!?」

「えっ? ……おっ、おう! こんなもの朝飯前だ! 俺に任せとけ!」


 すまない、嘘をついた。

 操作の半分くらいはよく分かっていないが、運良く動いたようなものだ。

 だが、俺の態度がメルダの対抗心に火をつけてしまったらしい。

 メルダは息を荒くしながら俺に詰め寄ってくる。


「トール! あたしにこの世界の文字を教えて!!」

「あ、ああ。わかった。そのうちな……」


「絶対よ! 向こうの世界に帰ったら直ぐに教えなさいよ!」

「わかったわかった。教えてやるから落ち着けよ……」


 興奮するメルダを宥めていると、丁度試運転が終わったようだ。

 今度は3Dプリンターを眺めていた前世の俺が、部屋の鍵を取り出しテーブルに置いた。


「そういえば、お前この部屋の鍵を持ってないだろ!」

「そうだな、持ってないな」


「なら、後でお前の合鍵を作って来いよ!」

「いいのか? 合鍵なんて貰って……」


「何言ってんだ、前に(24話)も言ったろ。ここはお前の部屋でもあるんだからな!」

「そうだったな……ありがとう」


 以前も言われた言葉だが、こうして再び聞くとここが俺の居場所なのだと改めて感じ、嬉しさが込み上げてくる。

 そんな事を考えながらテーブルの上の鍵を眺めていると、ふと思い出した。


「これ、作れるぞ!」

「……は?」


 前世の俺の目が点になった。

 そして記憶を探るように上を向くと、何かを思い出したようで苦笑する。


「まさか、作るって……本当に作るのか?」

「ああ、文字通り作るんだよ!」

「なになに? お兄ちゃんどうしたの?」


 七海は状況が飲み込めないようで俺達の顔を交互に見遣り、異世界人の三人は察したように顔を見合わせた。

 俺はキッチンから使っていないステンレス製のスプーンを取り出すと、テーブルの前で全身炎イフリート化する。


「お兄ちゃん、一体何する気?」

「へへっ、少し待ってろ! 面白い物を見せてやる!」


 俺は左手にスプーン、右手に部屋の鍵を持つと、同時に腕から体内の『空間収納』へと二つを飲み込んだ。

 そして目を瞑り、炎に包まれたスプーンと鍵に視界を移す。


 まずはスプーンを包む炎へ敵意を込める。

 するとスプーンは真っ赤になりドロリと溶けた。

 次に鍵を纏う炎から顕微鏡のように鍵の形状を読み取る。

 今度は溶かしたスプーンを纏う炎を型のように変化させ、液体化したステンレスを鍵の形状へ成形していく。

 最後に真っ赤なステンレスから炎で熱を吸収し常温に戻すと、細かな傷まで再現された合鍵が完成した。

 そして2本の鍵を両手に吐き出しテーブルに置く。

 この間僅か十数秒だ。


「ほら、合鍵出来たぞ!」

「えっ? えっ? お兄ちゃん、今何したの?」


「スプーンを鍵に作り替えたんだ。これで合鍵を作る手間が省けただろ!」

「えっ、この一瞬で? ほんと、お兄ちゃんって何でもアリなんだね!」


 七海は完成した鍵を手に取り見比べると驚愕し、前世の俺や異世界の三人は苦笑していた。


 俺は人型に戻りドヤ顔をきめると、前世の俺へ元の鍵を返し、作成した鍵をポケットに仕舞う。


「ねぇトール様。昨日言ってた“ハロウィン”って何だわさ?」


 今度はフォンが不思議そうに聞いてきた。

 そういえばフォンは風習や文化に興味があるんだったな。

 本物の獣人という不安要素はあるが、この機会にハロウィンへ参加させてやろうと思う。


「ハロウィンって言うのは簡単に言うと仮装する祭りのことだ。フォンとダルスは普段の格好で参加すると良いかもな!」

「えっ? 獣人ってバレて良いんだわさ?」


「普段の格好をするのは飽くまでハロウィンの中だけだ。あたかも仮装しているように見せかけるんだぞ!」

「なるほど……わかったんだわさ!」


「ダルスも良いな?」

「りょ、了解っす!」


 二人の反応に若干の不安は残るが、まぁハロウィンなら大丈夫だろう。


「今日はハロウィンっていうのに参加するのね。面白そうじゃない!」

「ああ。ハロウィンは祭りだからな、色んな催しがあって面白いぞ! 七海も来るだろ?」

「もちろん! あたしも一緒に行くよ!」


 メルダや七海も乗り気のようだ。

 こうして今日の予定が決まった。


「じゃあ、俺はそろそろ行ってくるよ」


 気がつけば前世の俺の出勤時間になっていた。

 今日は昼から閉店までの遅番か。


「すまないな、俺達ばかり楽しんで……」

「気にすんな。存分に楽しんでこい!」


 前世の俺の出勤を見送ると、俺達はハロウィンに参加する為の準備を始めた。


 ※ ※ ※


 ハロウィンの会場に到着した。

 会場と言っても街の一角がハロウィンの為に開放されているのだが。

 辺りは仮装した人々で賑わい、屋台や店舗も軒並み繁盛しているようだ。


「わぁ……凄い数の人だわさ!」

「みんな変なカッコしてるっす!」

「これ全員人間なの?」

「今年も混んでるねー!」


 俺達は歩きながら周囲を見回し感想を口にする。

 場の雰囲気に慣れてきたところで、フォンとダルスを参加させる事にした。


「二人とも、帽子とコートを脱いで良いぞ!」

「わかったんだわさ! ……ふぃー! 尻尾が気持ち悪かったんだわさー!」

「了解っす! ……んー! 耳が涼しいっす!」


 フォンとダルスは大きく伸びをした。

 獣人は耳と尻尾が出ていないと居心地悪いのだろうか?……


「ねぇメルダちゃん。また・・スマホ貸して!」

「いいわよ。はい!」


 ここに来るまでの道中、七海とメルダは互いのスマホを操作しながら何かを話していたのだが、どうやらメルダは七海からスマホの使い方を教わったようだ。


「ここを押してカメラを起動させて、二人にスマホを向けるのよ!」

「……こうかしら?」


 カメラのシャッター音が鳴り、メルダのスマホにフォンとダルスの姿が写る。

 すると、音に気付いたフォンとダルスが画面を覗き込んだ。


「うわぁ! アタシが居るんだわさ!」

「おお! オイラも居るっす!」


 だが、はしゃぐ二人に反応したのか、周囲の人々がフォンとダルスに注目し始めた。


「ねえねえ見てあの子! キツネみたーい! かわいー!」

「ほんとだー! 凄いリアルなコスプレー!」


 道行く人が次々にスマホを向け、二人を撮り始めたのだ。

 突然の事態にフォンはキョロキョロと辺りを見回して混乱し、ダルスは両手を振り笑顔で撮影に応えている。

 そうしている間にもギャラリー達は増えていき、俺達の周りはスマホを構える人々でごった返した。


 始めは微笑ましく眺めていたが、俺の頭に嫌な予感が過ぎる。

 これ、もしかしてネットで拡散されたらまずいんじゃないだろうかと……

 人々の勢いは止まる事を知らず、遂にフォンとダルスの周りには何層もの人の輪が出来上がり、俺やメルダや七海は輪の外へと押し出されてしまった。


「お兄ちゃん、これまずいんじゃないの? ダルスくんなんて尻尾動かしてるし、拡散されたら色々バレちゃうよ……」

「だ、だよな……ここは一度離れた方が良さそうだ」


 《おーい二人とも、ひとまずここを離れるぞ!》

 《わ、わかったんだわさ!》

 《えっ!? り、了解っす……》


 二人へ思念通話を飛ばすと、俺達は逃げるようにこの場を後にした。


今回もお読みくださりありがとうございます。

今回から地の文の描き方を変更致しましたが如何でしょうか。

感想や評価を頂けますと嬉しいです。


執筆中に207件目のブックマークを頂きました!

ありがとうございます!

次回の更新は22日の予定です。


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[一言] まさか合鍵まで!w これは鍵屋さんとしてもやっていけそう!w
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