76話 格別
ドラムとラビは城を出ると、ラビの店へ向けて歩を進めていた。
「今日は大変な一日だったねえ。ちょっと買い出しに出るつもりが、まさか魔王様とお話する事になるなんて思わなかったよ!」
「うーむ。我輩もオルガがあんな事になるとは思わなかったのである……」
ラビは飄々と語ると、ドラムを一瞥し足を止める。
「それとさ、ドラム……」
「むっ? 突然立ち止まってどうしたのである?」
「アタイが魔王様へ説明する時、上手く話せなくて助けてくれただろう? 嬉しかったよ。ありがとね」
「うーむ? ラビを助けた自覚は無いのであるが……」
ドラムは顔を掻きながらラビから目を逸らすと。
「へへっ、まあいいさ。兎に角お礼がしたいから、少し店に寄っておくれよ!」
「で、ではお言葉に甘えて少しだけ寄らせてもらうのである……」
照れ臭そうにラビの誘いを受け入れるのだった。
暫くして“人間お断り”のラビの店へ到着すると、ラビは扉の鍵を開け店内へ進んでいき。
「????」
魔法を詠唱すると、店内の照明が灯る。
「さっ、入って入って! 好きな席に着いとくれ。大した持て成しは出来ないけどね!」
「うむ。ではお邪魔するのである」
ドラムがテーブル席に座ると、ラビが酒を四つ運んできた。
そのうちの一つをドラムの前に置く。
「はい、これアンタの分ね」
「うむ、頂くのである!」
そしてドラムの向かいに座ると酒を一気に煽った。
「うっ、うっ、ぷはー! 買い出しの後の一杯は格別だねえ!」
「も、もう一杯開けたのである……」
ラビの飲みっぷりにドラムは目を丸くすると、ラビは一瞬ドラムを見遣り呟く。
「……さっきはあんな事になったけどさ、オルガもニャイも無事で良かったよ。二人のアツい様子も見られたしね!」
「確かに二人が無事で良かったのである。このまま何も無ければ良いのであるが……」
「大丈夫さ。何たって魔王様が付いてるんだ! そう簡単に手出し出来やしないよ!」
「うーむ……しかし、我輩何か引っかかるのである……」
「考え過ぎさ! 少し気になると言えばオルガだけど、あれでも体を張ってニャイを護ったじゃないか! ああ見えてオルガはしっかりしてるよ!」
「そ、そうであるな! 我輩の思い違いかもしれないのである!」
「そうそう! みーんなアンタの勘違いさ! 難しい事なんて考えずに、ドーンと構えな! ドーンとね! その方がドラムらしくてカッコイイよ!」
「……カ、カッコイイのであるか?」
「しっしっしっ! 照れてんのかい? 可愛いねえ!」
「うっ、揶揄うでないのである!」
ラビは笑いながらドラムを冷やかすと、ドラムはラビの抱える酒を一つ奪い取り一気に飲み干した。
「あーっ! それアタイが飲もうとしてたヤツだよー!」
「我輩を揶揄った罰なのである! ……うっ、うっ、ぷはー!」
「ちぇーっ。アタイが飲もうと思ってたのにさー」
「拗ねたラビは可愛いのである」
「えっ、今アタイの事“可愛い”って言った?」
「いっ、いや、言ってない! 言ってないのである!」
「いーや、言った! 確かに言ったよ! アタイはしっかり聴いてたよ!」
「いーや、言ってないのである! 我輩、絶対に言ってないのである!」
ドラムとラビは顔を紅潮させながら他愛の無い会話をしつつ、目を合わせ、そして逸らす。
こうして二人の夜は更けていった……
※ ※ ※
「うっ、寝てしまったのである……」
「しっしっし。お目覚めかい? お客さん!」
ドラムがテーブルから顔を上げると、ラビが酒を片手に笑いながらドラムを見下ろしている。
「揶揄うでないのである。そろそろ……宿屋に、戻らなければ、明日に、響くのである……」
「おやおや、そんな調子で大丈夫かい? 気を付けて帰るんだよ!」
「うむ。美味い酒だったのである……」
ドラムはヨロヨロと立ち上がると、後ろ手に挨拶を交わしラビの店を後にした。
扉を開けると空が薄っすらと明るくなり始めている。
「うーむ、長居しすぎてしまったのである……」
ドラムはゆっくりと飛翔すると、宿屋へ向けて下降し始めた。
直後、轟音と共に何かが高速でドラムの背後に迫る。
「うわっ!? こんな時間に飛び方の荒い奴が居るものである!!」
“何か”は漆黒の翼を羽ばたかせ、音速に近い速度でドラムを抜き去っていった。
並のワイバーンがそれに衝突すれば、木っ端微塵にされていたことだろう。
例え身体が強化されたドラムと言えど、当たれば無傷では済まない。
「ふぅ。早く戻って一眠りするのである……」
そんな事とは露知らず、ドラムは意気揚々と宿屋へ戻ると床に就いた。
※ ※ ※
とある会議室。
「グリルよ。片付けは済みましたか?」
「はい、終わりましたじぇ……」
グリルの左手には包帯が巻かれ、表面には赤や黄色の液体が滲んでいる。
「よろしい。では褒美を与えましょう……」
サキは腹部をドロリと液状化させると、左腕を自らの体内へ突っ込んだ。
そして体内を掻き混ぜると、何かを掴み上げ、引き抜こうとする。
暫くすると、ズブブ……と水気を含む音を立てながら、服や肉が腐りかけた二人の獣人の死体を取り出した。
「さあ、お上がりなさい」
「おお、何と美味そうな獣人なんだじぇ……」
ベチョリと床に投げ出された死体を、グリルは目を輝かせながら齧り付き……
「ああ……この腐り具合、堪らないじぇ……」
足や腕や頭部を引き千切り、噛み砕き嚥下していく……
「ふぅ。サキ様の体内を通した肉は、匂い、食感、見た目の全てが格別だじぇ……」
まるでブルーチーズを堪能するように死体の香りを嗅ぎ、咀嚼音を上げながら遂に二人の亡骸がグリルの胃袋に収まってしまった。
グリルは満足気に舌舐めずりをすると、恍惚とした表情をサキへと向ける。
「はぁ〜。美味かったじぇ……」
「それは何よりです。今後も諜報に励みなさい。期待していますよ」
グリルは大きく頷くと、サキは踵を返し退室した。
そして扉越しに小声で呟く。
「あのような汚物を貪るなど、魔物とは何と下劣で醜い存在なのでしょう……」
しかし、グリルがサキの言葉に気付く事は無い。
どのような仕打ちを受けようと、餌付けされたグリルはサキに飼い慣らされていた。
こうして奇妙な主従関係が続いていく……
※ ※ ※
翌朝、サッティンバーグの宿屋にて。
「ふぁ〜ぁ。よく寝たのである……」
ドラムが大欠伸を上げながら起床した。
ふと窓を眺めると、焦るように目を見開く。
「ん!? しまった! もうこんな時間なのである! 早く城へ行かなければ!!」
時刻は昼を過ぎ、遅刻は必至だった。
慌てて身支度を済ませると、周囲に爆風を巻き起こしながら大急ぎで飛翔する。
「遅刻なのであるー!!」
音速を超える速度で上昇し、数分後、ドラムは息を切らせながらスカイラインの城門に到着した。
いつものように衛兵に挨拶をしようと門へ近付くが、普段と様子が違う事に気付く。
「むむっ? 何やら慌しいのである……」
怪訝な表情で眺めていると、笑顔で青筋を浮かべながらシェリーが城から現れた。
「妾を待たすとはいい度胸じゃのぅ?」
「うぐっ、す、すまないのである……」
「ふんっ。トールといい、お主といい、新たな魔王と配下達は弛んでおるのぅ。……まあよい。お主にも話さねばならぬ事があるのじゃ。付いて来い!」
ドラムは申し訳無さそうに頭を下げると、シェリーは溜飲を下げてドラムを城内へ連れていく。
そしてシェリーが大部屋の扉を開けると、室内には神妙な面持ちのニャイとラビがテーブルに着いていた。
「ドラムさん……」
「ドラム。アンタ遅かったじゃないか……」
ただならぬ空気に、ドラムの顔が引き締まる。
「何か……あったのであるか?」
「……昨晩、衛兵が二人やられたのじゃ」
「……ま、まさか、この城が襲撃されたのであるか?」
「そうじゃ。厳密に言えば二人は消息不明じゃな。奇妙な事に何者かが城内へ侵入した形跡はあるが、衛兵以外の被害は全く挙がっておらぬ。報告では昨晩、オルガは誰にも会っておらぬと言うておる。目的がオルガの殺害であれば辻褄が合うがのぅ……オルガと接触しておらぬとなると、侵入者の目的を調査せねばならぬのじゃ……」
シェリーの言葉に考え込むドラムだが、思うような答えが出ずにいた。
すると、ラビが恐る恐る手を挙げる。
「あのー、魔王様……」
「なんじゃ、兎の娘よ」
「もしかしたら、犯人はオルガを襲った奴とは別なんじゃないでしょうかね? アタイが見た奴は少年のように小さかったんです。そんな奴が警戒中の兵士を二人も連れ去るなんて考え難いですよ」
「ああ。それは妾も考えておった。魔物の変異個体であれば、何者かに従っている可能性が高いのじゃ。一体のみならず、複数体の魔物が犯行に及んでいるやもしれぬのぅ。少なくとも昨晩の犯人は飛行能力を持っていた事が分かっておる」
シェリーの言葉にドラムの背筋が伸びる。
「飛行能力!?」
「うむ。城門の前に飛翔跡が見つかったのじゃ。並のワイバーンであればあり得ぬ程に巨大な飛翔跡がのぅ。ワイバーンよりも遥かに巨体か、或いは高速かの何れかで飛翔した事が推測出来るのじゃ」
「高速で飛翔……我輩、昨日の帰りに高速の何かとすれ違ったのである」
「なにっ! それはどのような容姿をしておった!?」
「あれは確か、黒い翼で羽ばたいていたと思うのであるが……その、酔っていたのでよく覚えていないのである」
「酔っていた……じゃと? この大事なときに、お主は酔い潰れておったのか……」
シェリーは口元を引き攣らせ呆れながらジト目をドラムに向けた。
「す、すまないのである……しかし、そいつが兵士を抱えている様子は無かったのである!」
「うーむ、となれば何処かへ遺棄した事も考えられるが……まあよい。この話は妾の方で調査を進める事とする。一先ずオルガとの面会じゃ!」
シェリーの言葉にドラム、ラビ、ニャイが頷くと、四人はオルガの居る医務室へと向かった。
※ ※ ※
「入るぞ!」
シェリーが扉を開けると、そこにオルガの姿は無い。
「おかしいぞ。オルガが居らぬ!」
「何か嫌な予感がするのである……」
四人が室内を見回していると、ニャイがテーブルに置かれた一枚の紙に気付く。
「魔王様! テーブルに置き手紙がありますニ!」
「もしかして、この手紙……まさか、オルガは責任を感じて出てっちゃったんじゃないのかい?」
ニャイの持つ手紙には“すまない”とだけ書かれていた。
手紙を見たシェリーの顔に焦りが浮かぶ。
「なんじゃこの紙は……」
「うーむ、オルガに居処を聞いてみるのである!」
ドラムの言葉にシェリーが頷くと、ドラムはオルガへ向けて思念通話を飛ばす。
《オルガよ、何処で何をしているのである?》
《すまない……》
だが、オルガは素っ気無い返答をすると、思念通話を絶ってしまった。
ドラムは焦りながら思念通話を繰り返すが、オルガは応えない。
「思念通話が、切れたのである……」
「クソッ!!」
ドラムが言葉を言い終えた瞬間、シェリーが手紙の置かれていたテーブルを殴り粉砕させた。
「「ひっ!?」」
ラビとニャイはシェリーの様子に怯え固まった。
直後、爆音を聞きつけた兵士が跳ねるように医務室へ飛び込んできた。
「シェリー様! 今の音は一体!?……」
兵士の心配を余所に、シェリーはベッドを指差し怒声を上げる。
「おい! 見張りについていたのはお主か!?」
「はっ、はい、わたしです!」
獣人の兵士は事態の深刻さを察したようで、額から脂汗を流し、直立不動でシェリーの問いに答えた。
「貴様、オルガの看病をするように命じておったじゃろう!?」
「はいっ! 『外の空気を吸ってくる。すぐに戻るから探さないで欲しい』と言われたものですから、疲れを癒す為かと思いまして……」
オルガの“看病”を任された兵士の行動は、シェリーの命令に反してはいなかった。
兵士に非は無く、シェリーも状況は理解していた。
だがオルガの居ない事態に、遣り場のないシェリーの不満が募る。
「……くっ。奴はもうこの国には居らぬかも知れぬぞ! 探せ! 手の空いている者は全員オルガを探すのじゃ!!」
「はっ、はいっ!!」
兵士は血相を変えて医務室を飛び出すと、直ぐに兵士総出でオルガの捜索が開始された。
事の顛末を眺めていたドラムは次第に大事となっていく様子に焦り始める……
「あわわわわ。これは、マズイのである……」
ドラムは顔を蒼褪めながら、思考を巡らせる。
だが、この時点で既にドラムは冷静な判断が出来る状態では無かった。
慌ただしく走り回る兵士達を目にし、ドラムの不安がピークを迎える。
そして……
《《たっ、大変なのである!!!!》》
ドラムは全力で思念通話を放つと、気を失い倒れてしまった。
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→ 申し訳ございませんが、事情により最大2週間ほど更新を延期させていただきます。
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→お待たせしております。
次回は8日に更新致します。
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