69話 バカ狐の暴走
ちょうど前世の俺が帰ってきた。
「お兄ちゃんお帰りー!」
「おう、ただいま! ん? 夕飯作ってくれたのか、ありがとな!」
「おう! 今日は自信作だ! 早く食おうぜ!」
前世の俺はテーブルの料理に気付くと俺に視線を向けた。
金の話をするのは食事中にしよう。
そして前世の俺がキレた所で全員の協力で料理を作った事を打ち明ける。
うん、我ながら完璧な作戦だ。
そんな事を考えながら、俺は満面の笑みで前世の俺の礼に応える。
七海は俺を一瞥すると苦笑していた。
前世の俺も席に着くと、七海が全員の料理を盛り付けていく。
やがて料理が並べられると、食べ始めようとスプーンを持つ。
「「「「「「いただきまーす!」」」」」」
そして前世の俺は、牛すじカレーを口に含む。
今日のカレーはただのカレーじゃない、柔らかく煮込んだ牛すじ入りのカレーだ。
「んー!! このカレーすげぇ美味いな!!」
「だろ!! じっくり煮込んだ牛すじ入りだせ? 俺の自信作だ! で、ところでさ……」
勝った。
この時を待っていたんだ。
美味い料理で機嫌を良くして有耶無耶にする作戦を決行する。
早速、俺は金の話をしようと口を開く。
「お前に言いにくいんだけどさ……」
「ねぇねぇ、とおる様! この料理アタシ達で作ったんだわさ!! みんなで材料を切って……」
「「「「あっ」」」」
だが、フォンが俺の会話に突如割り込んできた。
「みんなで材料を切って……あっ!」
フォンも自身の失態を確認したのか口を紡ぐ。
そして前世の俺はフォンの言葉に笑顔で応える。
「おおー! そうなのか! みんな……ありがとう! すっげぇ嬉しいぞ! ……で、お前さっき何かいい掛けてたけど、どうした?」
「い、いや、実は、その……」
絶好調からの転落。
まさに八方塞がり。
展開のV字回復をする為の切り札はもう無い。
俺は諦念の表情で恐る恐る口を開く。
「実は、今日買い過ぎた」
「…………ん?」
前世の俺の纏う空気が一気に冷えた。
フォンはダルス、メルダ、七海からジト目で見られ、あわあわと動揺している。
「お前、今日いくら使ったんだ?」
「えーと、その……」
「い、く、ら、だ?」
「さ、3万くらい……」
直後、前世の俺の肩がプルプルと震え始めた。
心なしか背中に悪寒を感じる……
「お前なーーーーーー!!!!」
「ひっ……」
案の定、前世の俺の怒りが爆発する。
そりゃそうだ、逆の立場なら間違いなく同じ事をした。
俺に残された道はひたすら謝り続けるしかない。
手を合わせ、テーブルに顔を伏せながら全力で謝罪する。
「すまん! 本当にすまん!! この穴埋めはいつか必ずするから!! 今日はこの通り許してくれっ!!」
「お前なー! そんなこと言って、前回も無駄遣いしてただろ!!」
言われてみれば、前回も買い込んだ覚えがある。
前後左右どころか上空まで埋められてしまった。
「くっ! 確かに……」
「もーう、お前にはニャオン貸さないぞー! ほら、ニャオン返せ!」
前世の俺は、俺の前で手を出すと、電子マネーニャオンを要求してきた。
俺は仕方なくニャオンを取り出し、前世の俺の手に置こうとする。
「待って欲しいんだわさ!!」
その時、フォンが大声で叫んだ。
全員の視線がフォンに集中する。
「トール様は悪くないんだわさ! 今日使ったお金はアタシ達の服と、メルダの持ち物だわさ! トール様の物なんて一つも買ってないのに、トール様が怒られるのは、おかしいんだわさ!」
「フォン……」
フォンの言葉にダルスとメルダは静かに俯く。
「そ、そうっす! お金は殆どオイラ達が使ったんだから、怒られるのはオイラ達っす!」
「そうよ! あたし達の所為なの。ごめんなさい!」
二人も俺の後に続き、弁解に入ってくれた。
俺は少し目頭が熱くなる。
「「「ごめんなさい!!」」」
そして三人は前世の俺へ向け、深々と頭を下げた。
前世の俺は困惑の表情を浮かべている。
「いや、その、お前らが謝ってもなぁ……」
だが、三人を援護するように七海が口を開く。
「お兄ちゃん! 三人は折角遠い所から来てくれたんだよ! 楽しんで帰って欲しいでしょ?」
「……ん。あ、ああ……」
「だからさ、今回は許してあげてよ! あたしからもお願い! ね、お兄ちゃん!」
「「七海……」」
七海の献身的な姿勢に、俺も思わず呟いてしまった。
「しっ、しょうがねぇな。今回だけだぞ? その代わり、そっちの世界に行った時はたっぷりと奢ってもらうから覚悟しろよ!」
「おう! 任せとけ! 魔王の財力舐めんなよ!!」
俺は大きく頷くと、前世の俺の手を握る。
前世の俺は何とか今回の件は水に流してくれたようだ。
「ぷっ! そう言えば向こうのお兄ちゃんって魔王になったんだよね! あははは……お兄ちゃんがっ……まっ、魔王だって! 可笑しい! あははははは!!」
「ははっ! そうだな、コイツが魔王なんてな!」
だが、七海は俺の事を笑いやがった。
前世の俺は七海の言葉に肯首する。
おい、ちょっと待て!
「おいおい! 笑う事はねぇだろ? 事実なんだからよ!」
「だって、魔王だよ、魔王! お兄ちゃんの顔で魔王なんて似合わないよ!」
か、顔って何だよ!
俺は不貞腐れながらスッと七海から視線を外す。
「ちぇっ! 顔で決めんなよな!」
「「「「「「あははは!!」」」」」」
俺の言葉に全員が笑い声をあげた。
結局、俺は腑に落ちない思いをしたが、この場は無事に乗り切る事が出来た。
※ ※ ※
「さーて、そろそろコレを動かして見ようかしら!」
食事が終わり片付けも一段落すると、メルダがスマホと3Dプリンターを取り出した。
「アタシも、そろそろコレを飲むんだわさ!」
そして、いつの間にかフォンの片手には福引で貰ったビールが握られている。
「おいフォン、まさかそれ今から飲む気なのか!?」
「え? ダメだわさ? さっき帰ってから飲めってトール様が言ってたんだわさ?」
そんな事言ったか?
俺は記憶の片隅を振り返る。
【あー、わかったわかった。飲みたいんだろ? 帰ってから飲ませてやるから今は我慢しろよな!】
言った……
確かにさっき言った覚えがある……
フォンの顔を見ると、ビールと俺をチラチラと見比べている。
今にも飲みたいという表情だ。
フォンの悪酔いは面倒くさい……
俺は心の中で頭を抱えた。
だが、いざとなったら体内に隔離してしまえば良いのではないか?
そう思い渋々許可を出す。
「わかったわかった。飲め飲め! その代わり暴れんなよ……」
「わーい! 飲むんだわさ! いっただっきまーす!」
フォンはプルタブを起こす……事をせず、缶の上部を強靭な握力で引き剥がす。
メコリと鈍い音が響き、まるでコップで飲むかの如く缶を口元へと運んだ。
その豪快っぷりを前世の俺と七海は口をあんぐりと開けて眺めている。
「うぐっ、うぐっ、うぐっ……プハー! 異世界のおしゃけは、おいひいんだわひゃ!」
フォンは缶ビールを一気飲みすると、早くも滑舌が鈍くなり始めた。
その様子に俺とダルスとメルダは身構える。
「来るぞ……」
「今回は早いわね……」
「覚悟するっす……」
直後、フォンは静かに歩き始めると、ダルスの背後に立った。
ダルスは背筋をピンと伸ばすと、額から汗が流れる。
「ねぇダルスぅ〜」
「なっ、なんだよ……」
「アタシぃ、ダルスの事がぁ〜」
ダルスはゴクリと唾を嚥下した。
「だぁ〜い好きだわさ!!」
「ぐごぉぉぉぉ!!!!」
直後、フォンはダルスの首に腕を回すと、力任せに抱きついた。
ダルスの首はフォンの怪力で強く締め付けられていく。
その力は、おそらく車など容易く握り潰せる程だろう。
気道を奪われたダルスは徐々に顔が青くなり、遂に口を開けて気を失ってしまった。
「「ダルスぅー!!」」
「んん? あはぁ〜」
俺とメルダは白目を剥くダルスに駆け寄ると、フォンは首を傾げながらダルスを解放した。
「おい、しっかりしろ、ダルス!」
「スー、スー、スー……」
どうやら息はあるようで、俺達は胸を撫で下ろした。
ふと、フォンへと視線を向けると……
「スー、スー、スー……ダルス、だーいすき……だわさ……」
フォンは酔い潰れ、床で寝息を立てていた。
俺達は驚愕を通り越し、呆然と立ち尽くす。
「フォンちゃん、シラフで言えれば良いのにね……」
七海のツッコミに俺達は大きく頷くと、フォンをジト目で眺めながらダルスに同情するのだった。
※ ※ ※
「じゃ、明日の朝に来るからね〜」
「「おう! 気をつけて帰れよ!」」
七海を玄関まで送ると、俺達は溜息を吐く。
「ふぅ、さてと。俺達もそろそろ寝るか……」
「ふぅ、そうだな……」
俺は部屋を見回す。
結局、フォンの所為で3Dプリンターを動かす事は諦めた。
室内では既に二人が爆睡している。
まぁダルスは今回、被害者だから仕方ないが、フォンをこのままにするわけにはいかない。
「メルダ、すまないが俺の中でこのバカを介抱してやってくれないか?」
「……うん。わかったわ。任せて」
メルダはフォンを一瞥すると、苦笑しながら頷いてくれた。
俺も苦笑で返すと全身炎化し、フォンとメルダに炎を纏わせる。
「んじゃ、よろしく!」
「はーい!」
更に二人を『空間収納』へと飲み込んだ。
そして人型に戻ると、ダルスを椅子から運び床へ寝かせる。
「ふう、ダルスも大変だな……」
「ははっ、お前も苦労してんだな……」
「まあな。でもコイツらと居ると飽きないぞ!……さて寝るか。おやすみ……」
「そうだろうな……じゃ、おやすみ……」
前世の俺はベッドに、俺はダルスの隣で横になると、静かに意識を手放す。
――こうして地球旅行二日目が終了した
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次回は19日に更新致します。
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